変化のスピードが速くなっている。2021年は2020年よりも不確実性が大幅に増えるものとみられる。21世紀に入って大きくなっている複雑性と不確実性をひっくるめて「VUCA」と呼ぶ。VUCAとは、「揮発(Volatile)」、「不確実(Uncertain)」、「複雑(Complex)」、「曖昧(Ambiguous)」という語の頭文字を取って作った新造語だ。1987年に米陸軍大学で初めて使用されたというこの言葉は、2010年以降、使用頻度が急上昇した。論文、新聞、本などに使われた単語や用語の頻度を確認できる「グーグルNグラム(Google NGram)」でこれを簡単に確認することができる。
不確実性が増しているのは、デジタル技術の発達に伴い知識生産性が急上昇し、都市化とグローバル化によるつながりの数が増えているとともに、政治・経済・社会システムの参加者のダイナミズムが高まっているからだ。知識生産性の増加は、データ量の増加だけでなく、汎用技術の増加の推移から見ても明らかだ。グローバル化と都市化は人間のつながりの数を増やした。つながりの数の増加は複雑さを強化する。新型コロナウイルス感染症がパンデミックへと発展した背景には、農地拡大による野生動物と人間の接触の増加、都市化、グローバル化といったつながりの増加の流れがある。政治・経済・社会システムの参加者は、過去の経験を踏まえ、各自市場に影響を及ぼそうとする。多数の躍動的な組織や個人は、協力と対立を通じてVUCAを高める。
知識生産性の増加、つながりの増加による複雑性の増加、各参加者の躍動的な参加が相まって、VUCAの流れがよりはっきりし、スピードも速まった。これを反映して、最近ではVUCAの最後の「A」を「加速」という意味の「Accelerating」に変える人もいる。VUCAの強化は、2009年のグローバル金融危機や2011年の日本の福島原発事故のように、新たな危険に見舞われる可能性が高いことを意味する。
昨年初めに「ハーバードビジネスレビュー」に掲載されたある文章は、VUCAの加速によって「三地平線(Three Horizons)アプローチ法」が実効性を失ったと主張する。VUCAの加速で短期・中期・長期の未来の区分があいまいになったという話だ。「三地平線」フレームとは、未来を短期、中期、長期に分けて見通し、対応戦略を立てる思考体系をいう。これによると、2021年の韓国社会は、2020年よりさらに大きな不確実性の霧の中をかきわけていかなければならない。2022年には2021年より大きな不確実性の濃い霧の中を探っていかなければならないだろう。
不確実性が高まれば高まるほど、これを探り機敏に対応する力量が求められる。このために、2021年に迫ってくる変化を展望してみる。2021年の変化に対する展望を、STEEPという分析ツール、すなわち社会、技術、経済、生態環境、政治・制度の観点から見てみよう。
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少子化・デジタル化の加速と金融・気候・両極化の危機
まず、社会分野では少子化の加速化が目立つ。2019年の韓国の合計特殊出生率は0.92だった。2020年第1四半期には0.90人、第2四半期には0.84人と落ち込んだ。今年は新型コロナによる婚姻率の減少が直接影響し、合計特殊出生率が0.7人台へと下がる可能性がある。これまで少子化対策として数十兆ウォンの予算をつぎ込んできたにもかかわらず世界最低出生率を示しているのは、出生率を高めるための根本的な代案がなかったためだ。わずか数百万ウォンの補助金をもらうために子どもを産もうとは思わないのだ。特殊出生率を高めるためには育児の社会責任化、家族制度の根本的な改善、不動産価格の安定化などが必要だ。
育児の社会責任化とは、女性に育児を任せきりにせず、女性の社会的欲求を満たすことができる制度を意味する。在宅勤務の拡大や共同育児制度、24時間保育所の運営などで、女性が学業を続けたり、職場に通っていても子どもを産むのに負担がないようにしなければならない。フランスの市民連帯契約を導入することについての議論も活発にならなければならない。市民連帯契約とは、異性間または同性間の結合が法律婚によらなくても、十分な法的保護を受けられるようにした制度だ。フランスでは、法律婚で生まれた子どもよりも市民連帯契約で生まれた子どもの方が多いという。その結果、2017年の合計特殊出生率は1.92となり、人口維持水準に近づいた。
