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[コラム]「人生は羅生門」という世界観に抗う勇気

登録:2021-09-17 04:58 修正:2021-10-02 16:52
キル・ユンヒョン|国際部長
映画『金城大戦闘』のポスター//ハンギョレ新聞社

 10年あまりの間、毎日のように国際ニュースに接していて私が悟った「教訓」は、世界のあらゆる地域の歴史はそれなりに曲折が多く、複雑だというものだ。数千年にわたって人間がもみ合いながら生きてきた過程で、筆舌に尽くしがたい数多くの悲喜劇が繰り返されてきたはずだから、詳しい事情を知らないまま一言二言付け加えたら、誰かを大きく傷つけることにもなりうる。世界秩序を左右する米中戦略競争も、大小のテロが続く中東の軋轢も、韓中日3カ国がもみ合ってきた東アジア史もそうだ。アフリカの部族間のミクロヒストリーも、詳しく見れば果てしなく複雑に違いない。

 このように考えた末にたどり着いた私なりの結論は「人生は羅生門だ」というものだ。『羅生門』は、韓国でも芥川賞でよく知られている芥川龍之介(1892~1927)の小説を、巨匠黒澤明監督が1950年に劇化した白黒映画だ。この映画の主なメッセージは、世の中は固定不変の真実ではなく「各自の真実」で構成されているというものだ。盗賊は自分が正々堂々と侍の妻を取ったと言い張り、妻は女性の貞節を守るために努力したと主張し、霊として召喚された侍の魂は最後の自尊心である武士の面目を守ろうとする。

 個人にも自分のすべての実存をかけて保つべき「立場」があるものだが、ましてや国と国のアイデンティティがぶつかる歴史観の領域に至れば、和解と妥協の可能性は大きく低下してしまう。韓国映像物等級委員会が先月30日に、中国映画『金剛川』(韓国語タイトル『1953金城大戦闘』)に「15歳以上観覧可」という等級をつけたと批判する記事を朝鮮日報が7日の1面に掲載したところ、多くの批判が巻き起こった。映画が描く金城戦闘とは、1953年7月の休戦会談の大詰めの段階で、韓米両軍と中国共産軍が繰り広げた「最後の決戦」だった。李承晩(イ・スンマン)大統領が休戦会談を妨害するために、1953年6月18日に送還を拒否する「反共捕虜」などを突然釈放すると、怒った毛沢東は報復を指示した。朝中連合軍司令官の彭徳懐が6月20日に「李承晩の韓国軍に打撃を与え、韓国軍1万5000を殲滅する」ことを伝える電文を送ったというのは有名なエピソードだ。

 しとしとと小雨が降る中、7月13日午後9時に始まったこの戦闘で、韓国はそれまで占領していた中部戦線の「金城(クムソン)突出部」を失った。しかし、一方的に敗北した戦闘ではなかった。彭の公言どおり、国軍の公式の人命被害は1万人を超えたが、1952年4月に再創設された第2軍団は粘り強く抵抗し、戦線崩壊を阻止し、攻勢に転ずることに成功する。中国共産軍の犠牲者は国軍の2倍ほどに達するという。当時、米第8軍の司令官だったマクスウェル・テイラーは韓国軍の活躍について、「深刻な打撃を受けたが、再び戦える能力を示してくれた大韓民国陸軍の卒業式」と評価した。

 凄絶だったかつての戦闘について、中国人はどのような認識を示してくれるのだろうか。自分とは全く異なる相手の「巨大な世界観」に接する時、私たちは「むかむかする」という言葉でもって表現せざるを得ない「生臭さ」を感じる。この奇妙な衝撃が相手に対する敵意につながるのか、相互理解を深める第一歩となるのか、事前に予見することは難しい。個人的には、映画が封切られれば必ず見に行こうと思ったのだが、周りの反応は違った。関連内容をフェイスブックに掲示しておいたら「国内上映は禁止すべきだ。超えてはならない一線がある」、「だからなめられるんですよ。度胸もない民族だって」といったコメントが書き込まれた。自分は間違っていたのかと呆然としている間に、輸入会社が映画の公開をあきらめて、批判は一段落した。

 ふと11年前の2010年の3・1節に書いた記事の一節が思い浮かんだ。その記事では、韓中日3カ国の青少年が学ぶ歴史教科書を比較分析して示し、「平和な東アジア」を作るために私たち皆が「偏見教育」から脱しようと訴えた。日本の「右傾化による歴史歪曲」と「中国の浮上」が本格化する前だったためか、当時の韓国社会では、韓中日が互いに協力して開いていくべき「東アジア共同体言説」は少なからぬ支持を受けていた。その時は「人生は羅生門」という冷笑に耐え抜き、私たちがともに持ちうる共通認識を見出そうと努力する「一握りの群れ」がいた。今はどうだろうか。少し息が詰まる。

//ハンギョレ新聞社

キル・ユンヒョン|国際部長 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1011952.html韓国語原文入力:2021-09-16 04:59
訳D.K

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