本文に移動

[寄稿]宇宙の新しい規則、「金持ち」だけで決められるよう放置はできない

登録:2021-07-30 07:57 修正:2021-08-04 08:42
チョン・チヒョン|KAIST科学技術政策大学院教授・科学雑誌『エピ』編集委員  

ベゾスは、宇宙を私有化しているのだろうか、あるいは宇宙を新たな機会の空間にしているのだろうか。宇宙がさらに多くの人々に開かれた空間になるのか、金持ちの無重力状態の体験の場になるのか、その方向が決まる時間はあまり残されていない。宇宙の新しい規則を、ベゾスと金持ちの友人たちがすべて決めるよう放っておくわけにはいかない。

 20日、自身の資金を投入し宇宙空間に短時間滞在したアマゾン創立者のジェフ・ベゾスに対する最もありふれた批判は、その資金を、地球から離れることではなく地球を活かすことに使えというものだ。新型コロナウイルスのパンデミックが終わっていないだけでなく、世界各地で基本的な医療や衛生の問題も解決されず貧困と不平等が深刻化している今この時、世界で先頭に立つ金持ちが地球上のそのすべての苦しみを見ないふりをして、わずか数分間の宇宙体験のために資金をばらまくようにみえた。また、ベゾスの宇宙体験に投じられた資金は、結局はアマゾンの労働者を搾取し税金を回避して得たものではないかという指摘も欠かさず起こった。金持ちの宇宙旅行が頻繁になればなるほどCO2の排出が増え、すでに気候変動の危機に直面している地球の状態をさらに悪化させるという懸念もある。

 ベゾスに対し不満な人々は、彼が地球の外で出たといっても、米国の連邦航空局が認める「宇宙飛行士」になったのではないという点を指摘することもある。ちょうど改定された連邦航空局の定義によれば、ベゾスは「宇宙飛行参加者」ではあるが「宇宙飛行士」としては認められない。宇宙飛行士は、発射と再突入など宇宙飛行体の動作に関わる作業を遂行する人でなければならないからだ。わずか14時間の教育を受け宇宙船に乗ったベゾスは、発射当日に宇宙船が動くことには何の貢献もできなかった。彼は宇宙船に問題が生じた場合、一緒に乗った人々の安全に責任を負える能力を身につけてもいなかった。彼の役割は、安全な姿勢で飛行と無重力状態を楽しむことだった。

 このような状況は、ベゾスと彼の宇宙開発会社「ブルーオリジン」が、宇宙船を操縦士の必要がない完全自動システムにした時点で、すでに予定されたことだった。ベゾスを含む旅行客4人は、宇宙船を操り非常事態に対応できるパイロットがいない状態で宇宙に向かった。ベゾスはアポロ11号を操縦し月に着陸させたニール・アームストロングのような英雄的な宇宙飛行士のいない宇宙旅行を設計したのだ。これは、彼の1週間前に宇宙旅行をして帰ってきたもう1人の億万長者のリチャード・ブランソンが、操縦士のいる宇宙船を作って乗ったことと対比される。ブランソンの宇宙企業「ヴァージン・ギャラクティック」は、搭乗客が宇宙飛行の経験を評価する任務を担当したため「宇宙飛行士」と認定されることが可能だという(ニューヨーク・タイムズの報道)。億万長者の間でも、宇宙旅行の哲学は異なることもある。

 宇宙飛行士の資格に対する指摘について意に介さないベゾスは、自分とともに宇宙に行ってきた82歳女性のウォリー・ファンクを示すことで返事に代えるのだろう。ファンクは、1960年代に米航空宇宙局(NASA)の宇宙プログラムに参加するための訓練を終えたが、その後ずっと宇宙飛行士に選抜されなかった。航空機パイロットとして長い飛行時間を蓄積し、後輩を教育した能力もあったが、宇宙飛行においてはジェンダーの壁にぶつかった。若い頃に宇宙飛行士になれるはずだったファンクを自分と同行する乗客3人のうちの1人に選択することで、ベゾスは改めて、英雄的な男性宇宙飛行士の時代と距離を置くかたちを取った。もちろん、そのすべての決定は資金を出す自身のものだった。

 ベゾスは、宇宙を私有化しているのだろうか、あるいは宇宙を新たな機会の空間にしているのだろうか。一方で彼は、国家の議題や人類の希望とは関係なく、自分の望み通りに宇宙に行く方法を決め、宇宙に行ける人の基準も決めている。世界一の金持ちであるから可能なことだ。もう一方で、彼はニール・アームストロングのような男性エリートパイロット出身でなくても宇宙に行くことを夢見ることができるという希望を与える。今回同行した乗客のうちの1人はオランダの18歳の学生で、史上最も若い年齢で宇宙に行った記録を立てた。もちろんこれも、世界一の金持ちや、彼よりは少し落ちる金持ちであってこそ可能なことだ。

 ベゾスの宇宙旅行を報道したニューヨーク・タイムズは、「宇宙のアマゾン化が本格的に始まった」と書いた。ベゾスが作ったアマゾンは、誰でも1回のクリックであらゆる品物を買える便利なものであると同時に、巨大インターネット企業が労働者と消費者を締めつけ監視する時代を招いた。宇宙がさらに多くの人々に開かれた空間になるのか、金持ちの無重力状態の体験の場になるのか、その方向が決まる時間はあまり残されていない。宇宙の新しい規則を、ベゾスと金持ちの友人たちがすべて決めるよう放っておくわけにはいかない。

//ハンギョレ新聞社

チョン・チヒョン|KAIST科学技術政策大学院教授・科学雑誌『エピ』編集委員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/1005751.html韓国語原文入力:2021-07-30 02:36
訳M.S

関連記事