米国の第2期トランプ政権が発足すると、100日以内に韓国など主な対米貿易黒字国に対し「米国第一主義」を前面に掲げた経済・通商政策の速度戦に出る可能性があるという見通しが示された。関税引き上げと韓国企業に対する補助金支援の縮小などを越え、韓米自由貿易協定(FTA)廃止の脅しがでる可能性も排除できないため、対応策の準備が必要だという指摘だ。
ヨ・ハング、ユ・ミョンヒ、パク・テホ、キム・ジョンフンなど歴代通商交渉本部長4人は11日、ソウル永登浦区汝矣島洞(ヨンドンポグ・ヨイドドン)の韓国経済人協会建物(FKIタワー)で開かれた座談会で、このような診断を示した。同日の座談会は「米国の新政権発足、韓国経済は準備できているか:歴代通商交渉本部長に尋ねる」をテーマに設けられた。彼らは盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権と李明博(イ・ミョンバク)政権、文在寅(ムン・ジェイン)政権で対外通商政策の責任者だった。
前政権で産業通商資源部の通商交渉本部長を務めたピーターソン国際経済研究所のヨ・ハング上級研究委員は、米国からオンラインで現地の反応を伝えるとともに、「トランプ大統領が『レッドウェーブ』(ホワイトハウスと議会いずれも共和党の象徴である赤い波が掌握すること)をもたらし、圧勝したことにより、第2期トランプ政権の経済・通商アジェンダ(議題)は就任100日以内に強力かつスピーディーに進められるだろう」と予測した。また「第2期トランプ政権は貿易赤字の縮小、米国製造業の復興、米中覇権競争での優位の確保という3大目標のもと、関税など通商政策を中心に『アメリカファースト』のドライブをかけるだろう」と懸念を示した。
文在寅政権の通商交渉本部長だったソウル大学国際大学院のユ・ミョンヒ教授も「トランプ政権が二国間関係を判断する尺度は『貿易赤字』であるため、米国の貿易赤字国のうち8位の韓国は、中国やメキシコなどとともにターゲットになりうる」と懸念した。ユ教授は、第1期トランプ政権で保護貿易主義政策を設計したロバート・ライトハイザー米通商代表部(USTR)代表と直接交渉した経験がある。
ユ教授は当時の米国政府の特徴として、同盟国であるかどうかに関係なく、貿易収支赤字を主な判断基準とし▽世界貿易機関(WTO)や韓米FTA違反などは意に介さず、貿易赤字の縮小措置を導入し▽交渉の要求に進展がなければ直ちに措置の施行に踏み切るスピード感などを挙げた。ユ教授は「第2期トランプ政権はWTOが発足してから30年の歴史の中で最も大きな危機」だとしたうえで、「WTOが徹底した改革をしなければ、ルールに基づいた多国間貿易体制がもう作動しない新しい時代を迎えることになるだろう」と指摘した。
この日、歴代通商本部長らは韓米FTAの廃止または全面修正、米国政府のインフレ抑制法(IRA)およびCHIPS法(半導体支援法)の撤廃などの可能性は低いとしながらも、最悪の状況にも備えなければならないという見解を示した。
2006年に韓米FTA交渉の首席代表を務めたキム・ジョンフン元議員は「米国は韓国をはじめ多くの国とFTAを結んでいる状態なので、普遍的基本関税(すべての輸入品に関税10~20%賦課)の導入などを通じて既存のFTAを廃棄または全面修正することは、対外関係と米国経済の影響を考慮すると米国にとってもたやすい選択ではないだろう」としながらも、「それでも改定交渉をすることになれば、両者の利益がバランスよく反映されるのが重要だ」と助言した。
李明博政権で通商交渉本部長を担当した法務法人「広場」のパク・テホ国際通商研究院長も、「IRAの恩恵を受ける共和党地域が多いため、補助金の削減などの急激な変化はないだろう」とし、「CHIPS法もやはり大きな変化はないだろうが、補助金支援が減る可能性はある」との見通しを示した。
パク院長は「米国政府の普遍関税が実際に韓国にも適用された場合、FTAの相互関税撤廃原則に反することを明確にしなければならない」と強調した。ユ教授は「米国の一方的措置に対して韓国が迅速かつ効果的に交渉に臨めば、関税免除や韓国の要求事項の反映は可能かもしれない」と語った。ヨ上級研究委員も「第1期トランプ政権当時に比べ、韓国企業の米国投資などの地位が高くなっているため、危機をチャンスとして活用できるだろう」と補足した。