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日本、ロシアの900トンの核廃棄物には怒ったのに…放出前に提訴するには?

登録:2021-04-19 02:28 修正:2021-04-19 08:39
[ハンギョレ21]汚染水放出:金の問題、IAEAそして米国 
 
汚染水放出前に日本を提訴すべき…安全性に関する資料を粘り強く求める必要 
国際海洋法裁判所から「放出中止臨時救済命令」引き出す訴訟準備過程
環境運動連合海委員会の会員がソウルで行った「海洋生態系を破壊する福島第一原発の放射能汚染水放出計画糾弾」記者会見で、寸劇を行っている=キム・ボンギュ先任記者

 1993年10月、ロシア海軍のタンカーTNT-25号が、核潜水艦で生じた900トンの低レベル核廃棄物を載せて東海(トンへ)へと出港した。目的地は日本の北海道の西540キロ地点の海だ。ここに核廃棄物を捨てる予定だった。しかし、ロシア海軍の船舶が到着した時、環境保護団体グリーンピースの監視船ペガサス号が待っていた。ロシアは監視船の接近をまいて核廃棄物の放出に成功した。しかし、放出シーンは全世界に公開された。

ロシアを映した鏡の前に立つ日本

 すると、同じ海に面して暮らす隣国日本の国民は怒った。日本のメディアも、ロシアの行為は、環境についての意識などまったくない行為だと批判した。日本政府も、ロシアが核廃棄物を日本の海に捨てる行為は、両国の相互不信をいっそう悪化させるだろうと警告した。

 さて、日本政府の抗議に驚いたのはロシアだった。その時まで、日本や米国も核廃棄物を海に捨てていた。原子力への依存度が高く、陸の核廃棄物の貯蔵所が不足していた日本は、国際条約で低レベル核廃棄物の海への投棄を禁止することにさえ反対していた。実は当時、ロシアはすでに国際原子力機関(IAEA)に、1997年までの核廃棄物の海洋放出の日程を通知していた。さらに海洋放出前の同年5月には、日本に海洋投機をしないですむよう陸上の核廃棄物貯蔵施設を建設する資金の提供を要請していた。

 日本政府は、自国の沖合に他国が900トンの核廃棄物を放出すると、考えを変えた。そしてグリーンピースなどが主導して核廃棄物の海洋投棄を原則的に禁止する国際条約(ロンドン条約)が登場すると、日本も海洋放出の禁止に転じた。その時まで、条約で核廃棄物の海洋投機を法的に禁止してはいなかったのだ。

 それから28年がたった2021年、日本の指は自分をさしている。ロシアを映した鏡の前に日本が立っている。ロシアの900トンの核廃棄物に怒っていた日本は、4月13日に福島第一原発事故の汚染水約137万トンを海に放出することを公式に発表した。日本の放出は船から捨てるものではないため、ロンドン条約ではなく国際海洋法条約が適用される。

 その日、菅義偉首相の官邸は、ホームページに1枚足らずの短い文章を発表した。首相が出席した汚染水対策関係閣僚会議で、汚染水の海洋放出は「現実的だと判断」し、基本方針として定めたという内容だった。多核種除去設備で処理してから水で薄めて安全性を確保し、2年の準備を経て放射能汚染水を海に捨てる、との発表だった。しかし、首相官邸の公式発表文に、放出する量は記されていなかった。

最も費用のかからない方法が「現実的」

 そして28年前と同じように金の問題、IAEA、そして米国が再び登場する(日本の汚染水排出決定にジョー・バイデン米政権は「国際的に受け入れられる核の安全基準に適合するアプローチを採択したとみられる」と述べ、支持の意を明らかにしている)。ロシアが1億ドルの核廃棄物処理予算のせいにして核廃棄物を海に捨てたように、日本は放射能汚染水の処理方法として検討した5つの案の中で、最も金がかからない方法を「現実的」として選択した。日本政府の「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会」が2020年2月にまとめた報告書は、91カ月かけて海に捨てた場合、34億円(約349億ウォン)かかると試算している。これは、98カ月の工事と912カ月の監視が必要とされた地下埋設案の2431億円(約2兆5000億ウォン)の1.3%に過ぎない。

 28年前にロシアから核廃棄物放出の通告を受ける役割だけを果たしたIAEAは、今回は日本の放射能汚染水廃棄方式のことを「国際慣行」に適合すると発表した。長きにわたり核廃棄物を海に捨ててきた米国は、日本の決定を歓迎した。

 放射能汚染水には韓日関係の本質的矛盾が映し出されている。日本は、最も直接的な利害関係国である韓国の当事者性と被害者性を否定した。日本はIAEAと米国のみと対話した。現在までに明らかになっているところでは、韓国には海洋放出決定の具体的な根拠の説明もせず、資料も提供していない。私は、日本は次に、韓国に日本産水産物輸入制限を解除せよと再び迫ってくると考える(2011年の福島第一原発事故後、韓国は福島周辺で獲れたすべての水産物の輸入を禁止している)。日本の既得権者は福島第一原発事故という根本的な問いには答えぬまま、「復興」というリボンを付けようとしている。そのため日本は、韓国が「被害を自ら訴える資格を持つ国」であるという事実を認めない。その代わり日本は、IAEAと米国の論理に韓国は従うべきであると考え、中国と北朝鮮に対抗する防波堤の役割を韓国に求めてくるはずだ。韓国の自律的判断を認めようとしない日本の隣で、IAEAと米国が支えている。

環境運動連合海委員会の会員が先月26日午前、ソウル市鍾路区の世宗文化会館前で「海洋生態系を破壊する福島第一原発放射能汚染水放出計画糾弾」記者会見を開き、日本政府に汚染水放出計画の放棄を求めている=キム・ボンギュ先任記者//ハンギョレ新聞社

 日本が公言している今後2年の放出準備期間中、何をなすべきか。我々は絶えず日本に問い質さねばならない。いわゆる処理水が安全であるという根拠は何か。韓国の憂慮を解消するだけの資料を出せ! 日本は処理水の安全性を判断する韓国独自の能力を否定するだろう。韓国が判断するのに必要で十分な具体的な根拠と資料は提供しないだろう。その代わり、韓国をIAEAと米国の枠組みの中にとどまらせようとするだろう。

核廃棄物の放出前に日本を提訴すべき

 しかし、日本と韓国が批准している国連海洋法条約によると、日本は海洋資源を保護・保存する一般的義務がある。隣国に害を与えないことを保障せねばならない。そして環境影響評価を行わねばならず、韓国と必要な協議を行わねばならない。

 日本に対して粘り強く安全性に関する資料を要求するものこそ、すなわち国際海洋法裁判所から放出中止の臨時救済命令を引き出す訴訟を準備する過程だ(文在寅(ムン・ジェイン)大統領は4月14日、日本による汚染水放出を防ぐため、国際海洋法裁判所への提訴を検討するよう指示した)。国連海洋法条約は、回復不可能な損害が発生する危険性がある場合には、事前の臨時救済命令を訴訟によって得られるよう規定している。

 これまでの日本の行動から見て、日本が核廃棄物を放出する前に日本を提訴するしかない。そして裁判の過程では、我々からの信頼を得たのか、コミュニケーションを図ってきたのかを問わねばならない。これまでに日本が韓国に提供した汚染水の資料を国民に公開することが、信頼とコミュニケーションの出発点だ。そして、IAEAを超えるアジア原子力安全機構の創設という変化へとつなげなければならない。

ソン・ギホ|通商法専門弁護士 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/international/international_general/991421.html韓国語原文入力:2021-04-17 13:58
訳D.K

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