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[寄稿]女性軍人のための国はない

登録:2021-06-15 03:41 修正:2021-06-15 10:33
パン・ヘリン|軍人権センター相談支援チーム長、予備役大尉
女性軍人性暴力ニュースレターよりキャプチャー//ハンギョレ新聞社

 女性軍人に対する性暴力事件を扱うたびに、繰り返される状況にがっくりする。事件が起きるたびに、今度こそ根絶するとして策が打ち出されるが、これまでどれひとつとしてまともに定着していくのを見ていないと思う。どんな努力と対策を注ぎ込んでも、まるで無限へと発散する関数のように、軍隊内での性暴力事件は減る気配がなく、毎年その数値を更新している。

 2013年、2017年、2021年。性暴力の被害者が死亡する悲劇が4年周期で繰り返されるのは、果たして制度とシステムが不在だったからなのか。加害者を厳しく処罰し、被害者をきちんと保護しなかった指揮官や関係者を処罰すれば、悲劇は再び起きないのか。軍部隊の垣根の外では皆がそう言うが、肝心の当事者であり内部の構成員である女性軍人の考えは違う。次の悲劇の当事者が他ならぬ自分になるかも知れないという恐怖は、今この一連の事態を見つめるすべての女性軍人が共有する共通の思いだ。

 厳密に言って、最近軍で起こった性暴力事件を含め、このようなことが繰り返される最も根本的な原因は、軍内の女性嫌悪問題が収拾不可能な水準にまで至っていることだ。いつも言及される、上座に女性軍人を座らせること、主要行事に「スカートをはかせた」女性軍人を陪席させること、会食の席などにめかし込んで来させることなど、女性軍人創設以来、数十年間繰り返されてきた文化をあえて想起させる必要もない。女性軍人問題や女性徴兵制に関するニュースにつくコメントからして、すでにこの社会が、韓国軍が、組織の大多数を占める男性構成員が、女性軍人の存在をどのように認識しているかを如実に示している。女性軍人を「国防助務士」と称して蔑視し、嘲笑する文章がインターネット上の人気の文章として売れているのが現実だ。

 このような状況だから、肝心の当事者である女性軍人たちは、昨今の状況が世論の注目を浴びていることに対しても懐疑的な見方をせざるを得ないのだ。今回も誰かが処罰を受け、解任されて交代し、(すでに完璧に近い水準だが)またしてもマニュアルを新しくアップデートして、形式的な教育の頻度を高めることで終わるだろうということを知りすぎているのだ。すでに国会からして、誰が報告をまともに受けていないのか、国選弁護人は被害者をきちんと支援したのかなど、処罰の境界線を引くために血眼になっているだけで、韓国軍と社会を包囲する強固な男性の連帯、女性嫌悪と差別の問題について真剣に考える姿勢は見られない。

 「君は女ではなく軍人だ。女のように振る舞うな」という言葉を、女性軍人だった者ならあらゆる場で聞いたはずだ。実のところ、この両者はくっつけることのできない、厳格に異なる領域にある。女性というのは性アイデンティティの領域であり、軍人というのは職業の領域だからだ。だから私は女でありながら同時に軍人であり得るし、またそうあるべきだ。しかし軍は、女性に対して意図的に女性性を消すよう強要することで、彼女たちが男性社会に「本物の男」として抵抗なく包摂されることを願った。しかし一方では、男性社会で男性ができないある役割、例えば男性を引き立たせたり、あるいは飾ったりできる、またはいくらでもいじめたり壊したりしてもよい、客体化された「女性」そのものとしての役割も果たしてほしいと願ったのだ。このような認識は、女性軍人を「国防助務士」と呼ぶことからはじまって、何の関係もない女性軍人を私的な酒席に当直まで変更して呼んだり、上級者が紹介した別の高官と時間を過ごさせ、これを断れば人事上の不利益を与えたりといったやり方で、依然として軍のあちこちに残っている。

 軍内の性暴力問題を断罪しうる確実で最も切実な部分は、まさに軍と韓国社会に蔓延している女性嫌悪の問題の深刻さを認め、これを正面から突破するという意志だ。すでに女性軍人が守ろうとしていた国は、女性軍人自身から少しずつ消えつつある。誰かを処罰し、形式的な再発防止対策を約束することだけでかたづけるなら、女性軍人の国は永久に消えてなくなるということを、国防部はしっかりと認識しなければならない。

//ハンギョレ新聞社

パン・ヘリン|軍人権センター相談支援チーム長、予備役大尉 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/999275.html韓国語原文入力:2021-06-14 14:41
訳D.K

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