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[寄稿]敵対関係を「リセット」しなければならない

登録:2021-10-25 04:53 修正:2021-10-25 07:44
核兵器とミサイルが脅威になったり安全弁とみなされたりするのは、結局はその保有国との関係性で決まることだ。敵対的な関係のなかでは、互いに相手国を「敵国」とするアイデンティティを構成するからだ。この問題を乗りこえるには、アイデンティティを新たに構成するしかない。敵対的関係を“リセット”しなければならない。 
 
ソ・ジェジョン|国際基督教大学政治学・国際関係学デパートメント教授
ソ・ウク国防部長官が21日、ソウル汝矣島の国会で行われた国会国防委員会の総合監査で答えている/聯合ニュース

 英国は冷戦期に550発を超える核弾頭を保有していたが、米国はこれを脅威とは考えなかった。1952年の核実験を皮切りに45回にわたり核実験を行ったが、これを挑発とは規定しなかった。それどころか米国は、英国の核兵器開発を支援し、英国の核兵器生産が遅延していた時期には、米国の核兵器を英国軍に提供する寛大さを示した。

 北朝鮮は6回の核実験を実施するたびに「挑発」だと批判され、国連の制裁を受けた。現在数十発程度と推定される核弾頭は、深刻な安全保障上の脅威とみなされている。北朝鮮が核弾頭を投下可能な手段であるミサイルと潜水艦を開発することも、重大な安全保障上の脅威だと受けとめられている。当然、ミサイル防御と「敵基地攻撃能力」が、安全保障のために必要だと認識されている。

 「なぜ、そうなるのか」。米国の国際政治学者のアレクサンダー・ウェントが問うた。おそらく大韓民国と米国における大半の市民が当然と考えるこの見方に、疑問を投げかけたのだ。核兵器そのものだけを見ると、都市一つを破壊し、途方もない人命を殺傷することが可能な大量破壊兵器だ。誰が保有しているのかにかかわらず、多くの人々を殺傷しうる能力を持つ「物」である核兵器だが、なぜ、その社会政治的な意味は正反対に認知されるのだろうか。

 チョ・ウィヨン外交部長官が、国会の外交統一委員会の総合監査で答えた。「北朝鮮の軍事的示威は、明確に国連安保理決議、すなわち国際法に違反したものだ。私たちは、国際法の枠内で兵器体系を開発している」。北朝鮮が核兵器を開発することは、核拡散防止条約に違反するものであり、国連安保理決議に違反するものだ。北朝鮮が弾道ミサイルを試射することも、安保理決議に違反するものだ。すなわち、国際法に違反したので、挑発だということだ。国際法の枠中でなされた英国の核兵器開発とは違い、韓国のミサイル発射実験とも違うということだ

 一次元的な答えだ。事実関係を正確に伝えたものだが、そのように事実だけを並べると、もう一つの別の質問には答えられないからだ。同じ核兵器であり同じミサイルであるのに、なぜ一方は合法で他方は挑発なのか。

 ウェントは、構成主義の国際政治学理論を体系的に発展させた彼の名著『国際政治の社会理論』で明快に論破する。その答えは、国家のアイデンティティにある。私たちは、長期間の相互関係の集積物により、国家に対するアイデンティティを共有している。大韓民国では米国は「同盟国」というアイデンティティが最も目立つ。そのため、米国が保有している物々しい破壊力は、大韓民国の安全保障の柱だと認識されている。米国の核兵器は韓国の安全であり、英国の核兵器は米国を守る手段だ。

 その反面、韓国と米国にとっては北朝鮮はともに「敵国」だ。北朝鮮は韓国に攻め入った侵略国であり、虎視眈々と侵略の好機を狙う敵だ。北朝鮮のアイデンティティが敵国である以上、その手に木の枝1本でも持っていれば、こん棒に見えざるを得ない。木の枝ではなく核兵器であれば、なおさら言うまでもない。韓国には生存を脅かす兵器となり、米国には国家の安全に挑戦する手段とみなされることになる。

 核兵器とミサイルが脅威になったり安全弁とみなされるのは、結局はその保有国との関係性で決まることだ。敵対的な関係のなかでは、互いに相手国を「敵国」とするアイデンティティを構成するからだ。ウェントの言葉どおり、結局はアイデンティティが問題なのだ。

 この問題を乗りこえるには、アイデンティティを新たに構成するしかない。敵対的関係を“リセット”しなければならない。終戦宣言の重要性は、それがこのリセットの過程の出発になりうるからだ。もちろん、宣言だけでは関係は新たに構成されはしない。恋愛して喧嘩した恋人が、仲直りを宣言しただけで関係を回復できるというわけではないのと同様にだ。双方が多くの努力をしなければならない。

 ソ・ウク国防部長官が、北朝鮮の潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の発射を「挑発」だと呼ばずに慎重に発言したことは、極めて重要だ。しかし、十分ではない。大韓民国が開発している兵器体系は北朝鮮を念頭に置いたものではないと宣言すれば、北朝鮮は安心するだろうか。韓米合同軍事演習は北朝鮮を狙ったものではないと発表すれば、もはや心配する必要はないという人が、北朝鮮に何人いるだろうか。敵対する意思がないとバイデン政権の官僚が発言すれば、すでに平和が来たと信じる人が北朝鮮にいるだろうか。

 金正恩(キム・ジョンウン)国務委員長が「我々の主敵は戦争そのものであり、南朝鮮や米国などの特定のどこかの国家や勢力ではない」と宣言したことは重要だが、その一言でただちに平和な世界になりはしないのではないか。韓国も北朝鮮も米国も、敵対関係をリセットするための行動を示さなければならない。

//ハンギョレ新聞社

ソ・ジェジョン|国際基督教大学政治学・国際関係学デパートメント教授 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1016388.html韓国語原文入力::2021-10-25 02:33
訳M.S

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