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「気候悪党」韓国鋼鉄大手ポスコは、いつ炭素と決別するのか

登録:2021-10-20 09:53 修正:2021-10-20 10:24
ポスコ、2050年のカーボンニュートラルに向けた課題 
技術開発、グリーン水素・電気の確保に、商品性まで備える必要
ポスコ光陽製鉄所=ポスコのホームページよりキャプチャー//ハンギョレ新聞社

 環境団体は韓国最大の鉄鋼メーカーのポスコ(POSCO)を「気候悪党」と呼ぶ。炭素排出のせいだ。

 鉄の原材料である鉄鉱石は、自然の状態では酸素(元素記号「O」)を含みサビがつく。この酸素を取り除けば鉄を作るのに使われる銑鉄(粗鋼)が出る。今は酸素を分離する道具として炭素(C)の塊である石炭(有煙炭)を使っている。溶鉱炉に鉄鉱石と石炭を一緒に入れ、熱で溶かして銑鉄を作る。鉄の生産過程で環境を害する温室効果ガス、二酸化炭素(CO2)が大量に出るのはこのためだ。

 自動車、船舶、マンションなど主な製造品に鉄を供給し、韓国産業の柱の役割を果たしてきたポスコのもう一つの顔が、国内最大の炭素排出企業である理由だ。ポスコの年間温室効果ガス排出量は7000~8000万トン程。韓国国内の全体排出量の10%を上回る。銑鉄1トンを生産するのにほぼ2倍の炭素が発生する。

 足元に火がついた気候危機の前で、ポスコが出した解決策は「水素」だ。鉄鉱石から酸素を取り除く道具として、石炭の代わりに水素(H)を使い、温室効果ガスではなくきれいな水(H2O)を排出するということだ。いわゆる「水素還元製鉄」技術だ。今月初めにポスコが水素技術について話し合う鉄鋼業界の国際フォーラムを開いたのは、もはや避けられない状況にあるからだ。今月18日、大統領直属の炭素中立(カーボンニュートラル)委員会は、ポスコをはじめとする韓国の鉄鋼会社が2050年までに製鉄工程で100%水素のみを使用し、温室効果ガスを2018年比で95%削減しなければならないという方策を示した。2050年にカーボンニュートラル(CO2純排出量ゼロ)を実現するためだ。

水素還元製鉄技術は開発されるのか

 課題は山積みだ。まず最初の問いは、本当に「100%水素還元製鉄」技術を開発して商用化できるのかということだ。ポスコが水素製鉄の研究を始めたのは2000年代から。10年以上経ったが、技術開発と商用化の目標時点は2050年で、変化がない。李明博(イ・ミョンバク)政権はこの時期を2030年に繰り上げると言ったが、空手形になった。

 ポスコが掲げるのは経験だ。同社が2007年に開発した「ファイネックス」技術は、鉄鉱石から酸素を除去する道具として水素を25%ほど使う。初期段階の水素製鉄工法というわけだ。この技術を高度化し、水素使用の割合を高めるというのがポスコの戦略だ。欧州のライバル会社が開発している方法は、高価な鉄鉱石の粒(ペレット)を使わなければならず、熱損失が大きく競争力が落ちると会社側は説明する。

 しかし、ポスコに先立って「グリーンスチール」(炭素排出のない、または発生量が極めて少ない方法で製造された鉄)を作ったところがある。スウェーデンの鉄鋼会社ASSABは最近、石炭の代わりに100%水素を使ったグリーンスチールのテスト生産にすでに成功している。延世大学新素材工学科のミン・ドンジュン教授は、ハンギョレとの通話で「ASSABが生産した鋼鉄は10トン程度と規模が小さく、まだ意味のある水準ではない」とし「韓国もいくつか技術的に解決しなければならない難題があるが、水素さえ十分に確保できれば技術開発と商用化に至ると思う」と述べた。

 ポスコ側は「現在、ファイネックス技術を利用して毎年250万トン規模の鉄を生産している」とし「これまでの経験にいくつかの主要技術を追加し、迅速に水素還元製鉄技術を開発する計画」だと述べた。ポスコは2028年から年間100万トン規模の試験生産に着手する計画だ。「試験生産」も少なくとも7~8年は待たなければならないということだ。

グリーン水素と電力の供給は

 次の難関は、製鉄に使う水素をどこで得るかだ。特に、生産の全過程で炭素排出のないグリーンスチールを生産するためには、水素も炭素排出なく作られたものでなければならない。

 市中で得られる水素は3種類だ。炭素排出の少なさはグリーン水素、ブルー水素、グレー水素の順となる。現在、世界で生産する水素計1億1700万トン(2018年基準)のうち、ほとんどが天然ガス・石炭から水素を直接抽出したり、石油の精製過程などから出るガスを水素に転換した「グレー水素」だ。化石燃料のガスを使うだけに、炭素も多く排出する。水素の生産過程で出る炭素を別途に集めた「ブルー水素」、太陽光・風力など再生可能エネルギーで作られた電気で水を分解して得る「グリーン水素」など、“きれいな水素”の割合は1%にも満たない。韓国で生産される水素もほとんどが精油・化学・鉄鋼工場から残滓として出るグレー水素だ。

 ポスコは30年以内に水素や製鉄などに必要なグリーン水素を年間500万トン供給する体系を備えると公言している。これは政府が2050年目標に掲げた国内全体のグリーン水素・ブルー水素の生産量に匹敵する規模だ。ポスコが計画を守るためには、大規模な水素を再生可能エネルギーが豊富なオーストラリア・中東など外国から輸入しなければならないという意味だ。不確実性が大きい。

 ポスコだけがうまくやれば済む問題でもない。水素による製鉄の転換により、グリーン電力も共に必要になるからだ。今は溶鉱炉から出るガスを利用して製鉄所が必要な電力の60%以上を独自に調達しているが、水素を使う時はこのような発電用ガスが出ない。そのため、ポスコが根本的にカーボンニュートラルを達成するためには、グリーン水素だけでなく、グリーン電力も外部から大量に供給されなければならない。会社側も「水素還元製鉄技術が開発されるとしても、どのようにグリーン水素とグリーン電力を経済的に必要なだけ確保するかが最も重要だ」と述べている。越えなければならない課題は一つや二つではない。

水素で作った鉄は売れるだろうか

 最後の山場はグリーンスチールの「商品性」だ。水素製鉄技術がまだ開発段階であるだけに、最終生産製品の質も未知数だ。しかもカーボンニュートラル委員会が2030年までに設備を新設または増設する際には、既存の溶鉱炉の代わりに電気炉を使わなければならないと注文し、新たな宿題を残した。電気炉は古鉄(鉄スクラップ)を溶かして鉄を作るだけに品質が落ちる。

 ポスコ側は「電気炉稼働時にも高級な鋼鉄を生産する技術開発を同時に推進する予定」だと説明した。価格が相対的に高いグリーン水素・電力を利用して価格競争力を維持するのも容易ではない。

 産業研究院のイ・ジェユン素材・産業環境室長は「外国の場合、水素還元製鉄だけでなく電気炉の比重拡大、生産量削減など、カーボンニュートラルのための様々な手段を動員している」とし「韓国だけが他のオプションなしに水素製鉄技術にオールイン(全賭け)するのは不安がある」と指摘した。匿名を求めたある研究者は「企業に短時間で炭素低減計画を出せというのだから、(ポスコは)特に考えずにこれまであった案を伝え、政府もこれを良しとして対策に入れてしまったのではないかと疑われる」と話した。

パク・チョンオ記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/economy/marketing/1015836.html韓国語原文入力:2021-10-20 08:09
訳C.M

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