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[コラム]「完全燃焼」を夢みた安倍晋三

登録:2022-07-14 08:32 修正:2022-07-14 08:55
日本右翼の象徴的人物であり、歴代最長在任の安倍晋三元首相が今月8日、日本奈良県で参議院選挙遊説中に銃撃を受けて死去した。写真は2012年12月26日、首相室で初の記者会見を行う様子=東京/AP・聯合ニュース

 「このままでは『敵の前で逃げた首相』といわれる。岸信介の血を受け継ぐ者として名誉を挽回すべきではないか」

 今月8日、遊説中に銃撃によって死去した安倍晋三元首相の運命を考えると、なんとも言えない気持になり、数日間なかなか眠れなかった。12日に葬式を終えた後、彼に関する本を何冊か書いた者として、国籍や善悪の二分法を越えて「客観的な」評価を残してみるのも良いと思い、この文を書く。

 67年にわたる安倍氏の人生で最も切迫した「決断の瞬間」を挙げるとしたら、2006~2007年の第1次安倍政権で悲惨な失敗を味わった後、再起を図った2012年9月末の自民党総裁選挙ではないかと思う。安倍氏は名誉回復を望んでいたが、簡単には決断できなかった。2007年7月末の参議院選挙で惨敗した後、逃げるように政権を投げ捨て、その姿があまりにも突然で拙劣だったため、まるでわがままな子どものようだという酷評が続いた。このような「黒歴史」を持つ人物が総裁に再挑戦して落選すれば、政治生命が終わるかもしれないところだった。

 その安倍氏が訪れたのは、母方の祖父、岸信介の直系議員で、自治相を歴任した吹田愰(1927~2017)だった。

 「岸先生はこうおっしゃっていた。決意して政治家になったなら、完全燃焼しなければならないと。先生は日米安保条約改正による国内の反発のため、(1960年)首相職を辞めざるをえなかった。『完全燃焼できなかった。再び首相になって憲法改正を進めたい』とよく語られていた。あなたにも心残りがあるだろう。再起して完全燃焼してはどうだろうか」

 2012年末、劇的に再び政権を握った安倍首相は、以前とは全く違う政治家に変わっていた。第1次政権時代のように理念問題にこだわらず、「アベノミクス」など庶民の肌に感じられる経済問題に集中した。韓国や中国とも衝突ばかりしたわけではなかった。尖閣列島(中国名・釣魚島)をめぐる対立で関係が悪化した中国と2014年11月に「4項目」合意を結び、日本軍「慰安婦」問題を巡る韓日の軋轢は2015年末の慰安婦合意を通じて解決しようとした。この合意を批判するには3泊4日も足りないかもしれないが、安倍首相も「日本の責任」を受け入れ、政府予算として10億円を拠出した。日本の代表右翼である櫻井よしこは憤ったあまり、「悔しすぎる」と叫ぶほどだった。今になって思えば、その合意は日本にとっては安倍氏だからこそできたことだし、韓国にとっては安倍氏だからこそ失敗したものだった。

 安倍氏は「新冷戦」の入り口に差し掛かっている東アジアで風がどこから吹いてくるのかを読み取ろうと努めた。氏がみるには、「中国の浮上」に対抗して現状秩序を守るための唯一の道は日米同盟の強化だった。首相に復帰して2カ月後の2013年2月、米シンクタンク戦略国際問題研究所(CSIS)で「日本が二流国家に墜落する恐れがある」と懸念したリチャード・アーミテージ元米国務副長官とハーバード大学ジョセフ・ナイ教授などを相手に「日本が帰ってきた」と宣言した。以後、激しい反発を退け、2014年「集団的自衛権」行使のための憲法解釈の変更を押し進め、2015年9月にはこれを具体化した安保法制を制・改定した。この過程で参議院常任委員会では強行採決に踏み切った。

 2016年11月、米大統領選挙でドナルド・トランプが勝利すると、彼の心をとらえるため、直ちにニューヨークのトランプタワーを訪れた。その後、二人の蜜月が始まった。千島列島南端の4島(北方領土)問題を解決するため、ロシアのプーチン大統領と27回も会った。文在寅(ムン・ジェイン)前大統領のことはあまり好きではなかったようだが、2018年5月の会談後には就任1周年を祝うケーキをプレゼントした(文大統領は甘いものが苦手だと言って手をつけなかった)。

 そして「歴史的な使命」である憲法改正。このために情熱を燃やしたが、2020年8月、持病の潰瘍性大腸炎が悪化し、自ら権力の座から降りた。世の中には一体なぜ大統領になったのか分からない人もいるが、政治家として「完全燃焼」のために手段と方法を選ばない人もいる。米国と同盟国を結集して朝中ロを抑制するという安倍路線は米国のインド太平洋戦略に進化したが、そのため平和な世界が実現するかは分からない。彼はしたたかで、いけ好かない人だが、信念に忠実な卓越した政治家だった。

//ハンギョレ新聞社
キル・ユンヒョン国際部長(お問い合わせ japan@hani.co.kr)
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1050774.html韓国語原文入力:2022-07-1320:25
訳H.J

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