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[寄稿]バイデン政権、朝鮮半島危機に向かうのか

登録:2021-05-04 07:54 修正:2021-05-04 08:53
ソ・ジェジョン|国際基督教大学政治学・国際関係学デパートメント教授 
 
バイデン大統領は自身の演説でイランと北朝鮮を一つにまとめて処理した。「イランと北朝鮮の核プログラムが米国と世界の安全保障に大きな脅威となっている」とし、「同盟国と緊密に協力し、外交と厳しい抑止を通じて両国が引き起こす脅威に対処する」と一言で整理した。イランに対して行うように、外交には復帰するが体は動かさないということだろうか。これは新しい動きだろうか。

 「米国が再び動いている」。米国のジョー・バイデン大統領が先月28日、就任後初の上下両院合同会議での演説で宣言した。就任直後「米国が帰ってきた」と宣言したバイデン大統領の続きの発言だ。そう言うだけのことはある。任期最初の100日間、バイデン政権が動かしたものは多い。はたして米国はどこに向かって動いているのだろうか。

 バイデン大統領は就任するやいなや、前任のトランプ政権の政策を即座にひっくり返した。トランプ大統領が脱退した世界保健機関(WHO)に復帰し、滞納していた会費2億ドルを納めると述べた。同じくトランプ大統領が脱退した温暖化対策の国際的枠組みであるパリ協定に復帰しただけでなく、40カ国の首脳を招待し、気候サミットを主導もした。トランプ政権がアメリカ・ファーストを前面に出し追求した一方的な外交路線から180度旋回した。同盟国との対話と協力に努め、外交と交渉を重視している。トランプ政権とは大きく異なる方向に動いている。

 国内政策ではさらに果敢に動いている。インフラ再建に2兆3000億ドルを投資するという野心に満ちた計画を発表した。それに劣らず、1兆8000億ドルが投じられる「米国家族計画」は野心的だ。3~4歳の児童すべてに無償教育を提供するなど、教育に果敢に投資し、普通の米国人の生活の質を向上させるという。これまで大きな社会的物議をかもしてきた警察の暴力、人種および性差別、移民問題などでも大幅な改革を推進し、平等な社会を建設しなければならないと力説している。難しいとされる銃規制も推進している。米国の民主主義に再び活気を吹き込むと動いているのだ。しかし、多くの点で共和党が強く反発し、民主党内部でさえ同意できない点もある。バイデン政権は動いているが、米国政府が動くかは不透明だ。

 バイデン政権が動いていないこともある。トランプ政権が脱退したイラン核合意(包括的共同作業計画)にはいまだ復帰していない。もちろん、そのための交渉が始まったことはあった。しかし、トランプ政権が脱退後に復活させた経済制裁はもちろん、新たに追加した経済制裁さえ解除していない。実質的な行動は変わっていないのだ。終わりのない“永久戦争”を終息させるという選挙公約にもかかわらず、アフガニスタンからの撤退計画はむしろトランプ政権の合意よりも後退した。中東では、サウジアラビアを始めアラブ首長国連邦などへの武器輸出を続けている。この隙を利用する強硬派は、イランとの交渉を挫折させようと画策し、アフガニスタンからの撤退を難しくすることに集中している。バイデン政権が動かなければ、他の勢力が動く。

 バイデン大統領は自身の演説で、イランと北朝鮮を一つにまとめて処理した。「イランと北朝鮮の核プログラムが米国と世界の安全保障に大きな脅威となっている」とし、「同盟国と緊密に協力し、外交と厳しい抑止を通じて両国が引き起こす脅威に対処する」と一言で整理した。イランに対して行うように、外交には復帰するが体は動かさないということだろうか。これは新しい動きだろうか。

 ホワイトハウスのジェン・サキ報道官が説明を付け加えた。「我々の目的は朝鮮半島の完全な非核化」だとし、大統領が述べた「厳しい抑止」とは北朝鮮に対する核の威嚇であるということをごまかした。また「過去四つの政権の努力は、その目的を達成できなかったという点を明確に認識」しているという但し書きもつけた。続いてバイデン政権は「実用的なアプローチ」を取っていき、米国と同盟国の安全保障を増進させる「実用的な進展」を追求すると明らかにした。非核化はどうせ難しいため、米国の核軍事力による安全保障に焦点を合わせる実用路線を追求するということだろうか。

 バイデン政権の対北朝鮮政策の検討が完了したことを一番最初に伝えたワシントン・ポストは、匿名の米国官僚の言葉を引用した。「米国に対する脅威を除去するという目標を定め、北朝鮮との外交で調整された実用的なアプローチ」を取ることが、バイデン政権の対北朝鮮政策だという。その一方で、その政策を自らも信頼できていない様子もみせる。「我々が考えている政策が北朝鮮の挑発を阻止できるだろうとは考えていない」。もちろんその理由は、自分たちも分かっている。「経済制裁によって圧力を維持するという我々の意志は完全だ」。シンガポール合意を廃棄するのではないとしながらも、この匿名の官僚やサキ報道官、バイデン大統領は、北朝鮮と米国の“新しい関係”の樹立や朝鮮半島「平和体制」の構築は語っていない。シンガポール合意を含めた過去のすべての合意が失敗したという点だけを強調している。

 だとすればバイデン政権は、朝鮮半島の危機に向かって進んでいるのではないだろうか。

//ハンギョレ新聞社

ソ・ジェジョン|国際基督教大学政治学・国際関係学デパートメント教授 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/993588.html韓国語原文入力:2021-05-03 08:38
訳M.S

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