先月29日、ドナルド・トランプ米大統領が訪韓する前、ハリー・ハリス駐韓米国大使がミン・カプリョン警察庁長官を訪ねた。「よろしく頼む」という特別な挨拶をするためだった。理由がある。2017年11月、文在寅(ムン・ジェイン)政府になって初めて韓国を訪問したトランプ大統領一行は、予想外のひどい目に遭った。大統領府晩餐を終え宿舎のハイアット・ホテルに戻る途中、世宗(セジョン)文化会館前に集まっていたデモ隊がトランプ大統領の車列に紙コップやペットボトルを投げたのだ。トランプ一行は直ちに方向を変えて世宗路の反対側の道路を逆走して宿舎に戻った。駐韓米国大使館と韓国警察が肝を冷やした“事件”だった。
先日、ソウル市が光化門(クァンファムン)広場にたてられたウリ共和党の不法テントの撤去に出たのも、トランプ大統領の訪韓と関係なくはないと思われる。朝鮮半島の緊張が最高潮に達した2年前のデモ隊が「戦争反対、トランプ反対」を前面に出した進歩側の人々だとすれば、今度は極右保守陣営の反トランプ・デモを心配することはある意味当然だった。北朝鮮をこらしめるだろうと期待していたトランプが、板門店で金正恩と共に北朝鮮の地を踏むサプライズイベントまで披露したことは、保守陣営にとって大きな裏切りと見えた。保守論客のチョン・キュジェ氏が「今後、大韓民国の保守はトランプや米国に依存しない路線を一日も早く確立しなければならない」と主張したのは、そうした情緒を代弁している。週末ごとにソウル中心部をひっかき散らす「太極旗集会」には、太極旗とともに星条旗が相変らず登場するが、「どうして星条旗を打ち振るのか」との声も内部からは出ている。
根深い親米指向の韓国保守が、「米国に依存しない路線」を追求するならば、それはともかく望ましいことだ。ところが、米国に依存しないことが、この頃では「日本依存」にその対象を変えただけのように見える。韓日関係破綻の責任をひたすら文在寅政府に負わせ、さらに裁判所の強制徴用賠償判決を阻止するために三権分立まで傷つけた朴槿恵(パク・クネ)政権の行動が正しかったと強弁するのは、どう考えても行き過ぎだ。
いくらもとから外勢依存的であったとしても、保守陣営のこうした姿は相当に異常だ。進歩を「時代遅れの民族主義」と非難しておきながら、日本の問題についてだけは反日感情を政治的に常に活用するのが韓国保守政権の姿だった。保守の元老に選ばれる李承晩(イ・スンマン)大統領は、解放直後に反民特委(反民族行為清算特別委員会)を無力化させながらも、日本とは絶対に修交できないと踏ん張った。韓日国交正常化の主役である朴正煕(パク・チョンヒ)大統領は、1970年代に金大中(キム・デジュン)拉致事件と陸英修(ユク・ヨンス)狙撃事件を契機に大規模な反日官製デモをそそのかし、政権の維持に活用した。
これは数十年前に限ったことではない。今の韓日関係の冷え込みは、2012年の李明博(イ・ミョンバク)大統領の独島(ドクト)訪問から始まった。韓日軍事情報保護協定をこっそりと推進し、よじれるとすぐに李大統領は突然対日強攻に旋回し、歴代どの大統領もしなかった独島訪問を実行した。親戚の不正行為などで政治的危機に処した李大統領が“日本カード”を世論反転の契機に活用したということは、容易に察することができる。その時、自由韓国党の前身であるセヌリ党と保守言論は諸手を挙げて支持した。東亜日報の1面ヘッドラインのタイトルは「命捧げて守らなければならない真の私たちの領土」という李大統領の発言だった。
今はそうではない。韓日のあつれきが破局に突き進む状況なのに、保守陣営は安倍晋三政権を批判することには関心がないように見える。文在寅政府の外交的失策を突くことにはるかに集中している。もちろん、カン・ギョンファ長官をはじめとする外交安保ラインが、過去数カ月間、韓日の懸案にちゃんと対応してきたかは疑問だ。だが、これが李明博大統領より10倍は無謀な安倍首相の行動を理解するための口実を提供するものではない。
安倍首相が貿易摩擦すら辞さずに韓日関係を悪化させているのは、単に参議院選挙の勝利という短期的目標のためとは見がたい。1965年の国交正常化以後、韓日関係の基盤は北朝鮮を“共通の敵”として想定した安保・経済協力だった。ところが、最近の朝鮮半島情勢のコペルニクス的転換は、こうした韓日関係の基盤を根元から揺さぶっている。安倍首相の強硬姿勢は、北東アジア情勢の根本変化まで念頭に置いた、より長期的な布石である可能性が大きい。韓国の保守勢力が、安倍に比較的好意的であるのは、“反北朝鮮・反統一”という旗じるしを共有していることを本能的に感じているためではないかと考える。米国のトランプが抜けた後の心理的空白を、安倍が充たしているのだろうか。