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天然水素「5万年分使用量」の5兆トンが足元に…新しいゴールドラッシュ来るか

登録:2024-02-26 19:50 修正:2024-02-27 08:19
米地質調査局、未発表報告書の内容を公開 
地質学者「ゴールド水素 ゴールドラッシュ到来中」
鉄分が豊富なカンラン石は、高温高圧で地下水と反応し水素を生成する=スミソニアン国立自然史博物館提供//ハンギョレ新聞社

 史上最大の天然水素の鉱床がアルバニアの鉱山で発見されたという研究報告に続き、全世界の地中に埋蔵されている天然水素が5兆トンに達するという米国地質調査局(USGS)の未発表報告書の内容が公開され、注目を集めている。水素は温室効果ガスを排出しないクリーンエネルギー源だ。

 5兆トンとは、現在全世界で年間消費される水素1億トンを基準にした場合には5万年、今後予想される年間5億トンを基準にした場合には1万年にわたって使える量だ。

 研究責任者である地質調査局のジェフリー・エリス博士(石油地質学)は、最近デンバーで開かれた米国科学振興協会(AAAS)の年次学術会議で、研究内容の一部を紹介し、「大部分の水素は接近不可能な可能性が高いが、数%だけ抽出しても年間5億トンに達するとみられ、天然水素の予想需要量を数百年にわたって充足できるだろう」と話した。英フィナンシャルタイムズは学術会議に参加した地質学者の話を引用し、新しいエネルギーゴールドラッシュが始まる可能性があるとの展望を述べた。

科学者たちが天然水素を求めてアルバニアのクロム鉱山坑道を探査している=F-V.Donze提供//ハンギョレ新聞社

 水素経済に関する世界の企業家の協議体である水素委員会(Hydrogen Council)は、2050年までに全世界のクリーン水素の需要は年間3億7500万トンに達すると推算している。

160年前の油田開発ブームが再現される可能性も

 現在、燃料や産業の原料としての水素は、主にメタンが主成分である天然ガスを高温高圧で水蒸気と反応させる改質工程を通じて得られる。これを「グレー水素」と呼ぶ。水素市場全体の90%以上がグレー水素だ。この時、副産物として出てくる二酸化炭素を外に排出せずに捕集・保存するもう一つの過程を経ることになれば、ブルー水素と呼ぶ。再生電力で水を電気分解して得るグリーン水素は炭素を排出しないが、費用対比効率が落ちるため生産量は微々たるものだ。

 しかし、地中から天然水素を抽出することになれば、温室効果ガスである二酸化炭素を排出する環境負担や、グリーン水素を作る際の費用負担を大幅に減らすことができる。こうした点から天然水素を「ゴールド水素」と呼ぶこともある。コロラド鉱山学校のメングリー・チャン教授はフィナンシャルタイムズに「ゴールド水素のゴールドラッシュが来ている」と話した。

 一部では、天然水素が約160年前に米国で始まった油田開発ブームを再現する可能性もあるとみている。ブラックゴールドラッシュとも呼ばれた油田開発ブームは、1859年にエドウィン・ドレークが米ペンシルベニア州タイタスビルで初めてボーリング孔を利用した石油生産方式を開発したのがきっかけとなった。

米ネブラスカ州の天然水素ボーリング施設=Natural Hydrogen Energy提供//ハンギョレ新聞社

 昨年、ビル・ゲイツのエネルギーベンチャーキャピタルであるブレークスルー・エナジー・ベンチャーズ(Breakthrough Energy Ventures)などから9100万ドルの投資金を確保した天然水素採掘企業「コロマ」のポール・ハラカ(Paul Harraka)最高事業責任者(CBO)は、「天然水素は炭素の排出が少ないだけでなく、土地および水、エネルギー消費も少ないため、クリーンな水素を生産できる特別な機会」だと話した。米ネブラスカで天然水素の探査作業をしている天然水素エネルギー(Natural Hydrogen Energy)のヴィアチェスラヴ・ズゴニック最高経営責任者は「商業的生産を始めるには数年はかかるだろう」と述べた。

石油のない所に天然水素がある

 しかし、これまでは石油や天然ガスの抽出に資金と研究が集中したため、天然水素の潜在力は注目されなかった。油田のある堆積岩層には、完全な状態の水素が希薄だ。

 科学者らは、地球マントルの上部に広く分布しているカンラン石を主な天然水素の供給源とみている。鉄成分が豊富なカンラン石が高温高圧で水と反応して蛇紋石になる過程で水素が作られるためだ。鉄は水分子から酸素原子を奪い水素を放出する。

 天然水素が初めて注目を集めたのは1987年だった。当時、西アフリカ・マリの首都バマコから60キロ離れた村で井戸を掘っていたところ、深さ108メートルの地点からガスが漏れているのを発見した。しかし、ガスの正体が水素と確認されると、爆発の恐れでボーリング孔は埋め立てられ、すぐに忘れられてしまった。そして2007年、マリ出身の実業家アリウ・ディアロが率いる石油ガス会社ペトロマ(現ハイドロマ)が同地域の資源探査権を獲得し、水素は再び機会をつかんだ。

 ハイドロマは2012年、この地域の水素が純度98%にもなることを確認したのに続き、2018年国際水素エネルギージャーナルに「天然水素ガスの開発価格が化石燃料または電気分解で製造された水素よりはるかに安いと推定される」という探査結果を発表した。初めて天然水素の経済性を確認したこの研究を契機に、天然水素研究が活発になり始めたと「サイエンス」は伝える。

 米テキサス大学オースティン校のマイケル・ウェバー研究員(エネルギーシステム)はサイエンスに「天然水素は石油とガスがないところにあるという点で(石油中心の)地政学を良い方向に崩すこともできるだろう」と話した。

クァク・ノピル先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/science/science_general/1129799.html韓国語原文入力:2024-02-26 17:59
訳J.S

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