もしも、もしもですね。 アメリカと北朝鮮の間に紛争が起きるとしましょう。世界の覇権国として自国の利益のためなら先制攻撃も厭わないアメリカが北朝鮮を攻撃します。北朝鮮はどんな形態にしろ報復するでしょう。 韓国に、特に在韓米軍基地に砲弾が飛んで来るかも知れません。 この状況でいきなり自衛隊の戦闘機が飛び立って北朝鮮の攻撃原点を攻撃します。小説ですって? もちろんです。 しかし現在、日本政府が実際に「法的には可能な事」と言明している内容でもあります。
「航空自衛隊は(2011年12月)最新鋭戦闘機F-35の導入を決めた。 この機体は敵のレーダーに捕捉されにくい高いステルス性能を持っている。この機体の行動半径は?」(穀田恵二議員)
「約1100キロメートルだ」(中谷元防衛相)
「これは空中給油なしでも朝鮮半島、ロシア、東シナ海まで戦闘行動が可能であることを意味する。さらに看過できないのは、搭載可能な武器だ。『合同空対地長距離ミサイル』(JASSM)というのは何か?」
「AGM-158のことで、ステルス性能を有する長距離精密誘導空対地ミサイルだ。現在アメリカのF-16とF-15に搭載されており、将来 F-35にも搭載予定と聞いている。 しかし現時点で航空自衛隊の F-35Aにこれを搭載する予定はなく、詳しいことは分からない」
「現在予定にないということは『未定』(今後の搭載計画を全面否定したものではないという意味)という話に聞こえる。この兵器の射程距離は約370キロメートルだ。 東京から名古屋まで届く距離だ。 F-35は“敵の基地攻撃”のための全ての要件にぴったりの戦闘機ではないか?」
「現在自衛隊は敵基地攻撃に必要な一部の装備は持っているが、一連の作戦を行なうための装備体系はない。 F-35が導入されるとしても、そのような事実には変わりはない」
衆議院特委での穀田議員の質議
1日午後、集団的自衛権の行使を骨子に安保法制制・改定案を審議するために設置された衆院特別委員会。 この日の審議の最後の質問者として立った日本共産党の穀田恵二議員(68)は、最近安倍政権の核心人士から不審な発言が続いている「敵基地攻撃論」に関して鋭い質問を浴びせた。 すると終了ムードに流れていた審議が俄然活気を帯び始めた。
この日、穀田議員と中谷防衛相の間で交わされた質疑応答内容は、これまで韓国など日本の周辺国が強い関心を持って来た日本の敵基地攻撃能力を巡る多くの疑問を解決するのに、少なからぬ示唆点を提供するものだった。 これを通して日本が今まで「法理論上は可能であるが実際の能力は備えていない」と重ねて明らかにして来た敵基地攻撃能力が、今後航空自衛隊の導入する F-35A(42機の予定)により画期的に強化されることが明らかになったからである。中谷防衛相が穀田議員の質議に若干巻きこまれる様子を見せると、安倍晋三首相までが乗り出して「F-35に期待する主な役割は(敵基地攻撃ではなく)相手の戦闘機に対する迎撃だ」として収拾を図ったが、これを巡る疑惑は依然すっきり解消されていない。
中谷防衛相の発言で波紋
日本が北朝鮮から攻撃を受けなくても
アメリカが北朝鮮の攻撃を受ければ
日本が北朝鮮を攻撃することができるという
「敵基地攻撃論」日本で急浮上
F-2戦闘機にJDAM搭載して
米豪連合射撃訓練も
F-35にJASSMなど搭載すれば
日本の敵基地攻撃能力は
事実上稜線の8~9合目に到逹した計算
日本が行使することになる集団的自衛権が朝鮮半島にどんな波及効果をもたらすかについては、これまで多様な分析が溢れている。 これと関連して韓国が当初抱いた憂慮は、自衛隊が韓国の同意なしに朝鮮半島に上陸する可能性も生じるのではないかという不安だった。韓国軍の戦時作戦権は韓国大統領ではなく在韓米軍司令官が行使するのだから、米軍が軍事作戦上の理由で自衛隊の韓国上陸を推進する場合、韓国がこれを拒否することは不可能というのが憂慮の核心だった。 しかしこの議論は日本政府が先月国会に提出した「重要影響事態法法案」に「外国領域に対する対応措置は、当該国の同意がある場合に限り施行することとする」(第2条4)という内容を挿入することで、ある程度一段落ついた状態だ。 実際に朝鮮半島で戦争が起こった場合、アメリカがどんな判断を下すか分からないが、一旦日本が韓国の憂慮をある程度解消できる内容を法案に明文化したからだ。
