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[寄稿]「慰安婦被害者」…誰が少女に被害者らしさを求めるのか

登録:2021-03-01 01:43 修正:2021-03-01 08:01
ハム・ソクチョン ソウル西部地裁判事
京畿道広州市のナヌムの家で。ペ・チュンヒさんをはじめとする亡くなった被害者の胸像。日本軍慰安婦被害者たちが日本政府を相手取った損害賠償請求訴訟で初めて勝訴した8日午後に撮影/聯合ニュース

 「その時、なぜ大声を出さなかったんですか?」「飛び出して助けを求めればよかったのに」「なぜついて行ったのですか?」 被害者らしさを求める問い。法廷でこのような質問を受けた被害者はどのような様子だろうか。普通はすぐには答えられない。当惑した表情をする。しかしすぐに「なぜここでこんな質問をされるの?」という怪訝そうな表情が続く。恐怖、羞恥心、当惑の入り混じった現場にいた記憶は、時が流れたからといって気軽な話の種になるわけではない。これは、性暴力の被害者がこのような質問を受け、「あの時なぜそうできなかったのか」という自らを恥じる感情を抱けない理由でもある。そんな感情を抱く必要もない。

 かつては、このような被害者らしさが、被害者の陳述の信憑性を突き崩す手段として作用してもいた。被告人の防御権を行使するために、弁護人はこのような質問をすることができ、また必要でもあった。しかし今は、性暴力被害者の陳述の信憑性を、このような質問に対する回答によって排斥したりはしない。被害者の証言の信憑性を突き崩すためには、客観的証拠に反する陳述があるかどうかを綿密にチェックすることになる。

 「事後的に見て被害者が犯行現場を離れることができたとか、被害者が死力を尽くして反抗しなかったとかの事情のみで、加害者の暴行・脅迫が被害者の抵抗を著しく困難にするまでには達していなかったと不用意に断定してはならない」。2005年以降、絶えず判決で使われてきた表現だ。この表現からも分かるように、事後的かつ付随的な状況を浮き彫りにして、被害者らしくない行動をしたとして性犯罪の成立を否定する時代はすでに過去のものだ。そして今、私たちは、セクハラ事件においては性認知感受性を、陳述の信憑性を判断する基準とする社会に生きている。

 強姦の成立要素である暴行、脅迫は、相手の反抗を抑圧するか、被害者の抵抗を著しく困難にするほどでなければならないと考えられてきた。恐喝より強く、強盗と同水準の暴力でなければならないということだ。ところが、学界と実務においては、性暴力犯罪を処罰することで保護しようとしている利益とは「性的自己決定権」であると考えられている。この基準を適用すれば、性暴力犯罪の要件である暴行や脅迫は、相手の性的自己決定権を侵害する程であれば十分だ。判例は明示的に性犯罪での暴行、脅迫の程度を下げてはいないものの、判決を分析してみると、性犯罪の成立は相手の性的自己決定権を侵害したかどうかを重要な判断基準としている事例が増えてきている。

 国を失っていた時代に幼い少女が置かれていた状況を考えてみよう。誰かが近づいてきて、仕事をくれると言ってついて行った。車に乗って船に乗って知りもしないところに着いた。そこには銃と刀を持った軍人がいる。全く知らない人たちだ。周りには家族も友人もいない。どこなのか分からないから、そこを離れるわけにもいかない。初対面の男が襲ってくる。兵士たちが列をなして入ってくる。こんな経験をした少女が、解放されたからといって、時間が経ったからといって、その状況を正確に話すことができただろうか。このような状況を経験した後になって、「お前も同意しただろう」と言いながら帳簿に拇印を押せと言ったり、名前を書けと言いながら金を渡したりすれば、その少女に加えた行為は自発的な取引となり、合法となるのか。少女が自らついて行ったという状況を設定してはいるものの、証言を聞けば強制連行されたと評価される状況がほとんどだ。

 その少女は性暴力の被害者だ。それも、少女一人くらいは事もなげにこの世から消せる野蛮な集団に性暴力を受けた被害者だ。国家の暴力の前に大切な人権が打ち砕かれた現場にいた被害者だ。にもかかわらず、ある者は彼女たちに被害者らしさを要求している。残り少ない人生の中で思い出したくない過去を思い出しながら、渾身の力を振り絞って証言しようとする少女たちに被害者らしさを求めるのは、もうやめにしてもらいたい。

(参考にすべき判例は以下のとおり。韓国最高裁判所2005.7.28.宣告2005ト3071判決、韓国最高裁判所2018.2.28.宣告2017ト21249判決)

//ハンギョレ新聞社

ハム・ソクチョン|ソウル西部地裁判事 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/984800.html韓国語原文入力:2021-02-28 15:21
訳D.K

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