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[コラム]尹錫悦大統領は一体何をしようとしているのか

登録:2022-05-05 06:47 修正:2022-05-05 09:22
1973年にアカデミー脚本賞を受賞した映画『候補者ビル・マッケイ』は、理想の高い若き弁護士(ロバート・レッドフォード)が上院議員選挙に出馬した後、自分を見失い、選挙専門家に頼ることで勝利を収める過程を描いている。ロバート・レッドフォードは当選確定直後、彼に決定的な支援を与えた選挙専門家にこう聞く。「これから何をすれば良いのだろう」。来週発足する韓国の新政権が、国民に「一体何をしようとしているのだろう」という疑問を抱かせるなら、それは残念で不安なことだ。
尹錫悦次期大統領が今月2日午後、京畿道龍仁市処仁区中央市場を訪問し「アッパーカット・セレモニー」をしている/聯合ニュース

 尹錫悦(ユン・ソクヨル)次期大統領が2日、京畿道龍仁市(ヨンインシ)の中央市場を訪問し、「アッパーカット・セレモニー」で市民に挨拶した写真は象徴的だ。尹次期大統領はいまだに選挙遊説のつもりで国政と向き合っているのだろうか。選挙では政治的ジェスチャーや荒々しい発言が時には役に立つ。ところが、大統領に当選した後は事情が異なる。尹次期大統領は、大統領として成功するためには就任直後の100日が非常に重要であり、その100日の成功には政権引き継ぎ委時代の緻密な準備が欠かせないことに気付いていないようだ。

 2008年11月4日、米大統領選挙で勝利した民主党のバラク・オバマ次期大統領は、3日後の初記者会見でこのように述べた。「米国にはただ一つの政府と一人の大統領がいるのみです。来年1月20日まで、それは共和党政権です」。オバマは77日の政権移譲期間、権力を行使しようとしなかった。ワシントンではなく故郷のシカゴに滞在し、ひたすら内閣の人選と就任直後に推進する政策リストを作成することに集中した。そうやって国民に発表した最初の人選は、かなり成功的だった。民主党予備選で候補の座を争ったヒラリー・クリントンを国務長官に起用し、アフガニスタン・イラク戦争を遂行中のブッシュ前政権のロバート・ゲイツ国防長官を留任させた。国民の心を動かす「統合」の価値はスローガンではなく、このような実践を通じて明確に刻印されるものだ。

 尹錫悦引き継ぎ委はどうか。引き継ぎ委期間、尹次期大統領は地域の声を直接聞くと共に当選のあいさつをするという名目で、全国を回った。地方選挙への介入をめぐる議論はともかく、責任はなく権力は集中する次期大統領という時間を満喫しているようにも見える。しかし、トレードマークの「アッパーカット・セレモニー」には、もはや国民の信頼を高める効果は期待できない。就任後、尹次期大統領は国民生活をどれほど良くするのか、結果で判断されるだろう。

 新政権の苦悩が感じられない代表的な事例が最初の内閣人選だ。金泳三(キム・ヨンサム)元大統領が「人事は万事」と強調したのは、人事が国民に対するメッセージであるためだ。人事を通じて大統領が何をしようとしており、どんな道に進もうとするのか、国民と公職社会に明確に伝えることができる。ところが、尹錫悦政権の初人事から新しい変化を見出すことは到底できない。尹次期大統領が前面に掲げた「公正と正義」の価値を具現化した候補者がただの一人でもいるのだろうかと疑問に思う。

 長官候補となり、家族全体が厳しい検証にさらされ、時には滅多打ちに遭うのが当然視される時代だ。このような状況で、良い人材を抜擢するのが難しいことは理解できなくもない。それでも過去には、18部処の長官候補の中で一、二人や二、三人程度は「斬新だ」とか「何か変わるかもしれない」という感動と期待を抱かせるところがあった。しかし、新政権ではそのような人選を見つけられない。首相候補は、公職から完全に離れて大手法律事務所で高額の諮問料をもらい余生を楽しもうとしていた、言うことを聞いてくれそうな高齢の元官僚を再び起用したということ以外に、これといったメッセージは見当たらない。キム・インチョル教育副首相候補は自ら辞退したが、これが終わりではないことは国民の力の国会議員たちも知っている。チョン・ホヨン保健福祉部長官候補者をはじめ、尹次期大統領に指名された候補全員が、特恵などの疑惑から自由ではないためだ。

 就任後初の100日の重要性を浮き彫りにしたのは、1930年代のフランクリン・ルーズベルト大統領だった。大恐慌時期に就任したルーズベルトは、初期のメッセージと政策が国民の支持を引き出し、国の力を再配置するのに非常に重要であることに気づいた初めての政治家だった。今、私たちが直面している状況も大きく変わらない。コロナ禍で所得と資産格差がさらに広がり、世界的景気低迷の赤信号が灯っている。米中対立やウクライナ戦争、北朝鮮の核増強の意志は北東アジアと朝鮮半島の安定に暗い影を落としている。このような時期に、韓国はどのように活路を見出すべきなのか、新政権の人選と政策から信頼できる解決策を見つけることは容易ではない。任期を終える大統領とのあつれきは感情に触れる事案ではあるが、問題の本質ではない。尹錫悦の真の勝負は文在寅との戦いではなく、就任直後、山積した課題をどのように解決するかにかかっている。

 1973年にアカデミー脚本賞を受賞した映画『候補者ビル・マッケイ』は、理想の高い若き弁護士(ロバート・レッドフォード)が上院議員選挙に出馬した後、自分を見失い、選挙専門家に頼ることで勝利を収める過程を描いている。ロバート・レッドフォードは当選確定直後、彼に決定的な支援を与えた選挙専門家にこう聞く。「これから何をすれば良いのだろう」。来週発足する韓国の新政権が、国民に「一体何をしようとしているのだろう」という疑問を抱かせるなら、それは残念で不安なことだ。

パク・チャンス|大記者(お問い合わせ japan@hani.co.kr)
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1041581.html韓国語原文入力: 2022-05-05 02:09
訳H.J

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