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[コラム]ウクライナ戦争がもたらす陰鬱な新世界

登録:2022-04-12 03:17 修正:2022-04-12 07:53
ウクライナ戦争は、自由主義的な国際秩序の是非とは関係なしに、これに代わる秩序がはっきりしていないということを示している。この戦争は国際秩序における陰鬱なディストピアを予告する。 
 
チョン・ウィギル|先任記者
ウクライナ南部の港町マリウポリの破壊された劇場。10日(現地時間)の様子。ドローンで撮影/ロイター・聯合ニュース

 ウクライナ戦争は米国の覇権にもとづく自由主義的国際秩序の威力を遺憾なく示しているが、その亀裂も露呈している。

 戦争が勃発すると、米国は前例のない制裁をロシアに加えた。NATOなどの米国の伝統的な同盟は、この戦争を契機に再び結束しつつある。ジョー・バイデン政権は、就任後に標榜していた民主主義対権威主義の戦列を強化するのに利用している。

 しかし、米国主導の制裁の隊列には隙間も生じつつある。国連安保理の対ロシア非難決議には中国、インド、バングラデシュ、パキスタン、南アフリカの5カ国が反対し、35カ国が棄権した。投票に参加しなかった旧ソ連地域の新生国家やアフリカ諸国を考慮すれば、米国の制裁の隊列からは少なからぬ国々が抜けている。実際に、米国の友好国といわれるイスラエルを含めた中東地域の国々や、ブラジルやメキシコなども制裁に参加していないか、消極的だ。いわゆる「ミドルパワー」国家の一部が「非米的な」態度を取っているのだ。

 ドルの覇権の威力も試されている。インドは、ロシアのエネルギーを安価に輸入することを目的として、ルーブル-ルピー決済方式でロシア産エネルギーを輸入すると発表した。サウジアラビアは、中国に輸出する石油の代金の一部を人民元で決済することを明らかにした。中国がロシア産エネルギーを輸入し続けているのは言うまでもない。

 暴落していたロシアのルーブルは、ここのところ戦争前の水準にまで反発している。何よりも、欧州などに輸出するガスなどのエネルギーが禁輸されていないからだ。ロシアは価格の上がったエネルギーの輸出代金を依然として手にしている。今年下半期にはロシアがエネルギー輸出で稼いだ金は過去最高となるとの見通しもある。

 イラク戦争以降、米国が手を引こうと努めてきた中東地域での「非米的な」勢力再編もただならぬ気配が漂う。アラブ首長国連邦(UAE)は、親ロシアであるシリアのバッシャール・アサド大統領を招き、関係改善に乗り出した。米国と核合意の修復交渉を行っていたイランは、ウクライナ戦争勃発以降、条件をつり上げ、会談は空転状態に陥っている。トルコはウクライナ戦争の平和交渉を仲裁し、影響力を強めている。

 地政学者のウォルター・ラッセル・ミードが定期寄稿する「ウォール・ストリート・ジャーナル」なども、今回の制裁はミドルパワー国家などに恐怖を植え付けたと診断する。これらの国々は外貨保有高を米国などの西側の銀行にドルで預けているが、米国の制裁からヘッジングする必要性を深刻に感じているというのだ。戦争は長期化が懸念されている。米統合参謀本部のマーク・ミリー議長は議会の公聴会で、ウクライナ戦争の終結までには「少なくとも数年はかかると思う」と述べている。

 一つ目に、国際経済は深刻なコストを支払わなければならない。新型コロナウイルス禍によるサプライチェーンの混乱、食糧とエネルギーの価格暴騰、インフレは悪化するだろう。戦後もロシアのエネルギーなどを国際経済から絶縁させようとする米国の努力が続くことは明らかだ。

 二つ目に、グローバリゼーションの完全な退潮と経済のブロック化だ。戦争以前から米国は、中国を自らが主導する国際経済体制から排除しようとしていた。これから中国は、戦争の後遺症に直面するロシアを含めたユーラシア経済圏作りを急ぐだろう。インド、イラン、中東諸国も米国と中ロの間で綱渡りをするだろう。

 ハルフォード・マッキンダー、ズビグニュー・ブレジンスキーなどの西欧の古典的な地政学者たちは、ユーラシア大陸の心臓部に位置するロシアや中国がユーラシア環形地帯のイランやインドと連帯することを、米国などの西欧の覇権にとっての最大の脅威とみている。ウクライナ戦争はユーラシア連帯勢力の出現をもたらす条件となるかもしれない。

 これは冷戦時代の資本主義陣営対社会主義陣営の対決を想起させる。いや、それよりも危険かもしれない。冷戦時代には、米国とソ連は互いの勢力圏を暗黙に認め、互いに絶縁された経済体制を営んだ。ウクライナ戦争後に起こりうるブロック化で、米国は果たして中国やロシアの勢力圏を認めることができるだろうか。

 ノーベル経済学賞受賞者でコロンビア大学教授のジョセフ・スティグリッツは「プロジェクト・シンジケート」への「新自由主義者のためのショック療法」と題する寄稿で、9・11テロ、2008年の金融危機、トランプの出現、コロナ禍に続くウクライナ戦争で、最小限のコストで最大の利益を創出しようとした新自由主義、あるいは自由主義的国際秩序の基礎は崩れると指摘した。さらに大きな問題は、このような自由主義的な国際秩序の是非とは関係なしに、これに代わる秩序がはっきりしていないということだ。ウクライナ戦争は国際秩序における陰鬱なディストピアを予告する。

//ハンギョレ新聞社

チョン・ウィギル|先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1038416.html韓国語原文入力:2022-04-11 16:10
訳D.K

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