脳は私たちの生の指揮者だ。考え、感情、行動、記憶、そして私たちが世界を認知するすべての手法の中心に、脳が位置している。
しかし、脳も体の一部だ。時間の流れから逃れることはできない。加齢とともに脳細胞の損失や神経接続の弱まり、血流の減少などが訪れる。物忘れの現象が発生する理由だ。認知症がやって来ることもある。
脳は思ったより早く性能が低下する。20代から脳は短期記憶力が落ち始めることが知られている。30代になると「大きさ」も縮む。研究の結果、脳の体積は35歳のときから毎年0.5%ずつ減少する。60代半ばになれば、脳の体積は20代に比べ10%も小さくなる。
しかし、老化にともなう脳機能の低下は、もはや宿命ではない。近代医学と神経科学の発展のおかげで、脳もアンチエイジングが可能な時代になった。
根拠は、脳が持つ驚くべき「可塑性」だ。可塑性とは、脳が新たな経験や学習を通じて構造と機能を変化させる能力を意味する。したがって、意識的に脳を刺激し、脳の健康に役立つ健康な生活習慣を維持すれば、脳の老化を遅らせたり、一部の機能を改善させたりすることができる。
世界的な神経科学者であり脳映像の専門家であるダニエル・エイメン博士は、30代のときに自分と80代の祖母の脳を比較して驚いたことがある。自分の脳より祖母の脳のほうが、はるかに元気だったためだ。
その当時、エイメン博士は体を気遣う時間がないほど研究に没頭していた。脳のトレーニングなど考えることもできなかった時期だった。一方、エイメン博士の祖母は、脳をよく管理していたという。その「事件」をきっかけに、エイメン博士は様々な研究を通じて、脳のアンチエイジングが可能であることを知ることになった。
脳の可塑性の専門家であるマイケル・メルゼニッチ博士の事例も似ている。2017年に訪韓したメルゼニッチ博士は、頭脳の活用度が当時90で、40代の成人の頭脳の活用度の平均である83よりはるかに高かった。メルゼニッチ博士は脳をトレーニングすれば、死ぬ直前まで「性能」を維持したり、より高めたりすることもできるとして、認知症予防も可能だと強調した。
ならば、脳はどのようにして訓練すればよいのか。簡単な秘法や魔法のような力を持つ特効薬はない。しかし、科学的に検証された様々な方法を着実に行えば脳の健康を維持できるというのが、専門家の意見だ。国内外の専門家が提示した方法のうち、代表的なものを紹介する。
■脳に新たな刺激を与える
脳は「困らせるほど」元気になる。慣れない分野の本を読んでみよう。量子物理学のような難解な難しい本であるほどより有効だ。宗教に関心があれば、経典を読んで、好きな部分を覚えるのもいい。
日記を書くことも効果がある。過去と現在、未来をすべて書き込むことができるため、脳は様々な刺激を受けることになる。手で日記を書けばさらによい。
外国語の勉強を始めることも脳の刺激に役立つ。編み物、ピアノ演奏、絵画、工作など指を多く使う趣味生活も、脳に多くの刺激を与える活動だ。
■ニューロビクスを習慣づける
ニューロビクス(Neurobics)は、脳神経細胞であるニューロンとエアロビクスを合成した言葉だ。ニューロンを鍛える運動という意味で、慣れないことをするというものだ。方法は多様だ。
普段使わない手で食事をしたり、歯磨きをしたり、普段通らない道を通って帰宅したり、後ろ向きで歩いたり、ナビゲーションを使わずに道を探したり、常に新しい場所に旅行することなどが挙げられる。ニューロビクスは記憶力に関連する前頭葉を活性化し、脳の老化を遅らせる助けになる。
■肯定的な思考を育てる
自分に対して否定的なことを言ったり考えたりすることをやめよう。「年を取ると忘れっぽくなる」などと言うことは絶対禁止だ。考えてもいけない。脳は私たちが想像したとおりに受け入れてしまう。
その代わり、肯定的で楽観的なことを言い、考えなければならない。何より、脳の可塑性を信じること。脳のアンチエイジングの方法を実践し、脳が日々若返ると考えよう。
肯定的な思考を育てるうえで、最も良い方法の一つは瞑想だ。毎日一定の時間を定め、自身の肯定的な姿を様々なかたちで思い描く時間を持とう。
■有酸素運動をする
脳の老化で生じる代表的な現象が灰白質の減少だ。灰白質は全神経細胞の60%以上が集まる場所で、この領域が減れば、脳機能が低下することになる。有酸素運動は脳細胞の損傷を防ぐうえで、大きな役割を果たすことが知られている。歩行、駆け足、自転車に乗るなど、息が切れるほどの規則的な中程度の有酸素運動がいい。一度に30分以上、1週間に5回以上、こうした運動をすれば、脳機能が向上することが知られている。1週間に2回以上でも効果があるという研究もある。認知症などの脳疾患の発生リスクも減少する。歩いて30分程度の距離ならなるべく歩く習慣を身につけよう。
■脳の健康を害するものを減らす
酒とタバコはやめたほうがいい。難しければ、せめて減らしてみよう。飲みすぎた後に「フィルムが切れる」ブラックアウト現象は、一種の脳の損傷だ。深酔いが認知症に発展する可能性もある。
「ジャンクフード」も減らさなければならない。このような食べ物をよく食べる人は、学習、記憶、精神の健康に関連する脳の部位がより小さいという研究結果もある。