国民年金が、来年から民間資産運用会社に委託して運用する保有株式に対する議決権行使を委託運用会社に委任することにしたが、委託運用会社が国民年金の株主の権益保護方針と異なる方向で議決権を行使するなど、受託者の責任活動を無力化する可能性に対して十分な対策を設けていないことが確認された。昨年、国民年金は「スチュワードシップ・コード」(受託者責任原則)を導入する際、市場への影響力が過度になるという懸念を意識し、国内の株式投資のうち約半分の委託資産に対する株主総会の議決権を委託運用会社に委任することにした。
5日、国民年金の最高意思決定機関である基金運用委員会は、ソウル中区のザ・プラザホテルで会議を開き、保健福祉部と国民年金公団が主催したスチュワードシップ・コードの後続措置の草案に関する報告を受けた。同草案には、委託運用会社に議決権行使の委任をどうするかについて細部の手続きを規定したガイドラインが書かれている。基金運用委員らによると、国民年金は来年から企業510社に対する議決権行使を委託運用会社に委任する計画だ。今年3月末基準で国民年金の国内の株式市場投資規模は計118兆2千億ウォン(約10兆9300億円)であり、このうち53兆8千万ウォン(45.5%)を資産運用会社に委託して運用している。
ただし、株主価値の毀損などの重要な管理事案や、企業の買収合併の案件については、国民年金が直接議決権を行使する案を検討している。また、国民年金の議決権行使の細部基準を委託運用会社が参考にするよう勧告する方針だ。
しかし、財閥の影響に弱い資産運用各社が、独立的に議決権を行使するのは難しいという懸念を払拭するには不十分という声もあがっている。経済改革連帯のカン・ジョンミン研究委員は「国民年金の細部基準と議決権行使の方向が一致しない場合、委託運用会社の選定の際、不利益を与える方策を用意しなければならない」と指摘した。経済改革連帯が、今年3月の株主総会で国民年金と自主的にスチュワードシップ・コードを導入した資産運用会社の取締役・監査など役員の選任に対する議決権行使の内訳を比較した資料によると、株主の権益侵害履歴や社外取締役として独立性毀損の懸念などが提起され、国民年金が役員の選任に反対したケースは795件だった。しかし、国民年金が反対した案件について資産運用会社も同様に反対の議決権を行使したケースは、282件(35.9%)に過ぎなかった。国民年金が不適格と判断した役員候補に対し、資産運用会社が賛成したケースが多かったということだ。
国民年金の名義になっているある会社の株式を、複数の資産運用会社が分けて管理する場合が多いが、運用会社ごとに議決権行使の方向が異なる場合、国民年金は保有した持ち株分に相応する議決権を行使できないという問題がある。金融投資業界の関係者は「同一株主が一つの事案について異なる意見を出すというのは常識に反する」と話した。また、商法によると、株主が複数の議決権を統一せずに行使した場合、会社はこれを拒否することができる。複数の委託運用会社が賛否の議決権を行使する際には、国民年金が保有した議決権が無効になる可能性もあるということだ。福祉部と国民年金公団は、このような問題を解消するため、企業に議決権の不統一行使を受け入れるかどうか、株主総会前に聞いてから、不統一行使を拒否した場合、直接議決権を行使する案を設けた。しかし、企業が議決権の不統一行使を受け入れるかどうかを株主に知らせる法的義務はない。企業が議決権不統一行使を受け入れるかどうかを事前に明らかにするとしても、立場を覆す可能性がある。
福祉部は、今回まとまった素案をもとに、基金運用委の議論や公聴会の開催などを経て、今年9月までに最終案をまとめる計画だ。