しかし、中谷防衛相が先月17日、フジテレビの朝の討論番組に出演して、日本が集団的自衛権の行使を通して北朝鮮のミサイル基地を意味する「敵基地」を攻撃することもできるという見解を明らかにし始めてから、雰囲気が妙な方向に流れている。 これは日本が直接北朝鮮の攻撃を受けたわけでなくても、アメリカが攻撃を受ければ、日本が北朝鮮のミサイル基地などを攻撃できることを意味することなので、日本国内でも少なからぬ波紋を起こした。
最近日本で進行中の敵基地攻撃論議は、北朝鮮の核とミサイルの脅威を緩和しながら北東アジアの安定を追求して行かなければならない韓国に、また別の頭痛の種を与えるものでもある。 そのためハン・ミング国防部長官は先月30日にシンガポールで4年ぶりに開かれた韓日国防長官会談で中谷防衛相に対し、韓国の憲法上北朝鮮も韓国の領土であるから敵基地攻撃は 「韓国との事前協議と同意の対象」である点を明らかにした。 これに対して中谷防衛相は「後日、論議しよう」と即答を避けたと伝えられた。 元日本の防衛相だったある人物は最近ハンギョレと会って「韓国の憂慮は理解するが、北朝鮮も厳然たる国連加盟国だ」と言った。
最近日本で急浮上した敵基地攻撃論は、過去数十年間日本で進められて来た論議と大きく二つの点で本質的に異なるものと解釈される。第一の争点は、何のための敵基地攻撃かという問題だ。
これまで日本でなされた敵基地攻撃論関連論議は、あくまでも日本が敵国から攻撃を受ける事態を前提とした“個別的自衛権”を巡る論議であった。 日本でこの問題が安保政策上の“厄介な問題”扱いを受けて来たのは、日本の防衛政策の大きな枠組みである 「専守防衛原則」と本質的な論理的矛盾を起こすからである。 専守防衛とは 「日本は敵の攻撃を受けた場合にのみ、初めて武力を行使する」という受動的な防衛戦略を意味する。 しかしこれを文字通りに守った場合、日本が敵のミサイル攻撃などで被害を受ける確率が99.9%確かであっても、実際に攻撃がなされない限りは武力を使うことができないという安保上のジレンマに陥ることになる。
米日ガイドラインの文句も曖昧に変わる
この問題に関して鳩山一郎元首相(1883~1959)は1956年衆院内閣委員会で「日本に対する急迫不正な侵害がなされ、その侵害の手段として日本の国土に向けて誘導弾などの攻撃がなされる場合、『座して自滅を待つということ』が憲法の趣旨であるとは考えられない。 このような攻撃を阻むために誘導弾などで基地を叩くことは、法理的に自衛の範囲に含まれると見るべきだ」という見解を明らかにした。「座して死を待つわけにはいかない」という日本政府の見解は、1959年の伊能繁次郎・当時防衛庁長官(1901~1981)や1999年の野呂田芳成・当時防衛庁長官(85)の国会答弁などを通して、日本政府の確立された原則として継承されるようになる。日本はその一方で、「日本が敵基地攻撃を行えるということはどこまでも法理的な話であって、実際にその能力は持たない」という曖昧な均衡を維持して来た。 しかし今回の論議を通して日本政府は、自国が直接攻撃を受けていない状況であっても集団的自衛権の行使のための新3要件に該当しさえすれば、北朝鮮のミサイル基地攻撃は法理的に可能であるとして、敵基地攻撃の行使条件を大幅に拡張した。
第2の変化は、日本政府が表向き掲げる“レトリック”とは異なり、実際の敵基地攻撃能力は相当部分備えているという点である。敵基地攻撃論と関連した最近の動きは、2013年6月に公開された自民党の「新防衛計画大綱策定」に関する提言であった。 この提言で自民党は「これまで法理上は可能であるとして来た自衛隊の敵基地攻撃能力の保有について、周辺国(事実上、北朝鮮)の核兵器、弾道ミサイルなどの開発、配置状況を考慮して早急に結論を出す」という内容を入れ込んだ。 これは2013年12月に発表された防衛計画大綱で「弾道ミサイル発射段階などに対応する能力も検討した後、必要な措置を講ずる」という条項に具体化される。
