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[寄稿]「キルチェーンによる先制攻撃」、金正恩委員長があざ笑う

登録:2022-01-14 04:09 修正:2022-01-16 21:51
キム・ジョンデ | 延世大学統一研究院客員教授
北朝鮮の「労働新聞」は12日、「金正恩朝鮮労働党総書記兼国務委員長が11日、国防科学院で行った極超音速ミサイルの発射実験を視察した」と報じた/朝鮮中央通信・聯合ニュース

 韓国で北朝鮮の核ミサイルを制圧する「キルチェーン(Kill Chain」の概念が初めて出現したのは、北朝鮮の延坪島(ヨンピョンド)砲撃で国内外が騒然としていた李明博(イ・ミョンバク)政権時代だった。新たに赴任したキム・グァンジン国防部長官(当時)が北朝鮮の核に対応する概念を急いで作るよう指示し、国防部の実務陣が急遽発表した概念だ。通常、敵のミサイル攻撃は「準備→発射→上昇→下降」という段階になるが、発射より左側にある準備段階の兆候を把握し、あらかじめ制圧してしまう「発射の左側」(Left of Launch)能力がキルチェーンの中核をなす。30分以内に探知から制圧までを完了することを目標とする先制攻撃の概念だ。

 当時、合同参謀本部は「(キルチェーンに向けた)能力がまだ備わっておらず、実現が不可能な概念を採択すれば、軍の戦力が大きく歪曲される」として、キルチェーンに反対した。しかし、国民に何かを示さなければならないという必要に迫られ、国防部はキルチェーンを導入すると発表してしまった。その後、韓国軍は偵察衛星とミサイルを確保し、その能力を保有するという計画を進めてきたが、まだ完成にはほど遠い。今月5日に北朝鮮が発射した円錐型の極超音速ミサイルについても、韓国軍は速度や飛行軌跡、弾頭の種類など、いずれも分析できなかった。韓国政府がまともな技術資料もない状況で、「極超音速ミサイルではなく、弾道ミサイル」として北朝鮮の飛翔体を否定する発表をしたことで、これに反発した北朝鮮が11日、極超音速飛翔体と類似した別のミサイルを発射する事態に至った。これがまさに現在の韓国の技術の限界だ。

 キルチェーン概念を根拠に最近、国民の力のユン・ソクヨル大統領候補は、北朝鮮がマッハ5以上の速度で飛行するミサイルを発射すれば空中防御が不可能なため、「先制打撃以外には方法がない」と述べた。しかし、ユン候補が勘違いしている点がある。2010年に出たキルチェーン概念は、北朝鮮の主力ミサイルが「液体燃料」と「固定式発射台」を必要とすることを前提としたものだ。それから12年が経過した今、北朝鮮のミサイルは「移動式発射台」でも発射できる「固体燃料」方式に急速に変わっている。北朝鮮は金正恩(キム・ジョンウン)時代に入り、すでに露出した軍事基地で30分以上液体燃料を注入してミサイルを発射する従来型の攻撃方式を廃棄して久しい。韓国の情報資産では北朝鮮のミサイルがどこから発射されるか把握するのが困難であり、燃料注入という準備段階を必要とする液体燃料方式のミサイルでなければ、キルチェーンは役に立たない。もし液体燃料のミサイルだとしても、事情は変わらない。北朝鮮は5日、新しいミサイルの発射実験で「アンプル化した燃料」を実験したと発表した。これが事実なら、今後、北朝鮮のミサイルを「発射の左側」から探知するというのは、実にロマンチックでナイーブな考え方といえる。

 最近、合同参謀本部の若手幹部たちも、北朝鮮のミサイルは(能力の高度化で)準備段階が省略されているため、キルチェーンは時代遅れの概念だという。このため、米国も既存のキルチェーンではなく「キルウェブ」(Kill-Web)という新しい概念に切り替わっている。これは数百の低軌道群集衛星や大容量のデータ通信、敵のミサイル発射台を追跡して撃破する自律兵器などで構成された未来の戦争遂行能力だ。一国の指導者になろうという人物なら、北朝鮮の先制攻撃について言及する前に、いかなる手段と方法でいかに標的を打撃するのか、軍が準備を整えられるのか、そしてその効果はどのように評価するのかなどは、事前に検討する誠意は見せなければならないのではないか。

 口先だけの対北朝鮮強硬発言は、聞こえが良く、票を集めるのに役立つかもしれないが、真摯さに欠けるだけではなく、実体もない、安保ポピュリズムにすぎない。韓国政治指導者の資質と水準を露呈するこのような発言を聞いて、北朝鮮の金正恩国務委員長はむしろ笑みを浮かべているかもしれない。かつての朝鮮半島は、南北が黒石と白石を交互に置く固定された碁盤だったが、今は碁盤そのものが動くモバイル戦場だ。北朝鮮の軍事基地と飛行場をいくら爆撃しても、罪のない人が死ぬだけで、戦争の様相は変わらない。元軍将官や安保専門家らが多く集まっているユン・ソクヨル陣営で、これが理解できなかったとすれば、実におかしい話だ。時代遅れの軍事概念を持ち出して、それがまるで国民の安全を守るかのように言うのが果たして責任ある行動なのか、ユン候補と国民の力は十分に省察しなければならない。

//ハンギョレ新聞社
キム・ジョンデ | 延世大学統一研究院客員教授(お問い合わせ japan@hani.co.kr)
https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1027195.html韓国語原文入力:2022-01-13 18:52
訳H.J

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