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[コラム]在韓米軍が撤収したならば

登録:2019-11-19 21:04 修正:2019-11-20 07:47
韓米防衛費分担金特別協定(SMA)の第3回会議に、米国の首席代表として参加したジェームズ・ ディハート国務省先任補佐官が2019年11月19日、ソウル市龍山区南営洞の米国大使館広報課で交渉結果を発表し、ブリーフィング場を後にしている//ハンギョレ新聞社

 北朝鮮が外部に核開発の意志を初めて明らかにしたのは、1990年9月にソ連外交部のエドゥアルド・シェワルナゼ長官が北朝鮮を訪問した時だったという。ドン・オーバードーファーの本『ふたつのコリア』によれば、当時キム・ヨンナム北朝鮮外交部長は、シェワルナゼ長官が韓ソ修交計画を知らせると「ソ連が韓国を承認すれば、1961年の朝ソ安保条約の根幹が崩れるだろう。同盟が死文化すれば、北朝鮮は“望む武器”を開発しないという約束にもはやしばられないだろう」と言い放った。北朝鮮が話した“望む武器”が核兵器であることは言うまでもない。驚いたシェワルナゼ長官が、核開発を引き止めたが、北朝鮮は3年も経たずに核拡散禁止条約(NPT)からの脱退を決行した。第1次北朝鮮核危機の開始だった。

 この話を思い出したのは、先日マーク・ミリー米軍統合参謀本部議長が「普通の米国人は、在韓・在日米軍を見て、いくつかの根本的な質問をする。彼らがなぜそこに必要なのか。二つの国はとても豊かな国なのに、なぜ自前で防御できないのか」と話したためだ。米軍の高位要人が「防衛費分担金をより多く出さなければ、在韓米軍を撤収することもありうる」と暗に圧迫する発言と読まれ、ふと在韓米軍が本当に撤収したらどうなるだろうか、私たちも北朝鮮の先例に倣って核開発に乗り出すことになりはしないかという思いに考えが及んだのだ。

 南北間の軍事力は、在来式の武器だけで見れば韓国は北朝鮮に遅れをとることはない。盧武鉉(ノ・ムヒョン)政府の時の2004年、韓国の軍事力は北朝鮮軍の88%という評価が公開され議論になったことがあるが、李明博(イ・ミョンバク)政府の時の2009年には、韓国の戦力が北朝鮮を10%余り上回っていると分析された。米国の軍事力評価機関である「グローバル・ファイアパワー」(GFP)の2019年評価でも、韓国が世界7位で、北朝鮮(18位)を上回り、韓国の年間国防費は北朝鮮の40倍を超える。

 問題は北朝鮮の核兵器だ。核兵器は途方もない破壊力のために、在来式武器だけで対処するのは限界がある。北朝鮮が核実験やミサイル発射などをするたびに、韓国国内で保守勢力を中心に独自の核武装や米軍の戦術核再配備の主張が繰り返し提起された背景だ。とはいえ、これら核武装論が一時は広がったものの徐々になくなったのは、米国の核の傘提供の約束と、それを後押しする在韓米軍の存在のためだ。

 しかし、在韓米軍が撤収すれば状況は変わる。韓国国内で安保不安心理が増幅され、それが独自の核武装論が受け容れられやすい環境になるだろう。南北間の核均衡のために、韓国も核武装をしなければならないという主張は、現実的代案として大きな反響を呼び起こす可能性が大きい。もし事態がそのように展開するならば、米国は韓国の核武装を黙って見ているだろうか。おそらく国連制裁などの強力な懲戒措置を動員する可能性が高い。また、韓国の核武装は日本を刺激して、北東アジアの核ドミノにつながりかねない。どんなシナリオを念頭に置いても、結末は破局に近い。米国もそのような状況を決して望みはしないだろう。

 いかなる交渉でも、望む結果を得るために相手をあやしなだめることは当然にあることだ。しかし、二度と顔を見ることのない流れ者ぺテン師の詐欺行為でないならば、いくら交渉でも守らなければならない線がある。いくらか多くの金を受け取るために、在韓米軍の撤収まで口にするのは、長年の同盟国が到底口にできることとは思えない。在韓米軍は論議が起きるや、一歩遅れてツイッターで「米軍が武力衝突の予防と抑止のために北東アジアで遂行する安定化の役割を十分に説明する義務が私たちにある」というミリー統合参謀本部議長の追加発言を強調したが、あまりすっきりしなかった。米国が正式な防衛費分担金交渉の場では、在韓米軍の撤収問題を持ち出したことがないとはいえ、ミリー統合参謀本部議長が“外堀攻略”の役割を分担したのではないかとの疑問も出る。

 ドナルド・トランプ大統領の防衛費分担金増額の圧迫は、韓国だけに適用されているわけではない。韓国のみならず日本にも4倍の増額を要求しているという米国メディアの報道もあった。米国内でもやり過ぎだという批判の声が出ているが、それでもトランプ大統領が意思を曲げそうにはない。トランプ大統領が追求する同盟の“ニューノーマル”は、はたしてどんな姿であろうか。憂慮を禁じ得ない。

パク・ビョンス論説委員 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )

https://www.hani.co.kr/arti/opinion/column/917666.html韓国語原文入力:2019-11-19 18:59
訳J.S

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