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韓国を含む多くの国が核廃棄物を排出中
2020年にIAEAのラファエル・グロッシ事務局長が、日本による福島第一原発の汚染水放出について「技術的に可能であり、また国際的な慣例に沿ったもの」と発言したのも、同じ脈絡からのものだ。彼が言うように、これまで国際社会は海に多くの核廃棄物を捨ててきた。
国際的に高レベル核廃棄物の海洋投棄が1993年に禁止されるまで、13の国が太平洋、大西洋、北極海などに核廃棄物を捨てていた。それは核兵器を保有している国だけではなく、軍事用、医療用、産業用の核廃棄物も海に捨てられていた。韓国近隣では、ロシアによる原子力潜水艦用の原子炉の東海(トンヘ)への投棄、韓国による研究用核廃棄物の東海への投棄、日本による太平洋への投棄などの例がある。大気圏での核実験は2000回以上行われており、チェルノブイリや福島で原発の事故まで発生しているため、全世界の海水からは現在、自然には存在しないプルトニウムなどの「人工放射性核種」が発見されている。人間が地球環境に影響を及ぼした地質時代を意味する人新世(Anthropocene)のマーカーに、プラスチックやニワトリの骨と共に人工放射性物質が含まれているのはそのためだ。
幸い1993年以降、高レベル核廃棄物の投棄は止まったが、福島第一原発の汚染水のような低レベル核廃棄物の海洋投棄は今も続いている。福島第一原発の汚染水にトリチウムが含まれていることが争点になると、日本政府は韓国の月城(ウォルソン)原発に言及しつつ、韓国もトリチウムを海に捨てているとして福島第一原発の汚染水放出の正当性を主張した。原発を運用している韓国水力原子力のウェブサイトによると、月城原発以外の原子力発電所も液体または気体のかたちで核廃棄物を排出している。「あなたたちもゴミを捨てておきながら、なぜ自分たちだけにとやかく言うのか」という論理だ。事実、その表現だけを見ればそのとおりだ。IAEA事務局長の言うように、核廃棄物を捨てるのは核産業界の「長年の国際慣例」だからだ。
そのような汚染水は、放出されても何の問題もないのだろうか。そんなはずはない。今も福島近隣では基準値以上に汚染された農水産物が出ている。2022年に日本の厚生労働省が公開した農水産物のサンプル検査の結果によれば、検査を行った3万6千点あまりの農水産物の11.0%からセシウム134などの放射性物質が検出された。放射性物質が多く検出されるのは特定の農水産物からであり、たらの芽とタケノコからは検査試料の21%、水産物ではヤマメの5.3%から放射性物質が検出された。
直接的な被害生む「怪談」
福島第一原発事故が起きてから10年以上たつが、近隣地域の土壌と海はすでに汚染されている。日本政府の計画通りに汚染水が海に放出されれば、すでに汚染されている海がさらに汚染され、放射性物質が生物に濃縮される「生物濃縮」が加速する。また、このような問題が生じれば、消費者は直ちに水産物の消費を減らす。日本は水産物の消費が多い国として有名だった。2000年代以降、日本の水産物消費は減少を続け、2011年の原発事故は水産物消費の減少に決定的な影響を与えた。現在の日本の1人当たりの水産物消費量は、2000年代初頭に比べて40%ほど減少している。
このような影響について日本政府と福島第一原発を運用する東京電力は、「風評被害」だとして努めて被害の意味を隠蔽するが、海洋汚染で食文化が変わることを単なる「風評の問題」とみなすべきなのかは疑問だ。東京電力は2022年末、汚染水の排出による風評被害の賠償基準まで設け、約5千億円(約4兆8400億ウォン)規模の賠償を準備している。風評被害は「怪談」にとどまる話ではなく、漁業者にとっては非常に直接的な被害であることを東電も認めているのだ。
一方、韓国ではこのような被害がどれくらい生じるのか、国内の漁業者と水産業にどれほどの影響を及ぼすのかについての政府レベルの分析はない。日本では直ちに実現する被害への賠償に、韓国政府は何も手を付けていないという批判が起こらざるを得ない。
汚染された土壌から海へと流れ込む汚染水をすべて防ぐことはできないというのなら、少なくともすでに回収してある汚染水を海に捨てないのは当然のことだ。しかし日本政府は「国際慣行」や「被害の軽さ」などを理由に汚染水の海洋放出方針にこだわっている。だがこれより大きな問題は、海洋放出が「最も安くて手軽な方法」だということだ。2016年に初めて海洋放出案が発表された際に提出された別の案(水蒸気蒸発、電気分解、地下埋設、地層処分)に比べ、海洋放出は最も安い方法だった。それもそのはず、そのために必要なものは、既存の1千基のタンクに保管されている汚染水を海に排出するためのパイプくらいだ。
保管場所がないという日本の論理は苦しい
皮肉にも汚染水処理の模範的な解決策は、今のようにそのままにしておくことだ。現在、約140万トンの汚染水は1千基の貯蔵タンクに保管されている。ソウル蚕室(チャムシル)の石村(ソクチョン)湖の淡水の量は636万トンだ。現在の汚染水の総量は石村湖の4分の1ほどだ。また、2021年に完成した蔚山(ウルサン)石油備蓄基地の貯蔵容量(1030万バレル、163万トン)ほどもあれば、現在あるすべての汚染水を保管しても余る。福島第一原発の周辺地域の土壌が汚染され、現在も立ち入りが規制されていることを考えると、汚染水を貯蔵する場所がないから海洋放出しなければならないという日本政府の論理は実に苦しい。日本の市民団体が海洋放出ではなく陸上保管を主張するのも、それが汚染水放出による環境的、外交的批判を減らすための最小限の措置であるからだ。
これまでの韓国政府の対応のあり方は、海洋放出による環境汚染をきちんと指摘できていなかったという問題もあるが、陸上保管のような根本的な代案が提示できていなかったという問題の方が大きい。日本政府の対応論理に対して、単なる「情報公開」や「懸念表明」程度にとどまっているのだ。遅れはしたものの、漁業者をはじめとする韓国国民に及ぼす影響を政府レベルで分析し、積極的に代案を提示することを改めて求める。日本政府が見せてくる内容を「評価することなく」そのまま見てくる「視察団」ではなしに、だ。