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[ニュース分析] なぜ? イーロン・マスクの電気自動車への挑戦

登録:2014-10-25 22:18 修正:2014-10-26 08:14
2012年6月に発売されたテスラのモデルSは、電気自動車は性能が良くないという偏見を打破し、ベンツ、BMW、GMの高級セダンと比べて引けをとらない性能を誇る。 テスラモータース提供

 1971年、南アフリカ共和国で生まれたイーロン・マスクは、12歳でビデオゲーム‘ブラックスター’を作り、500ドルでゲーム雑誌に売りました。とんでもない想像を実行に移したことで面白くなったこの少年は、絶えざる挑戦に打って出ました。 オンラインコンテンツ業者‘Zip2’、オンライン決済代行サービス‘PayPal’の成功神話に続き、宇宙航空、太陽電池など未来アイテムに没頭したマスクが強力な電気自動車に乗って現れました。 彼は第2のスティーブ・ジョブスになるのでしょうか?

 彼とスティーブ・ジョブスを比較する文が激増している。 電気自動車を生産する‘テスラ’の最高経営者イーロン・マスク。 今月6日、ビジネス専門紙である『クォーツ』は“スティーブ・ジョブスが亡くなって3年が過ぎた今、彼の後継者がマーク・ザッカーバーグ(フェイスブック創業者)、ジャック・ドーシー(ツイッター、スクエア創業者)、ティム・クック(現アップルCEO)ではなくイーロン・マスクであることだけは明らかだ」と書いた。『ビジネス インサイダー』は5月、スティーブ・ジョブスとイーロン・マスクの履歴を詳細に紹介して“イーロン・マスクはスティーブ・ジョブスの後継者ではない。 彼はジョブスを凌駕する”と評価した。 社会関係網質疑応答サービスであるQuoraには‘マスクがジョブスの後継者なのでしょうか?’という質問が上がっている。 意見は錯綜している。 彼がジョブスのように20代で創業しシリコンバレーの有名人になった点や、iPhoneがスマートフォン市場を切り拓いたようにテスラが新たな市場を切り拓いている面が比較されたりしている。

世界最大のバッテリー工場‘ギガファクトリー’

 今、彼の一言は焦眉の関心事になり市場に波紋を起こす。 今月14日、彼はデトロイトの自動車専門紙である『オートライン』とのインタビューで“私たちは既存の直接販売方式にこだわらず、ディーラーを通じて自動車を販売する意向がある”と話した。 この発言は、この日すぐに全米の主要メディアに引用され広まった。 別の見方をすれば当然に見えるこの発言が話題を集めた理由は何だろうか? 自動車業界の革新を主導するテスラは、流通部門でもディーラーを利用しない直接販売で価格を低くしてきた。 これは業界の反発を呼び起こし、ニュージャージー州をはじめメリーランド、テキサス、アリゾナ州では直接販売が禁止された。 テスラはこれらの州では展示場で自動車を見せ、電話やインターネットだけで注文を受け付けた。 テスラがこれまでの販売方式を一部修正する可能性を仄めかすや、業界と消費者の関心はそれに集中した。

 イーロン・マスクは9日、主力車種である‘モデルS’の2015年型である‘モデルD’に自動運転装置‘オートパイロット’機能が取り入れられると発表した。 具体的には、レーザーセンサーを通じて前車との距離を自動的に維持し、自動的に車線を変更する機能が追加される予定だ。 イーロン・マスクは“90%オートパイロットの自動車”と表現した。 本来、自動運転技術はグーグルが開発を主導していると知られていた。 グーグルは数年間にわたり無人(自動運転)自動車を試験運転した。 だが、消費者は来年からテスラ モデルDを通じて自動運転を体験することになる公算が大きい。 テスラはグーグルを一気に追い抜く態勢だ。

 この他にも今年テスラとイーロン・マスクが市場を驚かせた事例は多い。 今年2月テスラは50億ドル(約5兆3000億ウォン)を投資して巨大なバッテリー工場である‘ギガファクトリー’を作ると発表し、9月には工場敷地にネバダ州を選定した。 テスラにバッテリーを全量供給するパナソニックも、ギガファクトリーへの共同投資を約束した。 ギガファクトリーは2017年から稼動して、2020年からは年間35Kwh相当のリチウムイオン電池を生産する計画だ。 35Kwhは昨年の全世界リチウムイオン電池生産量である33Kwhを上回る量で、テスラはこの工場を踏み台として2020年からは年間50万台の電気自動車を生産する抱負を明らかにした。 また今年6月には、イーロン・マスクが「テスラが持つ特許を全て無料で公開する」と明らかにして業界を驚かせた。 彼は「他のメーカーが私たちの技術を活用して電気自動車を作っても、私たちは絶対に訴訟を起こさない。 電気自動車市場の底辺が広がれば良い」と話した。

