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[コラム]「資産所有者たちの連帯」がより不穏な理由

登録:2020-11-05 02:45 修正:2020-11-05 08:52

 株式資産だけでも18兆ウォン(約1兆6500億円)を握る財閥会長の死の直後に浮上した相続税を巡る論争の中、偶然見かけた1枚の写真に目が釘付けになった。正確に言えば、写真の中に何気なく写り込んだある単語にだ。政府の公共建て替え拡大計画に反対するソウル江南(カンナム)中心部の有名な大規模マンション団地の入り口には、強固な反対の意思を込めた横断幕が掲げられているのだが、その横断幕には「所有者連帯」という5文字がはっきりと写っている。所有と連帯。見慣れない組み合わせだが、実はおなじみの組み合わせだ。そう、所有できなければ手を取り合えない世の中、むしろ所有しているからこそ力を合わせる時代だ。真冬の早朝に寒風にさらされたようにはっとした。

 資産と所得を説明する経済学の教科書の乾いた文章は、2020年代の韓国社会の現状をまったく説明できはしない。資産とは、個人や法人が所有する有形無形の価値であり、所得とは経済主体が一定期間にわたって労働や資本、土地のような生産要素を投入して経済活動に参加した対価として受け取る補償、と解釈される。ある時点での大きさ(資産)と一定期間の変化量(所得)の違いだ。時には「資産不平等が先か所得不平等が先か」の正解のない論争の素材としても登場する。しかしこの2つは、1つの平面上では比較しがたい、全く異なる次元の現実態である。例えば高所得者は「非常に高い確率で」資産を増やすだろうが、資産所有者は所有による所得が「絶対的に」保障される。所得が可能性の領域なら、資産は権利の領域であるわけだ。目に見えないウイルスが数百万の命を奪っても、人が作った社会制度(所有権)の枠組みは少しも崩さないという道理と同じだ。所有は社会をナイフで切るように分かつ、冷酷な切断線だ。

 このような事情であれば、財産税率引き下げの基準点を6億ウォン(約5500万円)にするか9億ウォン(約8260万円)にするかという最近の騒ぎも、少し違った目で眺める必要がある。所得と資産に課す税金は意味が明確に異なるからだ。いや、明らかに変わりつつあるからだ。「所得ある所に税あり」というのは、長きにわたって定着している命題だ。総じて資産にかける税金は、例外的かせいぜい助演程度と考えられる傾向にあった。誰が何と言っても、その間、世の中は急速に成長を重ねてきたし、所得も共に増えてきたのだから、十分に理解できるだろう。しかし、期待寿命が延び、雇用や雇用の枠組みが根本的に変わりつつある今日では、事情は全く異なる。何より不平等の溝が深まった世界では、毎年収められる資産税が、これまでとは異なりもう少し大きな役割を果たさなければならない。土地改革といった一過性のショック療法ではなく、定期的かつ恒久的な再分配システムが安定して作動しなけれならないからだ。

 ほとんどの国において、民間資産の合計は5~6年分の国民所得に匹敵する水準にまで膨らんでいる。これは、1年かけて稼いだ所得を一銭も使わずに貯めても、5~6年かかってようやく民間部門が所有する資産規模に達するということを意味する。主要国では、総資産の60%ほどが上位10%に集中したのは2010年代以降だ。韓国も同じだ。このまま行けば、不平等が最も深刻だったという1900年代初め(上位10%が80%以上を所有)の悲劇に至る日も遠くない。しかし現在の韓国社会の租税制度の重心は、過度なほど所得側に寄っている。地方税である財産税の年間税収規模は概算で10兆ウォン(約9170億円)台。国税のうち、性格上資産に課す税金といえる相続税、贈与税、総合不動産税を合わせても、昨年の税収は11兆ウォン(約1兆円)をちょうど超える程度。荒っぽく言えば、大体20兆ウォン(約1兆8300億円)強の税金を資産所有者から取り立てたわけだ。昨年の韓国の名目国内総生産(GDP)1910兆ウォン(約175兆円)の1%をかろうじて上回る数値だ。

 「平等であるほど早く発展するが、発展するほど不平等を生む」。資本主義のダイナミズムに内在する残忍な逆説だ。あらゆる挑戦と混乱の中にあっても、資本主義がこれまで生き残り、我々の生活を支える根本原理として定着してきた秘密は、不平等が限界値に達するたびに多くの自己更正メカニズムが絶妙なタイミングで作動してきた歴史的経験にある。自己更生メカニズムのより大きな役割が、資産に与えられるべき時だ。所有が社会構成員の運命を区別する基準点になってしまった世界では、持たざる者たちの連帯より持てる者たちの連帯の方がはるかに「不穏」である。

//ハンギョレ新聞社

チェ・ウソン|産業部長 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/968561.html韓国語原文入力:2020-11-04 18:05
訳D.K

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