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[寄稿]大韓民国は先進国になったが

登録:2022-01-25 07:37 修正:2022-01-25 08:47
イ・ガングク|立命館大学経済学部教授
国連貿易開発会議(UNCTAD)が昨年7月2日(現地時間)、韓国の地位を発展途上国グループから先進国グループに変更した。イ・テホ駐ジュネーブ韓国代表部大使が第68回UNCTAD貿易開発理事会で発言している=外交部提供//ハンギョレ新聞社

 昨年7月、国連貿易開発会議(UNCTAD)は1964年以来初めて、大韓民国を先進国に分類した。60年前はアフリカの国々より貧しかった韓国が、これにより西欧の先進国と肩を並べることになったのだ。2020年の経済規模は世界第10位になり、先進国クラブである主要7カ国(G7)会議にも招待された。すでに購買力平価基準での1人あたりの国民所得は、フランスなどの欧州各国や日本より高くなり、市場為替レートに基づいても、数年間はさらに高くなる見通しだ。世界の数多くの開発途上国のなかで先進国に追いついた国家は極めて珍しく、外国でアジアやアフリカの学生を教えている筆者としては非常に嬉しいことだ。

 しかし、最近の韓国のニュースを聞くと、先進国の栄光の後ろで遮られた闇が今もなお大きく見える。先日は光州(クァンジュ)のマンション工事現場でマンションの外壁が崩壊し、下請業者の労働者1人が死亡し5人が行方不明の状態だ。ポスコの浦項(ポハン)製鉄所でも、30代の下請労働者が大型機械にぶつかり命を失った。2020年も1日平均2.4人の労働者が職場で労働災害により死亡した。2017年の全労働者に対する労災死亡率は、経済協力開発機構(OECD)の先進国のなかで3位であり、特に建設産業での死亡率は、労働者10万人あたり25.5人とOECD平均(8.3人)よりはるかに高く、最高を記録した。

 他の先進国と比べると、韓国は、経済成長率と生産性、そして賃金上昇率が極めて高く、新型コロナウイルスに対する防疫も最も優れた水準にある。しかし、可処分所得の格差と相対的貧困率は最も高い軸に属しており、高齢者の自殺率は最も高く、出産率は世界最低水準だ。国内総生産に対する社会福祉支出の割合は急速に増加しているが、2019年時点で約12%であり、OECD平均(約20%)の半分の水準に過ぎない。そのうえ、炭素排出の増加率は先進国のなかでは最も高く、削減努力も足りないため気候悪党国家と呼ばれている。韓国人は確かに過去よりはるかに豊かにはなったが、はたしてより幸せになり、韓国社会もより暮らしやすい所になったのだろうか。

 昨年11月に発表されたピュー・リサーチ・センターのアンケート調査は、人生を意味あるものにする要因について、先進国17カ国の市民に質問した。大半の国では家族が1位であり、平均的には、家族、職業、物質的な幸福の順だった。しかし、唯一韓国人だけが物質的な幸福を1位に選んだ。もちろん他の国々でも物質的な幸福は重要ではあったが、彼らは別の要因の方がより重要だと答えた。この調査は記述式で自由に答えられる質問だったが、特に韓国人は一つの要因だけを答えた人が多かったという点で、解釈には留意しなければならないだろう。しかし、国際的に見たとき、韓国人が特に物質的な要因を重要だと考えているということをうかがい知ることができる。

 このような結果はおそらく、激しい競争と各自の生き残りのなかで人生の不安が強い現実との関連が大きいだろう。韓国は急速な経済的成功を成し遂げたが、既得権益が強固であり、社会的な信頼と連帯、そしてセーフティーネットが足りず、上位10%の城の内と外の人々の間で格差が激しい社会だ。結局、安定した大企業や公共部門の正規職員ではない多くの人々は、絶えず不安に苛まれ、彼らの子どもたちはスタートラインから劣っていると感じている。これは、集団自殺社会とまで言われる極端に低い出産率につながっている。幸運のもとに生まれた韓国の子どもや青少年も、他の先進国と比較する場合、幸福度が極めて低いということがよく知られている。

 先日、与党の大統領候補は国民所得5万ドルを公約に挙げた。しかし、持続的な経済成長も重要だが、すでに先進国になった韓国においてそれよりさらに重要なのは、韓国社会に足りない部分を満たすことだろう。筆者を含む多くの人々は今回の大統領選で、深刻な不平等と人口問題、そして気候変動危機についての対応といった大きな話が出てくることを期待していたはずだ。また、既得権益の解体と公正な競争のための努力や、技術と労働の変化に対応する政策についても聞きたかったはずだ。しかし、現在の与野党の候補の選挙運動と公約を見ていると失望は大きい。

 時々、私の教え子たちは、まぶしい経済成長を成し遂げた韓国をうらやみ、現在の韓国の状況について尋ねもする。みんなが安全で幸せな先進国を作るために、韓国人は今も一所懸命に努力していると答えることができればと思う。

//ハンギョレ新聞社

イ・ガングク|立命館大学経済学部教授 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1028622.html韓国語原文入力:2022-01-25 02:34
訳M.S

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