福島第一原発に保管中の汚染水の海洋放出が目前に迫っている中、韓国や中国など周辺国が安全性に不安を感じるのは、日本政府が十分な情報を提供しなかったためという専門家の指摘が出た。
東京大学大学院の関谷直也准教授は21日付の朝日新聞とのインタビューで、汚染水の海洋放出について、「韓国や中国など近隣諸国の国民の不安が解消されていない。日本政府の情報発信が足りなかったのがこのような問題の大きな要因」だと述べた。尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権と与党「国民の力」は、(野党などの)「怪談」が国民の不安を煽っていると主張しているが、日本の専門家でさえ日本政府が情報をまともに発信できなかったためだという見解を示したのだ。
関谷教授は2017年と2022年、韓国、中国、台湾など10カ国の国民3千人を対象に2011年3月の福島原発爆発事故に対する意識調査を実施した。事故発生から11年が経った昨年の調査でも、韓国では回答者の6割弱が福島放射性物質の影響で自国の海産物の安全性を不安に思っていると答えたと紹介した。中国も5割強の人が同じ反応を示した。福島県産の海産物について、韓国では8割弱、中国では6割弱の人が不安に感じていることが調査で分かった。
関谷教授は「(韓国や中国などは、2011年3月の原発)事故で自分の国も汚染された、福島もまだ汚染されているという意識を払しょくできないまま、現在まで来てしまった。このような状況のなかで『処理水を流しても問題ありません』と(日本政府が)言っても理解されるはずがない」と説明した。ただでさえ不安なのに、原発汚染水の海洋放出で安全性に対する懸念がさらに高まっているという指摘だ。
近隣諸国が汚染水を政治的に利用しているのではないかという質問に対しては、「実際、中国や韓国に暮らす国民も汚染水を不安視している」と強調した。関谷教授は「中国政府の批判的な発言や韓国政府の国際海洋法裁判所への提訴検討などについて、日本政府は近隣諸国の政府が(汚染水の海洋放出を)政治問題にしていると捉えてきたところがある」と述べ、「韓国では政権が代わり、視察団を福島に送るなど処理水問題への対応を変えた。ただ(韓国)国民の不安は消えておらず、問題は解消されていない」と診断した。
日本政府はこれまで、国際原子力機関(IAEA)など国際機関を中心に汚染水問題に対応し、近隣諸国に十分な説明と資料公開をしてこなかった。関谷教授は「日本政府は国際原子力機関(IAEA)に計画の調査を依頼し、国際放射線防護委員会(ICRT)や経済協力開発機構(OECD)といった国際機関とは積極的に連携し、情報を共有してきた」とし、「情報をより積極的に共有すべきだったのは、不安感が強い近隣諸国に対してだろう」と語った。