「チャイナ・ショック」(China shock)という言葉は、2001年の中国の世界貿易機関(WTO)加盟以降、中国の輸出が急増し、中国からの輸入にさらされた米国などの先進国で、製造業の生産と雇用が縮小した現象を指す。
実際、マサチューセッツ工科大学(MIT)のデビッド・オッター教授らによる実証分析によると、米国ではチャイナショックの余波で、1999年から2011年の間に約200万を超える雇用が失われた。このような衝撃は、グローバル化に反対し保護貿易を推進したドナルド・トランプ米大統領や、極右ポピュリズム政治の台頭につながった重要な背景だった。
ところが、2026年現在、新たなチャイナ・ショックが現れているという声が高まっている。2000年代初頭の最初のチャイナ・ショックと同様に、2010年代後半以降、中国の貿易黒字が拡大し、世界経済に衝撃を与えているというのだ。最近、中国は先端産業や伝統産業を含む世界の製造業輸出市場を掌握し、他国に大きな懸念を抱かせている。
■チャイナ・ショック2.0
米国の関税引き上げにもかかわらず、2025年の中国の貿易黒字は約1.2兆ドル(約191兆8000億円)を記録し、前年に比べ約20%も増加した。2026年も、中国の黒字と米国の赤字に代表される世界的な不均衡が続く見通しだ。興味深いことに、最近の第2次チャイナ・ショックは、先進国だけでなく開発途上国にまで衝撃を与え、世界経済を揺るがしている。
英フィナンシャル・タイムズ紙は4月、「チャイナ・ショック2.0」と題した特集記事を掲載し、2018年以降進んでいる第2のチャイナ・ショックについて報じた。中国の輸出増加と国内総生産(GDP)に対する貿易黒字は、2000年代初頭の第1次チャイナ・ショック期より小さいが、高度に技術集約的な産業において先進国との競争が激化している点が、新たなチャイナ・ショックの特徴として挙げられる。また、中国の輸出商品の価格が国内競争の激化により急速に下落しており、中間財・資本財産業が大きく発展したため、過去とは異なり中国の輸入が増加していないという点も興味深い。一方、米国の保護貿易により中国の輸出における米国の比重が急速に低下するなど、過去とは異なり先進国においてチャイナ・ショックへの対応努力が強化されている点も相違点と言える。
実際、最近、製造業の力がさらに強まった中国は、今や先進国が支配していた先端産業において強力な競争相手として台頭している。国内の大規模な市場、膨大な技術人材、そして政府の強力な支援に支えられ、電気自動車(EV)、太陽光パネル、バッテリー、風力タービンなどの高級製造業製品において、中国から先進国への輸出が大幅に増加した。特に中国国内の製造業競争の激化は、価格を下げ、企業のマージンを縮小させ、チャンピオン企業と中国企業のバリューチェーンをより効率的かつ高度化させている。
しかし、中国の過度な競争と過剰設備は、世界市場に中国製品の氾濫をもたらし、先進国の製造業に対する脅威や貿易摩擦につながっているのも事実だ。フランスのエマニュエル・マクロン大統領は、中国のハイテク製造品の輸出増加は欧州の製造業にとって死活にかかわる問題だと述べたこともある。第1次チャイナ・ショックとは異なり、中国から欧州への輸出が増加し、ドイツの自動車産業のような欧州の中核産業との競争が激化しているためだ。
中国国内におけるいくつかの変化は、中国の貿易黒字をさらに拡大させる要因となっている。不動産不況と脆弱な社会保障制度は、中国の国内消費を停滞させ、世界的な不均衡を深刻化させている。また、中国の官僚たちは過剰設備の問題を否定し、2026〜30年までの第14次五カ年計画においても製造業への支援を明言した。中国共産党は、金融・サービス・不動産よりも製造業を量的・質的に強力に育成する計画であり、これに基づき「製造業を持つ米国」と表現される覇権国家を目指しているからだ。実際より過小評価されている人民元相場、補助金や減税、安価な土地の提供や低金利の金融支援などの産業政策も重要な要因だ。経済協力開発機構(OECD)は、中国企業に対する補助金が欧米より3~9倍高いと報告しており、中央政府が付加価値税を生産地の地方政府と分け合うため、地方政府は債務問題にもかかわらず、自地域の企業を積極的に支援している。これを批判する声もあるが、現実には政府支援に依存するロボット企業が乱立しており、太陽光発電産業も過剰生産と赤字が深刻だ。結局、中国企業は海外輸出に集中するようになり、これは最近のバッテリーや電気自動車(EV)の輸出急増につながった。
フィナンシャル・タイムズによると、特に欧州と中国の間で新たな形の競争と協力が現れている点が興味深い。ますます激化する国際競争の中で、フォルクスワーゲンなどの欧州企業は、中国のバリューチェーンを活用し、技術を確保するために、中国に研究開発センターを設立するなどして現地市場に進出している。一方、中国は最近、欧州に対してEVを初め機械類などのハイテク製品の輸出や、バッテリーなどの工場への直接投資を増やしている。これに対し欧州は、中国企業の投資誘致を積極的に推進する一方、「メイド・イン・ヨーロッパ(欧州製)」規定を通じて、中国企業からの技術移転による欧州の製造業の発展と雇用創出を図っている。例えば、直接投資を受ける際、合弁事業のみを許可し、外国企業の持分を49%に制限するとともに、戦略産業に対する1億ユーロ以上の投資については加盟国が拒否できるようにした。中国の輸出と投資をめぐり、欧州と中国の間で熾烈な駆け引きが繰り広げられている。
一方、関税引き上げや中国への圧力を代表とする米国の戦略は効果がないという批判が高まっている。オッター教授は、トランプ政権の保護貿易は輸入コストと不確実性を高め、かえって米国製造業の競争力を低下させるだろうとし、その代わりに積極的な産業政策や研究開発を含む公共投資、同盟国との協力が必要だと強調する。チャイナ・ショックに関する問題意識は間違っていなかったが、その解決策は誤っていたということだ。
(2に続く)