韓国ではここ2年6カ月の間、名目賃金の成長率下落で実質賃金の累積下落幅が1.6%に達したことが4日明らかになった。今年上半期(1~6月)には実質国内総生産(GDP)の成長率が2.8%に達したにもかかわらず、実質賃金は逆に0.4%下がった。成長の成果が等しく配分されるならば、実質賃金増加率は実質経済成長率に近い値でなければならないという点で、成長率を大きく下回る実質賃金上昇率は、いわゆる「トリクルダウン効果」が根拠のない主張であることを表わしているという指摘が出ている。
雇用労働部が先月30日に発表した「7月 事業体労働力調査」資料によれば、従事者1人以上の事業所の今年上半期の1人当り名目賃金は、消費者物価上昇率(2.8%)を下回る2.4%の増加にとどまり、実質賃金が0.4%下落したことが分かった。実質賃金は2022年に対前年比0.2%下落し、2023年には1.1%下落している。実質賃金の下落は1998年の外国為替危機の時と2008~2009年の世界金融危機の時にも起きたが、下落傾向が3年連続で続くのは、1993年に事業体労働力調査が始まって以来初めて。2年半にわたる実質賃金の累積下落幅は1.6%に達する。300人未満の事業所では2.2%減少、300人以上の事業所では0.8%減少で、小規模な事業所での賃金損失のほうが大きかった。
実質賃金の下落は、名目賃金の増加率が消費者物価上昇率に追いつけない場合に起きうる。新型コロナ直後には物価高が続き、実質賃金が下落した側面がある。実際、2022年の場合、名目賃金上昇率が4.9%で高い方だったにもかかわらず、消費者物価が5.1%も上がり、実質賃金が0.2%下落した。
しかし2023年と今年上半期には名目賃金の上昇率がそれぞれ2.5%、2.4%に留まった。2011~2021年の間の名目賃金の年平均上昇率は3.53%だった。物価上昇率が多少鈍化したにも関わらず実質賃金が下落した原因は、物価より名目賃金上昇率の下落側にあるという意味だ。韓国労働社会研究所のキム・ユソン理事長は「尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権発足後、労使間の力関係が使用者側に傾き、最低賃金の引上げ率もきわめて低く、名目賃金上昇率が下がり、実質賃金の下落まで起きている」とし、「階層間の所得格差を拡大し、内需不振にともなう景気の悪循環を招く恐れがある」と話した。
家計所得の根幹を成す賃金水準の実質的下落は、民間消費の動力を弱めている。今年に入って輸出は比較的速いスピードで回復しているが、内需の低迷は依然として続いている。中央銀行である韓国銀行(韓銀)は、今年上半期の実質経済成長率を2.8%(前年同期比)と集計し、民間消費の伸び率は1.0%にとどまったと明らかにした。
経済成長率に大きく遅れを取っている実質賃金の伸び率は、家計所得に悪影響を及ぼし、内需回復の足かせになりかねない。亜洲大学のキム・ヨンギ教授(元雇用委員会副委員長)は、「輸出の大手企業中心の韓国経済では、自然発生的なトリクルダウン効果はほとんど起こらない。財政を通じた再分配でトリクルダウン効果を起こさなければならない」と述べた。しかし、政府は経常成長率(4.5%)を大きく下回る3.2%の総支出増加率で予算案を編成し、緊縮財政基調を続けている。