これと同時に日本は、2013年10月に始まった米日防衛協力のための指針(ガイドライン)改定過程で、自衛隊が将来敵基地攻撃能力を行使できるようアメリカと水面下の交渉を進めて来た。 ロイター通信は昨年10月、複数の関係者の話を引用して「日本防衛省と米国防省の間に担当者レベルで、自衛隊がこの能力を保有すべきか否か、及びその可能性についての研究、論議がなされている」と伝えた。 それにより、4月末に改定された「新米日ガイドライン」では敵基地攻撃に対する言及が既存の「米軍は必要に応じて打撃力を有する部隊の使用を考慮する」から「弾道ミサイル攻撃の兆しがある場合、自衛隊及び米軍は日本に向けた弾道ミサイル攻撃に対して防衛する」に変わった。 1997年改定の既存ガイドラインが敵基地を実際に撃つのはアメリカであるという点を明確にしているのに対し、新ガイドラインはどちらがこれを施行するのかわからない曖昧な表現に変わったのである。
現在日本は敵基地攻撃能力をどの程度備えているのだろうか
守屋武昌・元防衛庁長官(70)は、2003年3月参院外交防衛委員会で敵基地を撃つ際に必要な能力として、敵の防空レーダー破壊能力▽航空機の低空進入能力▽空対地誘導弾または巡航ミサイルなどに挙げている。 このためには、攻撃すべき敵基地を特定できる人工衛星など情報資産、実際の作戦に投入される戦闘機、その戦闘機に装着する空対地誘導ミサイル、戦闘機の長距離飛行を支援する空中給油機、敵の内陸でレーダーと迎撃機の活動を妨害する電子戦戦闘機(electronic warfare aircraft)、このすべての作業を統制する空中早期報知機(AWACS) などの装備体系を備えなければならない。
このうち戦闘機については、航空自衛隊はF-2戦闘機にレーザー誘導型合同精密直撃弾(JDAM)を搭載した状態だ。実際、F-2は去年 2月グァムで行なわれた米日豪連合軍事訓練で実際の射撃訓練も実施している。 この能力は今後F-35戦闘機にJASSMなどが搭載されればさらに強化される見込みだ。日本はまた作戦に必要な空中給油機(KC-767)と空中早期報知機(E-767)もそれぞれ4機ずつ確保している。 そのためこの日、中谷防衛相は穀田議員の相次ぐ追及に現在日本の自衛隊に不足している装備として「他国の防空用レーダーの妨害無力化に使われる電子戦用航空機などが必要だ」という答弁を残した。 このような情況を総合して見れば、日本の敵基地攻撃能力が事実上完成の8~9合目まで到逹しており、アメリカとの合同軍事作戦を通してならばすぐにでも北朝鮮の基地を撃つ能力を具備しているという判断を下すことができる。
なぜ寧辺爆撃検討の時、アメリカの協助要請を拒否したのか
このような事実は韓国政府に少なからぬ頭痛の種を提供するものだ 。 もちろん現在日本で進められている論議のように、北朝鮮がアメリカを攻撃し、それに対する報復として日本が北朝鮮のミサイル基地を攻撃するという状況が実際に発生する可能性はゼロに近い。 しかし、軍事的役割と能力の拡大された自衛隊が、北朝鮮を対象としたアメリカの今後の軍事的判断に影響を及ぼす可能性はいくらでもある。
実際にアメリカは1993年の第1次北朝鮮核危機の時、核施設が密集している寧辺爆撃を検討したことがある。 このために日本に兵器および弾薬の提供、米艦船の防御、民間の空港および港湾の利用など1500余項目の支援を要請したが、日本政府は憲法9条を理由にこれを拒否する。結局アメリカは軍事行動をあきらめて 1994年10月、「ジュネーブ合意」を通して第1次核危機を終息させた。 しかし当時自衛隊に敵基地攻撃のための力量とこれを行使する意志があったならば、アメリカの判断はいくらでも変わった可能性がある。
穀田議員は4日、ハンギョレとの別途のインタビューで「アメリカは先制攻撃をする国だから、攻撃した国からいつでも反撃される可能性がある。 安倍政権の主張は、その場合攻撃されたアメリカのために自衛隊が敵基地を攻撃することができるという非常に危険な論理だ」と話した。彼は続けて「日本は平和憲法の精神を通して東アジアの武力紛争をあらかじめ防止することに貢献しなければならない。朝鮮半島の有事事態で一番苦しむことになる韓国のことを考えるどころか、アメリカを助けることばかり考えている現在の安倍政権の態度は間違っている」と指摘した。