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[コラム]尹錫悦「たまたま大統領」の時代

登録:2022-04-01 07:49 修正:2022-04-01 09:36
尹錫悦次期大統領が22日午前、ソウル鍾路区通義洞にある大統領職引き継ぎ委員会の事務室で開かれた業務引継ぎ委員会の幹事団会議に参加している=共同取材写真//ハンギョレ新聞社

 尹錫悦(ユン・ソクヨル)次期大統領が、思いがけず大統領になった「たまたま大統領」だということは、周知の事実だ。朝鮮日報のキム・デジュン顧問のコラムが「まさに『たまたま大統領』になった人」だと称し、尹錫悦氏自身も何度も「国民が呼びだした」という言葉で、思いがけず大統領選挙に出ることになった状況を説明した。

 「たまたま大統領」になったということは、尹氏が大統領に要求される資質や能力を認められて当選したのではないという話でもある。彼が国政運営をうまくやれると信じて支持した国民は多くないということだ。たとえば、2月3~4日にKスタットリサーチが実施した世論調査(信頼水準95%、標本誤差±3.1ポイント)では、尹候補の支持層の64.8%は、支持理由として「政権交替のため」を挙げた。「資質と能力が優れている」は4.1%、「政策や公約が気に入った」は9.7%にとどまった。実際の投票結果も大きな違いはなかったはずだ。一次的に強硬保守層の政権奪還の欲望が彼を有力な大統領候補に浮上させ、そこに現政権の住宅価格の暴騰と増税、「ネロナムブル」(自分を正当化し他人を厳しく批判すること)に怒った民意が加勢し、「尹錫悦大統領」を作りだしたとみなせる。

 いま尹氏がみせているドタバタ劇も、ほとんどはそれによるものとみられる。準備されていなかった「たまたま大統領」が誕生したという事実自体が、彼を支持しない国民はもちろん、彼に投票した支持層さえ当惑させているのだ。

 尹氏が自身の最初の国政課題として執務室の龍山(ヨンサン)移転を押し通そうとしている姿は、彼が大統領というポストの重さについて十分に認識しているのかという疑問を呼び起こす。安全保障は、国家が国民に提供する最も本質的なサービスだ。大統領に要求される最も基礎的な「サービスマインド」もやはり、安全保障には一寸の隙も許さないという確約でなければならない。国防部と合同参謀本部の連鎖移転の問題点や大統領府の国家危機管理システムの死蔵など、各所で提起されている懸念を、「いったん大統領府に入ると、二度と出られなくなる」という奇妙な論理を掲げて繰り返し、一蹴しているのは、尹氏が大統領の基本的な責務に対する理解を欠いていることを示す。

 「帝王的大統領」から抜けだし「脱青瓦台(大統領府)」を推進する過程で、逆に拙速とコミュニケーションの欠如という帝王的な態度を示した問題点については、改めて取り上げる必要もないだろう。ただし、当初は尹氏が「警護の問題や外賓との会談の問題は、十分に検討した。すぐに政権引き継ぎ委員会の段階で準備すれば、任期初日から光化門(クァンファムン)の執務室に行き、勤務することが可能だ」と断言しておきながら、当選の3、4日後には警護と市民の不便などを問題視し、龍山に移転場所を変更したことについては、明確に指摘しておかなければならない。「言葉の言い換え」を越え、初めから龍山を念頭に置き、選挙期間中には国民が受け入れやすい「光化門」を語ったのではないかという疑いを呼び起こすからだ。どちらにしても、まず謝罪からしなければならない。しかし、尹氏はありふれた遺憾の意の表明さえせず、「決断」という言葉で自らを持ち上げるばかりだ。これも、国民の意見を十分に取りまとめ透明な議論を経て国家議題を決めなければならないという民主主義国家の政治指導者の姿勢について、真剣に熟考した経験を持てないまま「たまたま大統領」になったことがもたらした問題だとみなさざるをえない。

 尹氏が龍山移転に執着し、当選後の最初の3週間の「ゴールデンタイム」を逃してしまったのは、彼はこれ以外に国民に出せる明確なビジョンや国政課題を持っていないからだ。政権を取りはしたが、肝心の内容である、どのような国と政府を作り国民の生活を向上させるのかについては、自らも五里霧中であるためみせている姿だ。中が空っぽな「政権交替」のスローガンだけで当選した大統領の根本的な限界だ。彼が国民の実際の生活に直結する国政分野において少しでも準備していたならば、今のように不必要な議論を引き起こし、貴重な国政動力をむだ使いすることはなかっただろう。

 尹氏の周辺に直言をはばからない「レッドチーム」がみられないという点は、「たまたま大統領」の時代を迎える不安と懸念をいっそう強める。政治の初歩であるコミュニケーションの欠如の歩みを止めるどころか、「権限を放棄するという固い意志」(クォン・ソンドン)、「国家の未来のための決断」(キム・ギヒョン)などと称賛するばかりの人々しかいない。このままこんな状態が続くのであれば、いつかは国民が声を上げることになるはずだ。

//ハンギョレ新聞社

ソン・ウォンジェ|論説委員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1036736.html韓国語原文入力:2022-03-30 02:31
訳M.S

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