1970年代から80年代にかけて、中国の首都北京の主な交通手段は自転車だった。天安門広場前で信号を待つ「自転車部隊」の様子は、中国の立ち遅れた経済を象徴する場面として広く使われた。1990年代に入ってからは自家用車と公共交通機関が増え、空気の質が悪化したことで急激に減っていた北京の自転車部隊が、近ごろ復活してきている。安いシェアサイクル(共有自転車)、整備された自転車専用車線、新型コロナウイルス禍による公共交通機関の忌避現象などが影響を及ぼしたとみられる。
18日午後6時、アリババやポスコなどの大企業が集まる北京朝陽区の地下鉄望京東駅C出口前。黄色、青、ミント色のシェアサイクルが絶えず押し寄せてくる。1時間前には数十台ほどだったシェアサイクルが300台ほどになった。まもなくシェアサイクル会社の「分散員」が出動し、自転車を小さなトラックいっぱいに積んで他の地域へと運んで行った。ラッシュアワーの北京の地下鉄駅ではよく見られる風景だ。
美団、哈羅、青桔が95万台運用…1カ月3千ウォン、自由駐輪がメリット
北京が再び自転車の町になったのには、シェアサイクルが大きな役割を果たしている。多くの人が共用するシェアサイクルは、初期購入の負担、駐輪や保管の心配がなく、いつでもどこでも気軽に自転車が使えるという長所がある。
「北京商報」の報道によれば、北京では2015年からシェアサイクルが導入され、一時は10社あまりが235万台を運用するほど乱立していた。北京の人口が2100万人であることを考慮すれば、住民9人にシェアサイクル1台の割合であり、投資が過度だった。現在はフードデリバリー・プラットフォーム「美団」、電子商取引プラットフォーム「アリババ」系列の「哈囉」、車両呼び出しプラットフォーム「滴滴」系列の「青桔」の3社が95万台を運用している。住民22人に1台の割合だ。自転車は減ったが、利用量は急増した。北京交通発展研究院の資料によれば、2017年の北京のシェアサイクル運用回数は5千万回だったが、2021年には9億5千万回に増えている。北京の住民1人当たりだと、2017年には年間2.4回だったのが、2021年には45.2回に増加したことになる。
3社のシェアサイクルは利用料の安さ、どこでも駐輪できるサービス、自転車の耐久性の良さなどが特徴だ。アリババ系列の哈囉単車(ハローバイク)のひと月の利用料は15元ほどで、韓国ウォンで3000ウォンにも満たない(日本円で300円ほど)。美団の1回の利用料は1.5元(290ウォン)で、1カ月の利用料は哈羅とほぼ同じ3000ウォンだ。
これらのシェアサイクルはどこにでも駐輪できる。ソウル市のシェアサイクル「タルンイ」の場合は適切に管理するために専用の駐輪スペースが設けられているが、3社の自転車は駐輪が自由だ。シェアサイクルが特定の時間と場所に集中する現象は、人員を投入して手作業で自転車を分散させるというやり方で解決する。自転車を個人が独占したり、駐輪してはならない森の中や人里離れた場所に駐輪したりした場合は、ユーザーの身元を把握し、その後の利用を制限する。これらの会社の自転車には空気を入れなくてもよいタイヤが装着されているため、管理の手間も大幅に減った。
安全な自転車専用車線、コロナも一役
シェアサイクルだけで北京が自転車の町になったわけではない。ソウルとは異なり平地に位置する北京は、往復8~10車線の広い道路が多く、郊外はもちろん、中心部にも自転車専用車線が多く整備されている。また、自転車専用車線のかなりの部分が花壇などで車道と分けられているため、安全性が高い。駐車や右折をする自動車は自転車専用車線に進入できるものの、自転車やバイクなどの二輪車が優先される。
北京市は自転車専用車線の確保に力を注いでいる。北京市が発表した「2021年北京市慢行(遅い走行)体系品質向上対策」によれば、幅12メートル以上の道路は2.5メートル以上の自転車専用車線を確保することとし、2021年には実際に約32キロメートル、97本の道路で整備を実施した。
コロナ禍も北京の自転車復興に一役買った。コロナのせいで市民が公共交通機関を敬遠するようになったことで、1人乗りの自転車が注目されたのだ。朝夕の通勤と帰宅に自転車を利用する人が増えたほか、買い物をしたり約束場所に行ったりする時や、運動をする際にも自転車を利用する人が増加した。
コロナ禍開始以降、急激に改善した北京の大気の質も肯定的な役割を果たした。かつての北京は春や夏に黄砂や粒子状物質が非常にひどかったため、人々は自転車に乗るのを敬遠していたが、大気の質が改善したことで自転車に乗ることを楽しむようになったのだ。中国生態環境部が今年発表した中国国内337都市の微小粒子状物質(PM2.5など)の平均濃度は、2021年が1立方メートル当たり30マイクログラムで、2015年の同46マイクログラムに比べて大きく改善されている。2020年は同33マイクログラムだった。