本文に移動

「台風より五輪が怖い」…五輪に追い出された日本のホームレスたち

登録:2021-08-19 04:07 修正:2021-08-19 07:59
オリンピックナビゲーション
日本の市民が先月23日、2020東京五輪開会式が開かれた東京新宿区の国立競技場の近くで「五輪は貧しい人を殺す」と書かれた横断幕を掲げて五輪反対デモを行っている=東京/AP・聯合ニュース

 2020東京五輪が閉幕した8日、東京の新宿区に位置する国立競技場。この日の閉会式は一部の貴賓と取材陣だけが参加した中で行われた。開会式の行われた7月23日には4225人だった日本国内の新型コロナウイルスの1日の新規感染者数は、1万4472人と3倍以上に増えていた。日本の世論は沸き立ち、競技場の外では五輪反対デモが行われた。人の家の庭先で家主を無視して宴を開くようにばつが悪い格好となった。

 閉会式翌日の9日、国立競技場から約2キロ離れた渋谷の代々木公園。ここには、その宴のせいで生活の場から完全に追い出された人たちがいた。日本のホームレスたちだ。彼らは五輪開催都市に居住しているという理由だけで、何とか残されていた住処すら奪われた。日本は総合3位で過去最高の成績を残し、菅義偉首相はその日、(五輪開催は)日本だからできたと自画自賛した。しかしここのホームレスたちは、五輪について尋ねると隠れるか、怒るかだった。

 この日の東京は台風の影響で強い風が吹いていたが、テントに頼って暮らすオガワテツオさん(42)は「私たちは台風よりも五輪の方が怖い」と語った。オガワさんはホームレス当事者で、代々木公園で10年以上暮らし、ホームレス運動に参加している。2013年からは東京五輪反対運動にも参加してきた。

オガワテツオさんが9日、東京渋谷の代々木公園にある自分のテントの前で本紙のインタビューに応じている=東京/イ・ジュンヒ記者//ハンギョレ新聞社

 東京五輪開催が確定したのは2013年。オガワさんはその時からホームレスに対する「排除」が始まっていたと振り返る。その年の2月、立候補地視察のために東京を訪れた国際オリンピック委員会(IOC)のバスが通る道沿いのホームレスのテントなどに、撤去警告がはり出された。IOCの視察のためとは明示されていなかったが、ホームレスの人たちは「それまでにああいったことはなく、移動期間が視察期間内だったので、五輪のためだと思う」と語る。

 その後もホームレスの人たちは、東京五輪関連施設の建設などを理由として、住んでいた場所を追われなければならなかった。オガワさんは「社会運動と関係のあるホームレスはまだましだったが、そうでない場合は、完全に追い出された後になってそのことが認知された人もいた」と回想した。オガワさんは「大会が終わったら元の場所に戻れるかもしれないが、パラリンピックまで考えると少なくとも2カ月以上は住処を失うことになる」と語った。

 ホームレスにとっては、コロナよりも五輪による居住地の剥奪の方が恐怖だった。オガワさんは「五輪で海外から人が来ることについては、それほど心配はなかった。本当に怖いのは生活の場を追われることだ」と話した。オガワさんはむしろ「コロナによって規模が縮小したことで、当初の当局の計画よりもホームレスが排除されるケースが減ったと思う」と安堵してもいる。

代々木公園にあるホームレスの住処。オガワさんは「ここのホームレスにはテントなしで生活する人もかなり多い。テントは自分で建てる家と同じなので、急に追い出されたら建て直すのも難しい」と説明した=東京/イ・ジュンヒ記者//ハンギョレ新聞社
あるホームレスが上野公園で飲酒禁止の案内の前に立っている。上野公園は日本の代表的なホームレス集結地だったが、2010年代に各種の行政施策によって急速にその数が減少した=東京/イ・ジュンヒ記者//ハンギョレ新聞社

 五輪でこのような問題が繰り返されるのは昨日今日にはじまった話ではない。韓国も1988年のソウル五輪の際に、「外観上の理由」から多くのホームレスを追い出した。2016リオ五輪は貧困層を「ファベーラ」(貧民街)の中に押し込めたまま大会を行った。オガワさんは「五輪が貧しい人の役に立ったことはほとんどないと思う」とし「建設業者、電通(日本の大手広告会社)、彼らとつながる政治家こそ五輪で利益を得る人たち」と批判した。

 持てる者が五輪で富を増やす間に、貧しき者は五輪が生む様々な副作用に苦しむ。日本の週刊誌「フライデー」は6月25日、日本でコロナによりホームレスのための各種の小規模事業がなくなり、15年ぶりに街角に物乞いが登場したと報じた。日本政府は、五輪と感染者の増加は関係がないとしているが、開幕以降、感染者は急激に増えており、苦しい時期はさらに長引く見込みだ。コロナの拡散で経済の正常化がさらに遠のいているからだ。

 IOCは東京五輪開幕を控えた7月20日に総会を開き「より速く、より高く、より強く」という従来の五輪モットーに「共に(Together)」という言葉を加えた。その「共にする対象」に貧しい人は含まれないのだろうか。

 「日本では一般の人たちの命より選手たちの方が大切なんだと思います。命の価値が違うのです。もちろん、大会を開いたのはそもそも選手たちのためでもなく、復興のためでもなかったですからね。当然、権力者たちは貧しい人々のことなんか考えてもいなかったでしょうね」

 本紙に五輪閉幕の感想を述べた20代の日本の女性の言葉からは、依然として五輪の道ははるか遠くにあることが感じられる。

東京/イ・ジュンヒ記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/international/japan/1008112.html韓国語原文入力:2021-08-18 11:59
訳D.K

関連記事