最高裁2部(主審キム・サンファン最高裁判事)が随行秘書のキム・ジウン氏に対する性的暴行の疑いで起訴されたアン・ヒジョン前忠清南道知事の原審を9日、確定した。ソ・ジヒョン検事の告発とともに韓国社会に「Me Too」運動の火をつけたキム氏の昨年3月の暴露から554日目のことだ。有力な次期大統領選候補であり、普段からジェンダー問題に積極的な発言をしてきたアン前知事の事件は、韓国社会に衝撃を与えると同時に、「権力型性犯罪」の問題を本格的に提起した。職場内の性暴力犯罪における「威力」と「被害者らしさ」についての基準を確立した今回の判決を歓迎する。
これまでも「業務上の威力などによる姦淫」条項はあったが、実質的な処罰量刑はあまり重くなかった。特に暴行・脅迫を伴わない無形の威力に対しては認識が低かったのは事実だ。昨年、一審は「威力は存在するが、行使されなかった」との理由等を挙げて、公訴事実10件について、すべて無罪を言い渡した。一方、二審は「威力は有形無形を問わない」とし、暴行・脅迫などの物理的力だけでなく、政治・社会・経済的地位や権勢などを利用することもあるという点を明確にした。威力と行使が別々に存在するわけではないとの見解を示したのだ。最高裁判所も、これが従来の判例に沿うことを確認した。
事実、威力に対する最高裁判所の判例がこれまで数回あったにもかかわらず、アン前知事事件をめぐる論議が沸騰したのは、「被害者らしさ」という誤った通念が作用したためというのが大きい。暴露後にキム氏は二次被害に苦しまなければならなかった。「恋愛事件」ではないかと疑う視線も絶えなかった。一審も同様に性的暴行を受けた翌日のキムさんの行為などを挙げ、被害者の証言に信憑性がないとした。一方、二審は「被害者の供述の一貫性」を認め、「被害者らしさは偏狭な視点」だと強調し、韓国社会に蔓延する二次加害に警鐘を鳴らした。被害者の供述などを検証する時は「性認知感受性」を積極的に考慮しなければならないという点も明確にした。供述の信憑性・一貫性を問うことを前提としつつも、性暴力事件の審理の際には被害者が直面した状況、心理的状態、被告人との関係など総合的な状況と脈絡を考慮しなければならないという意味だ。最高裁判所が、「犯行前後に見せた一部の言行は、被害者とはみなせない行動ではない」と明示したことは、これまで「被害者らしさ」に閉じ込められていた性暴力判断の基準が間違っていたということを改めて確認したものと見ることができる。
いまも自分の被害をまともに話せない数多くの職場内性暴力の被害者がいる。昨年、ソウル女性労働者会の平等の電話に寄せられた職場内セクハラ相談819件のうち78%が、社長や職場の上司らの「威力による性暴力」事件だったという。被害者に向かって「なぜ拒否しなかったのか」「なぜその当時、すぐに言わなかったのか」などと問うのは、もう終わらせなければならない。1990年代初めにソウル大学のS教授の事件が韓国社会に「セクハラ」という問題に対する認識の転換をもたらしたように、今回の判決が法理にとどまらず、性平等の実現した職場と社会へと実質的に進んでゆく文化を作り上げる契機になることを願う。そのための認識の転換は、すべての社会構成員の役割だ。