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凍土のDNAが明らかにした200万年前のグリーンランドは「未来」に似ていた

登録:2022-12-10 13:04 修正:2022-12-11 09:50
[アニマルピープル]
北極から800キロメートル離れたグリーンランド北部の200万年前の様子の想像図。当時生物が環境に残したDNA構造を通じて再構成した=ベス・ザイケン氏提供//ハンギョレ新聞社

 動物は、排泄物や汗または古い皮膚組織の形で、自身のDNA構造を環境に耐えることなくばら撒いている。これらは、ほとんどは分解され消えるが、特別な状況では長期間保存され、ごくわずかな量でも精巧な分析装置により、どのような動物のものなのかを明らかにできる。いわゆる環境DNA(eDNA)技術だ。

 この技術を利用すれば、生物を直接採集しなくても、湖や小川の水をコップ1杯分析することで、どのような種類の魚や哺乳類が生息しているのかを知ることができ、花を探しにきた昆虫や雪原につけられた足跡の主人公を追跡することもできる。また、過去のDNAを確保すれば、当時の生態系を推測できる。

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eDNAはタイムマシン

 eDNA技法を利用し、200万年前の北極近くの生態系がどんな姿であったのかを解明した研究結果が出てきた。これまでで最も古いeDNAは、100万年前のシベリアのマンモスから確保されたもので、今回の研究ではさらに2倍遠い過去の“失われた世界”を覗いてみることができるようになった。

 英国オックスフォード大学のカート・キーエル教授らによる国際研究チームは、科学ジャーナル「Nature」最近号に掲載した論文を通じて、「eDNAにより、200万年前のグリーンランドの生態系が分かった」と明らかにした。研究者らは、北極から800キロメートル離れたグリーンランド北部の海岸堆積層であるカップ・クブンハウン層からeDNAを抽出し解読に成功したと明らかにした。

 北極に隣接する場所にもかかわらず、135種以上の動植物が生息していたことが分かった。研究者らは「開放された針葉樹林にポプラ、カラマツ、カシワが混ざって育ち、地面には極地と亜寒帯の灌木と草木植物が分布した」と明らかにした。

 DNAで確認した動物には、トナカイ、北極ウサギ、レミング、ガンなどとともに、グリーンランドでは初めて報告される象の絶滅した遠い先祖であるマストドンも含まれた。暖かい海に住むカブトガニや珊瑚、緑藻類のDNAも確認された。当時、その場所の年平均気温は現在より11~19度高かったと研究者らは明らかにした。

 オックスフォード大学のエスケ・ウィラースレフ教授は、同大学の報道資料で「初めてこのように長期の過去の生態系のDNAを直接目で見ることが可能になった」とし、「DNAはすぐに分解してしまうが、特別な条件では誰も想像できないほど長く保存される可能性があることがみえた」と述べた。研究者らは、41個の試料から粘土鉱物の表面に付着したDNA構造を抽出できたと明らかにした。

遺伝物質を確保したカップ・クブンハウンの位置(星印)=カート・キーエルほか(202)//ハンギョレ新聞社

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気候変動の未来なのだろうか

 しかし、その過程は順調なものではなかった。研究者らは、2006年に永久凍土の堆積層の有機物層から試料を採取したが、その中にDNAが入っていることを確認したのは2017年だった。

 その後、40人ほどの国際研究チームは「あたかも探偵のように、確保したDNA構造を現生生物のDNA塩基配列と一つひとつ比較し合わせてみる苦痛と失敗の連続の時期を送らなければならなかった」と研究者らは明らかにした。

過去のeDNAを抽出したグリーンランド北部海岸のカップ・クブンハウン層の様子。上に2人の研究者が試料を採取する様子が見える=スベンド・ファンダー氏提供//ハンギョレ新聞社

 興味深いことに、当時のグリーンランド北部の気候は、気候変動によって暑くなる未来に似ている。北極の生態系は、今後このような姿に変わるのだろうか

 何より、当時と現在の生物は遺伝的に違う。研究者らは「200万年前の試料は、過去の生物がどのように現在の姿に進化したのかDNAの変化過程を示してくれるだろう」と明らかにした。

 実際、今回確認されたカシワのDNAは、現生種に現れている多くの突然変異が生じていない状態の古代種だった。1年の半分は日が昇らない北極で、植物がどのように生き残ったのかは、今後の研究課題だ。植物のDNAの中にその秘密が隠れているのだろう。

凍土地帯で化石が発見されるのは珍しい。200万年のカシワの化石は過去に森が存在したことを示している=スベンド・ファンダー氏提供//ハンギョレ新聞社

 研究に参加したデンマークのコペンハーゲン大学のミケル・ペダーセン教授は「表面的だけを見ると、カップ・クブンハウンの気候は、地球温暖化が近づく未来の地球に似ているかもしれない」と述べ、「今回の研究から、多くの生物の種が分かったことよって、急変する気温にうまく適応し進化できることが明らかになったが、重要なのは、温暖化のスピードは極めて速く、生物の種が適応する時間は不足しているという事実」だと述べた。

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アフリカの人類の起源も探索

 一方、今回開発された過去のDNAの解読技術は、絶滅が危惧される生物が、気候変動にうまく耐えられるようにすることに応用可能だろうという期待も出てきた。キーエル教授は「200万年前の気候温暖化で絶滅せずに生き残るために植物が開発した戦略を、遺伝工学に利用し模倣すれば、今後の地球温暖化の対応に使えるだろう」と述べた。

 また、粘土鉱物の微細な隙間でDNAが長期間保存されることが可能であれば、凍土地帯でない湿って暑いアフリカでも保存されている可能性もある。ウィラースレフ教授は「万が一、アフリカの粘土鉱物から古代のDNAを抽出できれば、最初の人類とその先祖に関し画期的な情報を得ることができるかもしれない」と述べた。しかし、古代の遺伝物質でも、500万年以上は持ちこたえられないことが分かった。

引用論文:Nature, DOI:10.1038/s41586-022-05453-y

チョ・ホンソプ記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/animalpeople/ecology_evolution/1070913.html韓国語原文入力:2022-12-09 14:43
訳M.S

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