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[朝の陽射し]イ・ゴンヒの財布/チョン・ソック

原文入力:2010-01-26午前10:25:33(1619字)

←チョン・ソック選任論説委員

小説家 崔仁浩(チェ・イノ)が長編小説<商道>を出したのはすでに10年前の2000年だ。彼は理念も国境も消えた‘経済の世紀’である21世紀には、新しい経済哲学が誕生しなければならないと考えてこの小説を書くことになったと明らかにしたことがある。政経癒着,不正腐敗のような非正常的な方法で成長してきた韓国企業人に模範とするに足る歴史的人物を示すことにより‘経済の新哲学’を提示しようとしたのだ。

崔仁浩が手本とした人物は朝鮮時代の巨商だった林尙沃(イム・サンオク)だ。 小説は林尙沃が死ぬ直前に残したという‘財上平如水 人中直似衡’というテーマを中心に展開する。‘財物は水平になることが水の如く、人は直なのが秤と同じだ’という意のこの言葉は彼の商業哲学をよく示す。彼は財物とは水と同じように流れるものなので私の手の中に入ってきた財物もしばらく留まっているに過ぎないと見た。財物に対する欲を離れて商売をした林尙沃はその全盛期に事業から手を引き全財産を社会に還元した後、詩と風流を楽しみ老後を送ったという。

崔仁浩が作家的想像力を発揮し小説形式を借りて林尙沃の事業原理に光を当てたとすれば、経済学者のクォン・ミョンジュン延世大教授は学問的接近を通じて林尙沃の経済哲学を分析した。クォン教授は林尙沃の‘財上平如水 人中直似衡’に21世紀の企業家精神と倫理経営のモデルを求めようと試みた。彼は<巨商 林尙沃の商道経営>(2002年)で財物の特性、すなわち事業の原理が水の特性と同じだと解釈し、水の特性を‘均衡’と‘節制’として把握した。したがって事業も節制と均衡を持って長期的に追求すれば、水と同じように永続的に流れる生存力を持つようになると見た。

林尙沃がそのようにしようと思った‘水’は老荘思想で道義の最高象徴だ。老子は<道徳経>で最も立派なものは水のようになることで、従って水は道に最も近いものだと言った。水は常に低いところへ流れ、あらゆるものを利する。財物も水の特性があると見るならば、低いところ(持たざる人々)にまんべんなく広まり貧富の均衡を適切に捉える役割をするのが当然な道理だ。

来月、生誕100年となる故イ・ビョンチョル三星グループ創業者の足跡を著した記念パンフレットの題名が<淡淡如水>という。本の題名のとおり、彼が果たして林尙沃のように、水の如く淡々と生きたかは各自が判断する問題だ。だが創業者から事実上、全財産を受け継いだイ・ゴンヒ元三星会長の最近の行動は水のように欲を離れて生きていくこととは距離が遠く見える。

崔仁浩は<商道>でキピョングループの総帥キム・ギソプを登場させ話を解いていく。‘インタビューはもちろん写真を撮られるのも嫌いな’キム会長は速度制限がないというドイツの高速道路アウトバーンでフェラーリF40を駆り命を賭けた競走を楽しむスピード狂として描写される。自動車に狂っていたキム会長は21世紀を目指し作った新車‘イカロス’に乗りアウトバーンを疾走し、交通事故で死亡する。彼のポケットから出てきた古い財布の中には、弐角(20ウォン)中国紙幣1枚と‘財上平如水 人中直似衡’という字句が書かれた紙切れが入っていた。彼は林尙沃を企業経営の師匠として私淑していたのだ。

単独特別赦免後1ヶ月にもならず経営復帰を "考慮中" というイ前会長は、財布に何を入れているのだろうか。癌と戦っている崔仁浩先生、早く元気になって彼の財布の中に何が入っているのか確認してみたくありませんか。

チョン・ソック専任論説委員 twin86@hani.co.kr

原文: https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/401054.html 訳J.S