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[コラム]「韓国は語る」をはじめるべき時

登録:2022-05-20 02:29 修正:2022-05-20 09:17
イ・ボンヒョン|経済社会研究院長兼論説委員
2017年から毎年行われている「ドイツは語る」で、考えが大きく異なる2人がペアを組んで対話している=ディー・ツァイト・オンライン//ハンギョレ新聞社

 ソーシャルメディアで何度か不快な思いをしたら「友達を削除」してしまう。すべてではない。似たような考えの人間ばかりが寄り集まって「確証バイアス」に陥りたくはなかったからだ。しかし、昨年の大統領選挙の時期、あらゆる面で私の考えと真逆の政治的主張には耐えられなかった。その人と私は異世界に住んでいた。これが共同体と言えるのか、このような社会が保てるのか心配にもなった。程度の差はあろうが、世界が直面している苦悩だ。

 ドイツの有力週刊誌「ディー・ツァイト」は、両極端ばかりに向かう遠心力を弱め、互いに対する怒りを和らげられないかと考えた。記者たちはアイディアを出した。考えの異なる人たちが互いの顔を見ながら話し合う場を作ろう。政治的敵視、移住民や少数者に対する偏見や憎悪などについて話そうというのだ。こうして、2017年に「ドイツは語る(Deutschland Spricht)」プロジェクトがはじまった。

 デジタルプログラムを作って参加者を募集した。応募してきた人に、7つの問いに「はい」か「いいえ」で答えてもらった。「ドイツは国境をもう少し強く規制すべきか、すべきでないか」といった簡単な質問だ。回答を分類し、考えに最も大きな差のある人同士でペアを組んでもらう。住む地域も考慮して対話の相手を決めた。その年の6月18日、ドイツ全域で1万2000人あまりが1対1または小人数で会い、2時間あまり関心のあるテーマについて対話した。翌2018年には「ディー・ツァイト」の他にも11のドイツメディアが共催し、2回目の大会が開かれた。参加者は2万8000人あまりに増えた。

 反応は希望の持てるものだった。参加者たちからは「アイスクリームカフェで2時間ほど話しました…最初の予想とは異なり、多くの点で意見の違いはそれほど大きくありませんでした」というような内容のEメールが「ディー・ツァイト」の編集長バスティアン・ベルブナーに送られてきた。メールには、普段は色眼鏡で見ていた相手が単なる平凡な隣人だったということに気づいた時の感想も記されていた。「ペギーダ(PEGIDA、反イスラム政治組織)の怪物や、それよりも悪いものを想像していました。その代わりに、心優しく、温かくて賢いながらもユーモラスな女性が、自転車を押しながら丘を登ってきました…私たちは似たような視点で世界を見、説明することができました」

 「ドイツは語る」の開催は続けられ、昨年までの延べ参加人数は11万5000人あまり。昨年の2万4000人あまりの参加者の半数以上が「相手の話の1つか2つは説得力があった」と答え、4000人あまりは「1つから2つの項目については、最初にチェックした答えとは異なる考え方をするようになった」と答えた。最初の2年の結果を分析したドイツのボン大学の行動経済学者アルミン・ファルク氏は「政治的に立場が完全に異なる2人がたった2時間対話しただけでも偏見が動揺し、極端な考えが和らいた。相手に対して持っていた『無能で邪悪で無知だ』という考えも弱まることを確認した」と述べている。

「米国は語る」も2021年から「全国対話週間」のある4月に行われている=「米国は語る」のワンシーンより//ハンギョレ新聞社

 ドイツの成果がもととなり、このプロジェクトは2019年に「我が国は語る(My Country Talks)へと拡大し、英国などの様々な国で「欧州は語る」が行われるようになった。同年には欧州連合(EU)加盟国を含め計33カ国で1万6000人あまりが、2020年には2万人あまりが参加した。このことが評価され、イベントを主催したメディア関係者たちは、欧州統合の父ジャン・モネを称える賞を受賞した。

 大西洋を飛び越えて昨年行われた「米国は語る」には6000人あまりがオンラインとオフラインで参加し、今年4月にも100あまりのテーマについて2回目の大会が開かれた。参加者たちは「傾聴する、経験にもとづいて話す、相手を尊重する」という対話の原則を共に読みあげ、軽い対話から討論に入った。この対話のプラットフォームは、来年には「世界は語る(The World Talks)」へと改編され、国、都市、地域、大学などの多層的な対話を組み立てる場となる。

 故金大中(キム・デジュン)大統領は、民主主義を守ろうと思うなら、せめて壁に向かって大声で叫べと言った。南北分断に続き、共同体の分断へとつながる恐れのある考え方の分裂を、いつまでもデジタルのせい、マスコミのせい、政治のせいにばかりしているわけにはいかない。何とかしようとしている人々が世界各地で対面討論を組織している。スマートフォンに向いてばかりいる顔を上げ、レスをつけていた手を止めて、互いに向き合うことだ。思ったより多くの互いの共有点を探る対話だ。今度は「韓国は語る」をはじめる番だ。

//ハンギョレ新聞社

イ・ボンヒョン|経済社会研究院長兼論説委員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1043538.html韓国語原文入力:2022-05-19 16:37
訳D.K

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