ヌリ号が初めて宇宙に旅立った10月は、世界の宇宙開発史において大変意味のある月だ。
4日は1957年にソ連が世界初の人工衛星で宇宙時代を開いた日だ。1週間後の10日は1967年に宇宙探査・利用に関する「宇宙条約」が発効された日だ。国連はこの両日をつなぐ10月4~10日を世界宇宙週間として記念している。今年10月にも新しい宇宙記録が出た。宇宙で初めて長編映画が撮影され、宇宙飛行の最高齢記録が90歳に更新された。韓国も10月の宇宙カレンダーに「世界で7番目に1トン以上の実用衛星級打ち上げた国」として記録されるところだった。最後の瞬間に挫折してしまったが、宇宙飛行のお膳立てを揃える成果を収めた。技術移転が禁止された分野で、独自にこれだけやり遂げたことだけでも、十分意義がある。次は軌道配置という画竜点睛の瞬間が訪れることを期待する。
宇宙ロケットは、宇宙開発で最も重要なインフラだ。ロケットに何を搭載するかによって、安全保障から経済、環境まで様々な形で活用される。破壊と繁栄が共存する二つの顔の技術だ。
宇宙は20世紀後半以降「パックスアメリカーナ」の新しい地政学のツールとして浮上した。宇宙の地政学的価値はますます重要になるだろう。最近、主要国が宇宙に注ぐ熱意がこれを予告している。オバマ大統領の宇宙法(U.S. Commercial Space Launch Competitiveness Act、2015)の制定とトランプ大統領の宇宙軍創設は、米国の宇宙覇権をさらに強固にするという意志の表現だ。
だからこそ、地上の米中対立が宇宙に拡張していくのは当然の帰結だ。米国家情報局が「同級に準ずる競争者」と評価した中国の宇宙崛起には目を見張るものがある。米国もまだ行ったことのない月の裏面に探査船を送り、月の岩石標本も持ち帰った。初の火星探査で軌道船と着陸船、探査車を同時に送り出すことにも成功した。米国のGPSに対応した衛星航法システム「北斗」を構築し、米国のスターリンクに匹敵する低軌道衛星インターネット網の構築も始めた。宇宙ロケットの打ち上げ回数でも米国と首位を争っている。来年完成する宇宙ステーション「天宮」は、中国の宇宙崛起の象徴と言える。米国が主導した現在の国際宇宙ステーションは、数年内に運営期限を迎える。人類の宇宙活動の前哨基地が天宮しかない状況になるかもしれない。
米中が未来の宇宙地政学を図る最前線の一つが月だ。米国は新しい月着陸プログラムをきっかけに、多くの国と「アルテミス協定」を結んでいる。しかし、同協定に含まれているのは月に関する内容だけではない。宇宙物体の登録や科学情報の共有、宇宙インフラの相互運用、有事の際の支援など、宇宙活動全般に関する協力条項が盛り込まれている。宇宙地政学の新しいプラットフォームにしたいという意図が読み取れる。これまで韓国を含め12カ国がこの協定に署名している。中国は最初から排除され、ロシアは宇宙版NATO(北大西洋条約機構)のようだとして、参加を断った。アルテミス協定に対抗し、米国と対立している両国が意気投合した。月軌道や表面に「国際月科学基地」を作ることにし、すべての国に門戸を開いた。月が宇宙をめぐる勢力争いの中心舞台に浮上したわけだ。アルテミス協定への参加は、単なる協力を超え、米国が主導する宇宙秩序に入るという意味でもある。
ヌリ号の成功は韓国の地位を高め、韓国により多くの機会を与えるだろう。しかし、他方ではさらに激しい対立や危険にさらすきっかけにもなりかねない。朝鮮半島の周辺4大国は、世界の宇宙4大国でもある。韓国の宇宙開発をめぐる利害関係が、それだけ複雑に絡み合う恐れがある。力が大きくなれば、それに伴う責任も大きくなる。ヌリ号以降の宇宙地政学の波風にも備えなければならない。