 このように話題をさらうテスラの株価は、24日基準で235.3ドルだ。2010年ナスダックに上場した当時19ドルだった株価が、12倍以上に上がったわけだ。 時価総額は293億ドル(31兆ウォン)に達する。 昨年2万2477台の自動車を販売したテスラが、一気に昨年473万台を売った現代自動車(時価総額 38兆ウォン),282万台を売った起亜自動車(時価総額 22兆ウォン)と肩を並べる企業になったわけだ。 その勢いは、iPhoneひとつで市場をひっくり返したアップルを連想させる。

車の内部にある17インチ画面で、ナビゲーション、エアコン、オーディオなどの操作が可能だ。 テスラモータース提供

テスラは自動車業界のiPhoneになるのだろうか?

 テスラによって電気自動車時代が花開くのだろうか? 予測は容易ではないが、テスラが歩んできた軌跡を調べれば推測はできる。 特にイーロン・マスクとスティーブ・ジョブスが共通して重視するものが‘使用者の経験’だ。 iPhoneを使えばスティーブ・ジョブスが何を実現しようとしたのかを直ちに理解できるように、イーロン・マスクも2012年6月に発売したモデルSで同じようなことを期待した。 彼がモデルSを大衆に初めて紹介する場面は、スティーブ・ジョブスを想起させる。 2011年10月1日、イーロン・マスクはモデルSを自ら運転して3000人余りが集まった新車発表会の壇上に上がった。 彼が車から降りると同乗していた人々が一人二人と下車する。 隣の席と後席から5人が下車し、トランクを開くと子供2人がさらに出てくる。 彼がトランクから荷物カバンを取り出した後「この車に7人が乗ってもさらに相当な荷物を積むことができる」と話すと、また1人がボンネットを開いて‘フロンク’(フロント+トランクの合成語)から飛び出してくる。 実際にフロンクに人が乗ることはないものの、モデルSがガソリン自動車とは異なり機械装置が複雑でないために内部空間を広く使えるということを知らせるためだ。 車の前に歩いてきてモスクは言う。「今日は電気自動車の中で最高の車ではなく、すべての車の中で最高の車を紹介しようと思う。」イーロン・マスクが‘最高の電気自動車’ではなく、ただ‘最高の車’と紹介した理由は何だろうか。 モデルSが電気自動車の短所を多数解決したためだ。 モデルSは最大302馬力であり、相当部分のポルシェ スポーツカーと力が釣り合う。停止状態から時速100キロまで加速するのにかかる時間はわずか6秒、一度充電すれば最大で426キロ走行する。 モデルSがこのような性能を実現できた理由は発想の転換のおかげだ。 テスラがモデルSを発売する前まで、GM,トヨタ、現代、フォルクスワーゲンなどの大企業は電気モーターが内燃機関であるエンジンを補助するハイブリッド自動車を主に作った。たまに電気自動車を作っても、軽自動車や小型車であった。 バッテリーの重量が重いため、電気を補助的な駆動手段とする小型車を作ったのだ。

スティーブ・ジョブスを連想させる
‘テスラ’創業者イーロン・マスク
“‘電気自動車の中の最高’ではなく
‘最高の自動車’を作る”
アメリカではすでに売り切れ続出
急速充電、自動運転、スマートカー…
自身満々に技術も公開
テスラは自動車の未来になるか
産業と経済のパラダイムを変える
マスクはさらに大胆な夢を見る

ノートブック用のバッテリーを使用…充電時間が課題

 しかし、テスラは違った。2008年に2500台だけを限定生産したスポーツカー‘ロードスター’を皮切りに大型高級車を指向した。 モデルSはバッテリー約7000個を並列と直列に複雑に連結したバッテリーパックを車体下部に敷きつめた。 テスラが利用したバッテリーは18650リチウムイオン電池だ。 直径18ミリ、長さ65ミリなので18650という名前がついたこの円筒形電池は、1970年代に開発されノートブックPCなどによく使われている。 テスラが新しいバッテリーを開発したのではないわけだ。 むしろ他の企業等が、このバッテリーは重く発熱が激しいとして、リチウムポリマーやニッケル水素電池などを電気自動車に使った。 だがテスラは、重いこのバッテリーに固執した。 おかげでアルミニウムを使って車体を軽くしても、車重は2トンを越える。 発熱が激しい問題は、バッテリーパック内部に換気、熱遮断システムを作って解決した。 品質を前面に出すと消費者はすぐに反応した。 昨年5月、アメリカ『コンシューマーリポート』はモデルSに評点99点を付け、現在もモデルSは生産されると同時に販売されるほどに予約がうまっている。 今年は3万5000台を生産・販売する計画だ。

