カン・ギフンがついに無罪判決を受けた。 すでに去る2007年に真実和解委員会の調査と決定を通じて1991年に焼身したキム・ギソルの遺書を代筆したという検察の起訴と裁判所の判決が誤りだったという決定が下された。 以後、裁判所は再審に入り、何と5年も引き延ばしてこういう決定を下した。
ところで "笑うことも泣くこともできない" という彼の所感が物語るように、私たちは "遅れたとは言え、それでも裁判所はまだ生きている" と慰めることはできない。 裁判所の決定どおりカン・ギフンが遺書代筆をしなかったとすれば、彼を起訴した検察は事件をねつ造した形になり、当時の裁判所はねつ造された事件被疑者を犠牲の羊にしたという話だ。 振り返ってみれば1991年当時、盧泰愚(ノ・テウ)政権と旧軍部勢力が民主化運動の勢いと相次ぐ焼身に驚いて、‘背後勢力がいなければ、このようなことが起きるわけがない’と予断した後に事件ねつ造という許し難い犯罪を犯し、民主化運動の道徳性に致命打を負わせ権力を安定化するという利益を得たためだ。
ところで、カン・ギフンは無罪になっても、当時誰が、どんな勢力が‘遺書代筆’というアイデアを出して事件をねつ造したのかはまだ明らかになっていない。 カン・シンウク当時ソウル地検強力部長が捜査を指揮し、主任検事はシン・サンギュ前光州(クヮンジュ)高検長であり、アン・ジョンテク、パク・ギョンスン、ユン・ソンマン、イムチョル、ソン・ミョンソク、ナム・ギチュン、クァク・サンド検事が捜査チームにいたという。 当時の検察総長はチョン・クヨン(弁護士)、ソウル地検長はチョン・ジェギ(弁護士)、法務部長官はキム・ギチュン現大統領府秘書室長だ。彼の有罪を確定した判事は1審ノ・ウォンウク部長判事、チョン・イルソン、イ・ヨンデ陪席判事であり、2審イム・デファ部長判事とユン・ソクチョン・プ・グウク陪席判事であった。 上告審でパク・マンホ最高裁判事を主審としキム・サンウォン、パク・ウドン、ユン・ヨンチョル最高裁判事がカン・ギフンの有罪を確定した。 これら検事・判事らは全てこの事件以後に出世街道を走り、その内、政治に入城した人の全員がセヌリ党に公認申請したり、朴槿恵(パク・クネ)の当選に寄与した。 キム・ギチュンは現在、朴槿恵政府の権力の頂上である秘書室長として活躍している。 反面、犠牲の羊にさせられたカン・ギフンの人生は凄惨に崩れた。 刑を終えて出てきた後にも、隣人の冷遇と足蹴に遭い、人間扱いを受けることすらできずに生きたし、ついには肝臓癌が悪化して坑癌治療も受けられない状況になった。
カン・ギフンは司法府と検察の謝罪を期待しているが、未だに彼を起訴し有罪判決を下した人の中で誰にも謝る意志はないようだ。 事実ねつ造の真相究明ができていない状態で、この事件が彼らの謝罪や反省で終わるものかはわからない。 事件ねつ造は深刻な国家犯罪であり、被害者にとっては途方もない国家暴力だ。 従ってねつ造を指揮した人が明らかになれば、彼は責任を負わなければならない。 もちろん真相究明がなされて加害者が謝罪と反省をしているからと言って、カン・ギフンのような過去のねつ造事件被害者の破壊された人生が復元されることもなく、ねつ造を主導した勢力がそれを通じて得る権力と地位も剥奪される可能性は殆どない。 だからこそ、このねつ造事件の真相糾明、現職にいる関連者の辞退は私たちが考えられる最低線の正義だ。
今回の判決以後、市民社会陣営が別名‘カン・ギフン法’の制定を要求しているのも、まさにこのような理由からだ。 すなわち「国家犯罪を犯した者に対する控訴時効の廃止を通じた責任者の刑事処罰、公職追放、叙勲剥奪、求償権行使など」が必要だということだ。
もし、キム・ギチュンなど関連者が公職から辞退するどころか、小さな良心の呵責も感じないならば、私たちは今後もこのような事件ねつ造が続きかねないと判断しても良いだろう。 今、国家情報院と検察が‘ソウル市公務員スパイ事件’の証拠をねつ造した疑いが明らかになっているではないか?
キム・ドンチュン聖公会大社会科学部教授