本文に移動

[寄稿]韓国軍隊で起きた女性軍人の死の背後にあるもの

登録:2021-08-21 08:24 修正:2021-08-23 12:50
キム・ジョンデ|延世大学統一研究院客員教授
今年6月10日、ソウル龍山区の国防部前で行われたイ中士追悼および国防部糾弾記者会見で、出席者たちが国防部正門に菊の花をさしてプラカードを貼っている=イ・ジョングン先任記者//ハンギョレ新聞社

 米国のランド研究所は今年初めに発表した研究報告書で、性暴力とセクハラが原因で軍を去る軍人が毎年1万6千人という衝撃的な事実を公開した。2010年から自主的な改革により改善が続けられてきた性暴力事件は、2016年になって最も低いレベルに安定した。ところが、2018年ごろから再び増え始めた。その年の女性軍人を対象にした性暴力の発生率は前年に比べて44%増加した1万3千人で、男性被害者まで合わせると2万人に達する。実に不思議なことではないか。なぜ2018年という特定の時期に性事件が急増したのだろうか?おそらく2017年から「#MeToo運動」が本格的に始まった事情と関連があるだろう。その後も軍隊で性暴力事件が相次いだことを受け、ジョー・バイデン大統領は今年2月、独立した検討委員会に問題を診断して解決策を模索するよう指示した。検討委員会は、米軍隊で性暴力事件は引き続き高い発生頻度を示しているのに対し、通報率は4人に1人の割合に過ぎないと指摘した。通報すらできず、多くの被害者は重荷を背負って軍生活を続けたり、軍を去っていると委員会は明らかにした。委員会の報告書は「米国の軍隊は自分の息子と娘の保護に失敗した」とし、より強力な責任と法的措置を盛り込んだ80件以上の勧告案をロイド・オースティン国防長官に提示した。

 米国のMeToo運動が韓国に与えた影響は実に大きいものだった。しかし、その衝撃の波紋が韓国軍にまで及ぶとは、軍は全く予想もしていなかった。最近相次ぐ女性副士官の悲劇的な死亡事件をきっかけに、韓国軍ももはや性暴力事件が対岸の火事ではないことに、今になってやっと気づいたのだ。最近、国防部の高官らは、携帯電話の通知の音が聞こえただけでどきりとする。もしや軍でまた何か事故が起きたのではないかと、速報を見るのが怖いという。まだ韓国軍は、このような事件の原因を抜本的に省察したことがなく、再発を防止する方法も見つかっていないため、事件が発生するたびに大きく当惑せざるを得ない。最近、空軍に続き海軍で起きた女性副士官の死を詳しく見ると、軍隊内で性暴力の被害者に加えられる持続的な懐柔と圧迫、すなわち2次加害が死の背後にあったという心証がさらに強くなる。この事件が初級幹部にどう解釈されるだろうか。「下手に通報すれば、私もあのような悲劇の主人公になるかもしれない」という沈黙とあきらめではなかろうか。

 軍隊は加害者と被害者が永久に分離されにくい閉鎖的組職であり、組職を守るための忠誠の論理に慣れている。軍に勤務し続けることを望む被害者は、加害者が何事もなく過ごしているのを見ているしかなく、部隊の構成員たちはこれを放置する。この時点で被害者は組織が味方ではないことを痛感する。通報すれば、部隊員らにレッテルを張られて苦しむことになり、さらに指揮官の勤務評価によって進級が決まる自分の未来に障害になる恐れもある。被害者の中には、自分の被害事実が「知られないようにしてほしい」と、自分を担当する軍相談官に訴える奇妙な現象も起きている。女性副士官が死亡したのが、性暴力が発生してからかなり時間の経った、被害通報から数カ月後という点は何を意味するのか。勇気を出して沈黙を拒否したが、まともに保護されなかったのだ。この死の背後に沈黙を強要した組織がある。それが韓国の軍隊だ。

 このような状況なら、事件にせず、沈黙したり静かに軍を去る初級幹部もかなりいるだろう。しかし、強要された沈黙が積もっていき、限界状況を超える「ティッピングポイント」がある。葛藤が爆発する瞬間だ。軍指揮官は事態を収拾できず、途方に暮れている。世論は容赦なく国防部を叩いている。いま国防部は、レフトフックを打たれたのに続き、ライトフックまで打たれてよろめいている状況だ。解決策が分からず、どこから手を付ければいいのかわからず、右往左往している姿も見るに忍びない。軍外部はもちろん、内部からの信頼にも警告灯が灯っている。このシグナルを無視すれば、いま米軍が迎えている危機が、韓国軍にはさらに大きなものとなって差し迫るかもしれない。2人の女性副士官の死は、そのような破局を警告するシグナルだ。

//ハンギョレ新聞社

キム・ジョンデ|延世大学統一研究院客員教授(お問い合わせ japan@hani.co.kr)

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1008327.html韓国語原文入力:2021-08-2010:11
訳H.J

関連記事