 テスラが未だに解決できていない宿題は充電時間だ。モデルSはどこにでもある110Vや220Vのコンセントから充電が可能だが、完全充電までには1時間ほどかかる。 既存の電気自動車よりは充電時間を大幅に短縮したが、それでも大衆化の障害物であることは明らかだ。 テスラはこの問題を解決するために二つの方案を用意した。 一つは20分で充電可能なテスラ専用充電所‘スーパーチャージャー’をアメリカ全域とヨーロッパ、アジアなどの地に作ることだ。 自社の自動車は無料で充電できるようにする計画だと明らかにした。 テスラのホームページを見れば、170の充電所がアメリカにすでに作られ、2015年末にはアメリカのどこでも半径160キロ以内に充電所を探せるようになると記されている。 2016年になれば、日本、中国の全域に充電所が拡大し、東ヨーロッパやロシア、トルコにも作られる予定だ。 韓国は含まれていない。 充電時間の問題を解決するためのもう一つの方案はバッテリーの交換だ。 昨年8月、マスクは「モデルSはバッテリーを交換できるように設計されている。 交換には90秒しかかからない。 これはガソリン自動車に給油する時間より短い」と明らかにした。 バッテリー‘充電’ではなく‘交換’が可能だというこのアイディアは、電気自動車業界に大きな波紋を起こした。 電気自動車の永遠の宿題を解決できる方案のように見えたためだ。

テスラの最高経営者(CEO)イーロン・マスクは、何回も想像を現実にして見せて、スティーブ・ジョブスの後継者に指名され注目を集めている。 ロイター

彼の夢は太陽光自動車?

 テスラの電気自動車は単純な自動車ではなく、スマート機器と融合した一つのプラットホームに近い。 車の運転席に座れば、いくつかの画面が目につくが、その中に一番大きい17インチの画面がある。 一種のタブレットPCだ。 ここで運転以外のナビゲーション、オーディオ、エアコン、座席調整など各種の操作が可能だ。 特にモーターはエンジンとは異なり騒音が殆どないので、音楽を聴くにも最適な環境だ。 自動車は電源が入ると同時にネットに連結される。 マスクは来年発売する‘モデルX’を紹介して、サイドミラーをなくしその場にカメラを付けると明らかにした。すなわち、運転して後方や側方を見る時にはサイドミラーの代わりに前面にある画面を見ることになるかもしれない。

 テスラが夢見る未来も野心に充ちている。 2016年にはモデルSの半額の3万5000ドル(3700万ウォン)で‘モデル3’を発売し、大衆化に拍車を加える計画だ。 2020年には年間販売量50万台を目標にしている。 イーロン・マスクはさらに大胆な夢を見る。 彼は「10年以内に‘電気自動車パリティ’の達成が可能だ」と公言する。 電気自動車パリティとは、電気自動車を購入して利用するコストが、ガソリンエンジンの自動車を使うより安くなるという意味だ。 電気自動車パリティに先立ち言及されるのが‘グリッド パリティ’であるが、太陽光など再生エネルギーの生産費用が既存の発電施設による電力生産費用より安くなることを意味する。 マスクはグリッド パリティと電気自動車パリティ、両方の技術革新に足を漬けている。 彼は太陽電池メーカーである‘ソーラーシティ’の最大株主であり経営者も兼ねている。 また、初めて民間宇宙旅行を成功させて、アメリカ航空宇宙局(NASA)から16億ドルの宇宙貨物運送事業を受注した‘スペースエックス’の最大株主でもある。 オンライン決済システム‘PayPal’を共同創業して‘何回も想像を現実にして見せた経験’があるイーロン・マスクは、電気自動車時代を花開かせるのだろうか。 テスラとイーロン・マスクの歩みに耳目が集中する理由だ。

ユン・ヒョンジュン者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/economy/car/661321.html 韓国語原文入力:2014/10/25 10:52
訳J.S(5673字)

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