父親と10代の娘、近い親戚で構成された約5万年前のネアンデルタール人家族の化石が発見された。
43万年前のユーラシアに定着し4万年前に絶滅したと推定されるネアンデルタール人の化石は、これまで14カ所で18人が発見されたが、このような集団をなしているのは今回が初めて。
ドイツのマックス・プランク進化人類学研究所は20日、「ロシア南部シベリアのアルタイ山脈南西の洞窟2カ所で見つかった5万1000年~5万9000年前のネアンデルタール人13人の化石のDNAを分析した結果、これらの人々が家族共同体であることが明らかになった」と国際学術誌「ネイチャー」に発表した。そこはデニソワ人が発見された洞窟と非常に近い所だ。
2010年にネアンデルタール人の遺伝子を解読し、現生人類とネアンデルタール人が一部遺伝子を共有しているという事実を突き止めたことによって、旧人類と現代人のつながりを見つけた功績により、今年のノーベル生理学・医学賞を受賞したスバンテ・ペーボ博士も今回の研究に参加した。
化石が発見された場所は、チャギルスカヤ洞窟(11人)と近隣のオクラドニコフ洞窟(2人)。最初は2007年にロシアの科学者が見つけたチャギルスカヤ洞窟の化石だった。科学者らはそこで、ネアンデルタール人の骨や歯の一部と9万点の石器、屠殺された野牛の骨を発見した。研究チームは、これらの人々が草原を求め移動する野牛を狩るためにこの洞窟に来たと推定した。
2020年、この洞窟で発見された1人の女性の指の骨に対する最初の遺伝子分析結果は、新たな事実を教えてくれた。この女性の遺伝子が、100キロメートル離れた洞窟で発見されたデニソア人よりも、数千キロメートル離れたクロアチアのネアンデルタール人により近かったからだ。これは、ユーラシアのネアンデルタール人が、1回ではなく数回にわたり東に移動したことを示唆する。
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孤立した共同体ではないが、父系中心とみられる
研究チームがこれまでこの洞窟で確認した遺伝子は、大人6人と子供5人の合計11人だ。全員が同じ堆積層で発見された。
これらの化石のうち、成人男性の脊椎と10代女性の歯の遺伝子の変異とミトコンドリアを分析した結果、2人は父と娘の関係だと推定された。他の2人の男性はこの父に近い親戚だと明らかになった。また、別の成人女性と少年は、祖母と孫または叔母と甥くらいの家族関係だと推定させる程度の遺伝子を共有していた。
共同研究チームのカリフォルニア大学バークレー校のローリツ・スコフ博士は「ゲノム全体を分析した結果、これらの人々はすべて血縁関係を持っており、全員一度に死亡した可能性がある」とニューヨークタイムズ紙に述べた。
集団的な死を迎えた原因は何だったのだろうか。
スコフ博士は、洞窟の崩壊のような災害の兆候がないことからみて、長期間、野牛狩りができず飢え死にした可能性があると述べた。
研究チームは、近くにあるオクラドニコフ洞窟でも2人のネアンデルタール人の化石を見つけ、2つの洞窟の化石の遺伝子全体を比較分析した。13人のネアンデルタール人は、男性7人、女性6人で、うち5人は子供または青少年だった。
分析の結果、男性にあるY染色体は互いに似ていたが、母親から受け継ぐミトコンドリアDNAは非常に多様だった。研究チームは、これは男性は出生時の集団にとどまり、女性は出産などのために他の集団に移動したことを示していると解釈した。これは、ネアンデルタール人の社会が孤立した共同体ではなかったが父系中心だったことを意味する。
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20人以下の小規模な共同体の生活…絶滅危惧種の境遇に類似
研究チームは、これらの人々の遺伝的多様性が非常に少ない点をみて、ネアンデルタール人は20人以下の小さな規模で集団生活をしていたと推定した。スコフ博士によると、これはシベリア全体に住んでいたネアンデルタール人の人口も千人に達しなかったことを意味する。彼は、今日の絶滅危惧種のマウンテンゴリラに似た境遇だと付け加えた。
今回の研究は、ネアンデルタール人の集団生活に関する秘密の扉を開く糸口を見つけたという点で意味付けることができる。特に、家族共同体の1つの断面を示すことで、ネアンデルタール人が過去に考えられていたものよりも、私たちにいっそう似た存在であることを教えてくれた。
しかし、トリニティ・カレッジ・ダブリンのララ・キャシディ教授(遺伝学)は、今回の研究は、東に住んでいたネアンデルタール人の社会構造だけを示している可能性があるという点を警告した。苛酷なシベリアの冬のため、他地域より人口が少なかったこともありうるということだ。
キャシディ教授は「今回の研究はマイルストーンであり、中東や欧州のネアンデルタール人グループの遺伝子を分析すれば、よりいっそう明確な姿がわかるだろう」と述べた。