メスとして生まれ、オスに性別を変えるユニークな魚が、人間が趣味で行う釣りによって生態系が乱されている可能性があるとする研究結果が発表された。
米国の科学雑誌「ナショナル・ジオグラフィック」は最近、スペインの地中海高等研究所のマルガリダ・バルセロ=セラ博士らの研究チームが、海洋保護区と漁業区域のパーリーレザーフィッシュを比較し、釣りがパーリーレザーフィッシュの遺伝的多様性を減少させるだけでなく、性転換の時期にも影響を及ぼすとする研究結果を発表したと報じた。論文は先月23日、国際学術誌「王立協会哲学紀要B(Philosophical Transactions of the Royal Society B)」に掲載された。
大西洋と地中海に生息するベラ科の魚種であるパーリーレザーフィッシュ(Pearly Razorfish)は、すべてメスとして生まれるが、一部が性別を変えてオスになる。これは繁殖の成功率を最大化するための戦略で、小さな個体のうちは、メスとして産卵して繁殖するほうが有利であり、成長して年齢を重ねると、オスになって縄張りを守るほうが有利だからだ。このような社会構造は、メスに保護と秩序、安定をもたらし、相対的に少数のオスには安定した交尾の機会を保障することになる。このため、パーリーレザーフィッシュ以外にも、ドラゴンフィッシュ、ブルーフィン・スナッパーなど多くのベラ科の魚類がこのような生存戦略をとっている。
しかし、ここ数年、地中海西北部のバルアレス諸島では、この魚種の人気が高まるにつれ、漁獲圧が大幅に高まった。バルセロ=セラ研究員は「漁が許可される時期になると、人々が一斉に押し寄せ、家族総出で釣りに行き、みんながこの魚を食べたがる」とナショナル・ジオグラフィックに述べた。繁殖期である夏には禁漁期間が設けられているが、9月1日からは合法的に釣りができるようになり、一部の地域ではわずか数日で個体数の最大60%が捕獲されることもある。
■釣り針に飛びつくのは、群れを守るオス
問題は、人間が体格の大きなリーダー格のオスを主に釣り上げてしまうことだ。パーリーレザーフィッシュは動く物体をみると積極的に接近する習性を持つ。餌のついた釣り針が現れると、たいていの場合は縄張りと群れを守るオスが最初に飛びつく。このようにして群れからオスがいなくなると、幼いメスは体が十分に成長しないうちに性転換を始めることになるというのが、研究チームの説明だ。
実際に研究チームが、釣りが一切許されていない海洋保護区と、そのすぐそばの漁獲活動が活発な区域の計3カ所を比較したところ、海洋保護区のパーリーレザーフィッシュの体長は平均17.4センチメートルだったのに対し、漁業区域では平均14.9センチメートルで、2.5センチメートル小さいことが分かった。性転換の時期についても、漁業区域のメスは平均2歳なのに対し、海洋保護区では4歳で、漁獲圧が大きな影響を及ぼしていることが明らかになった。バルセロ=セラ研究員は「メスとして長く生きて成長するほど、より多くの子孫を残すことができるが、早い時期に性転換すれば、その分、産卵の機会が減ることになる」と説明した。
過度な漁獲が魚に影響を及ぼすことは、エピジェネティック(後成遺伝学的)な分析結果からも確認された。今回の論文の共同著者であるオランダ生態研究所のキース・ファン・オース研究員らが、120匹のパーリーレザーフィッシュのひれから採取したDNAを比較したところ、年齢差だけでは説明しがたい差異が約300カ所で確認された。漁獲区域と保護区のパーリーレザーフィッシュでは、エネルギー利用、神経細胞の興奮性、免疫システムの調節などに関与する遺伝子に、それぞれ異なる化学的マーカーが確認されたのだ。研究チームは、このような変化は、リーダー格のオスがいなくなった際に生じるストレスによる可能性があると推定した。