技術分野においては、デジタルシフトの加速が予想される。世界的に遊休生産力が増すにつれ、既存の製造業とデジタル技術を融合させようとする試みが増え、テレワーク、遠隔教育、遠隔医療などはビジネスモデル、ビジネス戦略、組織構造と文化に根本的な変化をもたらすであろう。今後、各企業や組織は構成員にデジタル流暢性(Digital Fluency)を基本素養として要求するだろう。やや遅れたものの、韓国社会でもデジタル経済、デジタル社会及びデジタル政治についての議論が本格化するだろう。
経済分野では、金融危機の可能性が高まると考えられる。米国と日本の量的緩和は持続可能ではない。韓国の不動産と株式の資産バブルも深刻に警戒しなければならない。最近ビットコインが3000万ウォンを超えた。これは量的緩和による米ドル価値の下落や中国のブラックマネー離脱がもたらした現象だ。これは、それだけ経済システムが健全でないということを意味する。韓国経済はIMF救済金融危機当時と同じではないといわれているが、家計負債がOECD加盟国のうちトップであり、利息が少しでも上がればその打撃は相当なものになるであろうという点にも留意しなければならない。だからといって、根本的な代案も出し難い。利害関係が鋭く対立し、政府内の官僚集団の間でも意見が分かれるためだ。もちろん、現在の状態が続くという前提の下での話だ。
生態環境分野では、気候危機の議論が本格化するだろう。2021年の気候温暖化はさらに深刻になり、異常気象もさらに頻発する可能性がある。大気中の二酸化炭素濃度がさらに高まるためだ。気候温暖化については様々なシナリオがあるが、気候温暖化のスピードが予想より急であることに注目すべきだ。カナダの氷河の融解が予想より速く進んでいる。1990年代より7倍も速い。気候温暖化が幾何級数的な特性を示すことで、バイデン政権と米国民主党のグリーン・ニューディールに弾みがつくだろう。グリーン・ニューディールは、中国とのグローバル・ヘゲモニー争いにおいてテコの役割を果たすことになるだろう。米国は積極的な炭素税賦課で中国の輸出競争力を下げる戦略を展開するだろう。
韓国社会はこれへの対応を急がなければならない。韓国政府は2050年を目標にネットゼロ(Net Zero)を進めることにした。韓国産業にはまだエネルギー集約産業が多く、ネットゼロ推進にはかなりの難関があるだろう。企業を中心に先制的な対応に乗り出すものとみられる。
政治、制度分野で見ると、社会の両極化と対立が深まるにつれ、これに対する政治的・制度的論議が本格化するだろう。英紙「フィナンシャル・タイムズ」の首席経済論評家マーティン・ウルフが2020年下半期に推薦した本19冊は、その多くが不平等と民主主義の危機および老朽化した資本主義に関するものだ。彼の見方は代表的なものとは言えないが、多数の未来学者がポストキャピタリズムについて苦悩し、対話しているという点は注目すべきだ。当面、資本主義の実践的な代案が登場するのは難しいだろう。それだけに社会の二極化と対立についての論議ばかりが膨らむ恐れがある。さらに、2022年の大統領選挙のため、韓国では冷静で建設的な論議を期待しにくい状況だ。しかし、一部の陣営ではこれについての真剣な論議に着手するだろう。
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望ましい未来を作る対話こそが未来予測
2021年に起きる変化の深いうねりは、その深さと同じくらい多くの機会を与えてくれる。政府、市民社会団体、そして企業は、この機会を超えるべき波と考えなければならない。その荒波の上でそう快な波乗りを楽しまなければならない。台風が吹いてこそ「豚が空を飛べる」。この変化の中で韓国社会、企業、個人は、より大きな夢を育むことになるだろう。
未来学は決定論でも運命論でもない。未来学とは、望ましい未来を作るための現在の対話だ。しかし、未来は歴史的偶然性によって影響されることが多く、21世紀に入って変化が加速化しているため、「人事を尽くして天命を待つ」を呪文のように唱えていてばかりでは立ち行かなくなる。より積極的に多様な未来の可能性を展望し、未来の変化に対して機敏に未来予測を遂行しなければならず、果敢に未来の種をまかなければならない。多事多難な2021年の波乗りを楽しむためには、「遠慮深謀」をまず実践しなければならない。韓国社会、韓国企業、そして韓国市民に、限りない激励を送る。
ユン・ギヨン|韓国外大経営学部未来学兼任教授・F&S未来戦略研究所長