ドナルド・トランプ米大統領とその支持者たちが繰り広げる「大統領選挙不服運動」は決して終わらないゲームになりそうだ。これは長期にわたるソフトクーデターになり得る。
トランプ氏は今回の大統領選挙に不正があり、自分は敗北していないという主張を決して撤回しないだろう。支持層はこのような主張を固く信じている。今回の大統領選挙で共和党に投票した有権者の約40%が「選挙不正があった」という主張を受け入れている。これは全体有権者の20%に当たる。結局トランプ大統領は全体有権者の20%を自分の強固な支持層にしている。
現状では、共和党の次期大統領選候補選びでもトランプ氏に匹敵する人物はいない。トランプ氏が世論をものともせず、大統領選挙不服を続けるのはこのような熱烈な支持層に支えられているからだ。彼はこのような支持層を背景に、米国の選挙など民主主義制度の価値と作動の仕組みを深刻に損ねている。彼が選挙結果を無効にするため起こしている様々な訴訟は、その一環だ。共和党議員らが言うように、トランプ大統領には選挙結果に異議を唱える法的権利がある。
民主主義の盲点がまさにここにある。法が保障した権利は、正義の実現をいつも担保しているわけではないからだ。もし、トランプが主張する通り、ペンシルベニア州で投票当日以降に到着した郵便投票を無効に処理すべきだという判決が出た場合、大統領選挙の結果は覆されかねない。実際、郵便投票を無効にする判決論理を作るのは、経験豊富な裁判官にとってはかなり容易いことだ。
もし次期大統領選挙の風向きが共和党に有利になるなら、トランプ氏の「選挙不正」の主張にも弾みがつくだろう。有権者の参政権拡大を目指して導入された郵便投票の運命がどうなるかも分からない。2000年の米大統領選挙のフロリダ州開票紛争は、その一端を示した。当時、連邦最高裁判所はフロリダ州の4郡の再集計を要求したアル・ゴア民主党候補の要請を退け、結局ジョージ・ブッシュ共和党候補が勝利した既存の開票結果が認められた。主権の行使を裁判官が裁量できるのかをめぐり議論が巻き起こった。当時、連邦最高裁判所は5対4でブッシュ候補に軍配を上げたが、これは正確に最高裁判事の保守対進歩の割合と一致した。
トランプ大統領とその支持者たちがあらゆる法的手段を動員して行う大統領選挙不服運動は合法的なものだ。彼らが開いた集会では銃で武装した白人民兵隊員たちが集まって威力を誇示する。それも合法だ。しかしこのような合法は、一連の手続きと過程を通して完成される民主主義の作動の仕組みを分節化させ、その単位ごとに歪曲した結果を作り出す公算が大きい。彼らのこのような合法的な試みは、次期選挙で参政権を縮小し、民意の反映を歪曲する可能性が高い。
これは長期間にわたって進められるソフトクーデターだ。一時的な武力行使を通じて短期間で政権を転覆する典型的なクーデターとは異なる。この「ソフトクーデター」を我々はすでに目撃した。
エジプト史上初めて民意によって選ばれたモルシ政権は、裁判所と検察の挟み撃ちの中で枯死し、結局軍部のクーデターによって崩壊した。裁判所はモルシ大統領就任2日前に、モルシ大統領の自由正義党が多数党になった議会選挙の結果を無効にし、モルシ政権の無力化に乗り出した。議会の再招集や憲法制定のための憲法会議、新しい総選挙の実施などが裁判所によって次々と阻まれた。検察は、ムバラク独裁政権の下野の契機となったデモ隊を殺した暴徒たちの無罪を主張した。これに激怒したモルシ大統領が検察総長を解任したが、検察はこれに不服として従わなかった。
トランプ氏を取り巻く勢力とエジプトの「法治」勢力の姿は、昨年のチョ・グク法務部長官指名後、韓国の検察が示した行動にも見られる。長官聴聞会直前に、その候補者と家族に対する大々的な捜査を行い、遠い親戚や姻戚まで調べて別件容疑を突き止めた。検察改革をもたらした検察の行動については一言の反省もなく、検察改革は検察の独立性を損ねるという集団の声だけが聞こえる。とうとう、検察のトップが自分の職務をめぐる行政訴訟を起こし、大統領との対立も辞さない事態に至った。このすべてが検察の持つ合法的権限の範囲内にあるが、トランプ氏を取り巻く勢力とエジプトの「法治勢力」が見せた恣意的で過度な法的権限と手段の行使と軌を一にする。
国家刑罰権に対する権限を恣意的かつ過度に行使する集団の行動を制御できなければ、長期間にわたって進められるソフトクーデターに帰結するだろう。