韓米両国の北朝鮮に対する政策が迷走している。核兵器を保有する北朝鮮に対して軍事的な解決は難しく、封鎖は、北朝鮮・中国・ロシアの協力のため制限的だ。関与を政治的な理由で拒否すれば、結局残るのは無視だけだ。新しい政策ではない。オバマ政権の「戦略的忍耐」こそ、まさに無視政策だ。当初、北朝鮮が交渉に誠意を示すまで待とうという「善意の無視」で始めたが、結局は、北朝鮮の政権が崩壊するまで待とうという「敵対的無視」に流れていった。
忍耐や無視は政策の意図ではなかった。適当な対策がなく、解決の意志もなく、そうするうちに時間が流れていき作られた結果だ。対話の扉は開かれていると言葉ではいうが、無関心は対話にはつながらない。バイデン政権は2021年4月、北朝鮮に対する政策を見直し、オバマ政権の「何もしない政策」とトランプ政権の「何でもする政策」の中間を追求するとした。しかし、中国との戦略競争を優先し、北朝鮮に対する政策の優先順位が下がり、ロシアのウクライナ侵略で関心が減り、結局は無視という終点に到着した。
「善意の無視」という言葉はあるが、無視が善意であるはずはない。無視は不信のシグナルであり、相互の軍事力強化につながり、それだけ対話の余地が減る。いつの場合も、無視は対話の環境ではなく、敵対の火種だ。北朝鮮も、2019年2月のハノイ会談の決裂直後、無視に変わった。北朝鮮は、米中戦略競争では中国側に立ち、米国に対しては交渉の入り口を高め、核兵器の量を増やした。尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権が成立し、北朝鮮は韓国に対する関係を、善意の無視から敵対的な無視に転換した。朝鮮半島は、敵対的無視が相乗作用を引き起こす悪循環の局面に入った。
無視で得るものはない。無視の決定的な弱点は、時間に対する誤った判断だ。アフガニスタンのタリバンもロシアのプーチン大統領も、「米国は時計を持っているが、私たちは時間を持っている」という立場だ。権威主義政権の時間の概念は、選挙を行う民主主義の国とは違う。北朝鮮も同じだ。制裁の時間は長くなっているが、反対に、北朝鮮・中国・ロシアの戦略的利害が一致し、後ろ盾が強まった。北方の3カ国協力が強まれば、それだけ制裁の効果は減る。
北朝鮮が追加の核実験をしたり、弾道ミサイルを発射しても、制裁の追加は難しい。国連安全保障理事会の常任理事国であるロシアが、ほとんどすべての案件に拒否権を行使するからだ。さらに重要なのは、現在の北朝鮮に対する制裁が最大だという点だ。制裁は脆弱階層に対しては人道的危機を起こすが、指導部が政策を転換するほどの効果はないという弱点がある。したがって、国際社会の制裁は人道的危機の入り口を越えられない。
無視すれば必ず情勢が悪化する。過去の「戦略的忍耐」を失敗した政策と評価する理由は、結果のためだ。過去30年間で北朝鮮の核能力は着実に強まってきたので、これまでに「成功した政策」はない。ただし、交渉する時と無視する時では、北朝鮮の核能力のスピードは確実に違う。北朝鮮は過去の無視の局面の間は、「事実上の核保有」の入り口まで疾走した。また、「戦略なしの無関心」で傍観すれば、当然、核保有のラインを越えて駆け上っていく北朝鮮を見守るだけだ。
残念ながら、今は交渉の時ではない。対話の環境は相互に努力しなければならない、一方の努力では限界がある。北朝鮮が、韓国に対する関係を敵対関係と規定して統一戦線を強化し、政府レベルでの対話は困難になった。しかし、関係悪化を助長する必要はない。「北朝鮮問題」を国内政治的に活用する時でもない。北朝鮮に批判的な世論は強いが、同時に、国民の多数は政府の情勢管理能力を重視する。いつの時も「北風」が通じなかった理由だ。解決が困難な時は情勢を管理する必要がある。長期的で構造的な経済危機の暴風が集まってきている。朝鮮半島情勢の安定的な管理は、経済危機のトンネルを抜けるために必須だ。敵対的無視の悪循環を断ち切るためには、過去の失敗から教訓を探り、知恵を求め、国民的合意を集め、超党派的に協力しなければならない。
無視ではなく関心が必要だ。相手を認めてこそ交渉を始められ、問題を認めてこそ解法策を探ることができる。相手の変化を待つ必要はあるが、情勢管理の責任は我々にある。今後、分断の境界は南北朝鮮だけを分割するのではなく、東アジアを分ける。南北関係の悪化は、軍事分野の米中競争を朝鮮半島に引き込むことになるだろう。敵対的無視の未来を、私たちはすでに知っている。失敗の繰り返し、今はそれをする時ではない。
キム・ヨンチョル|元統一部長官・仁済大学教授 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )