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「日本が『植民地支配の不法性』認めれば良いことばかり」(1)

登録:2022-09-13 02:58 修正:2022-09-13 08:09
日本の国際法・人権専門家、戸塚悦朗弁護士
最近の著書『日韓関係の危機をどう乗り越えるか?:植民地支配責任のとりかた』韓国版を発行した戸塚悦朗弁護士=戸塚弁護士提供//ハンギョレ新聞社

 「極端に保守化してゆく日本社会をどう変えることができるか?と考えると、絶望的な気持ちになってしまいます。しかし、方法は絶無ではないと思います。韓国からの様々な呼びかけに真剣に応えること、哲学者が言う『応答責任』を果たすことが考えられます。私の研究もそのような試みの一つなのです。多くの日本の人々がそのような努力を重ねることで、歴史認識を深化させて行くことができるのではないでしょうか」

 今年80歳の戸塚悦朗弁護士は、30年前の1992年に国連人権委員会に出席し、日本軍「慰安婦」という用語を「性奴隷(Sex slaves)」に変えようと初めて主張した人物だ。その後、国連などの国際社会において、「性奴隷」は「慰安婦」を指す一般的な用語となった。

 昨年、同氏が日本語で出した小冊子『日韓関係の危機をどう乗り越えるか?:植民地支配責任のとりかた』の韓国語版が最近、慶北大学法学専門大学院のキム・チャンノク教授の翻訳で知識産業社から刊行された。翻訳者のサポートのもと、今月2日に著者に電子メールで書面インタビューを行った。

 1980年代半ばから国連の舞台で日本の精神障害者に対する人権侵害などを提起し、自国を良い社会にするよう努めてきた戸塚弁護士は、30年前に「慰安婦」問題と出会い、その人生は少なからぬ変化を迎える。

 同氏は1992年からの国連での活動を通じて、「慰安婦」被害者と日本が合意点を見出せるよう仲裁に努めることと並行して、「慰安婦」問題の真実を探るための学問探求も行ってきた。彼は「慰安婦」についての法制研究を行うためには1905年の乙巳勒約(通称「韓国保護条約」。以下の戸塚弁護士の発言の中では「日韓協約」)と1910年の韓日併合条約の効力の研究が必要だと考え、1992年に客員研究員としてロンドン大学に赴いたが、思いがけず同大学の高等法学研究所の図書館で「1905年韓国保護条約は効力を発生していない絶対的無効のもの」という1963年の国連国際法委員会(ILC)報告書を「発見」した。同氏はこの文書について翌年の国連人権委員会に報告し、2006年には論文として発表した。同氏はまた「慰安婦」研究のためにはジェンダーの学習が必要だという判断のもと、1997年に国連活動をやめて研究者の道に入り、2007年に立命館大学大学院で『ILOとジェンダー:性差別のない社会へ』と題する論文で博士号を得た。

『日韓関係の危機をどう乗り越えるか?:植民地支配責任のとりかた』韓国版の表紙//ハンギョレ新聞社

 2000年から10年間、龍谷大学法学部などに教授として在職し、学者の道を歩んだ同氏は、4年前に弁護士として再登録し、翌年の2019年にはこれまでの韓日関係についての研究成果などをもとに、2冊の本(『歴史認識と日韓「和解」への道―徴用工問題と韓国大法院判決を理解するために』、『「徴用工問題」とは何か?―韓国大法院判決が問うもの』)を出した。

 同氏はまず、今回韓国語に翻訳された本『日韓関係の危機をどう乗り越えるか?:植民地支配責任のとりかた』をなぜ著したのかについて、次のように明らかにした。「(韓国人強制動員被害者の日本企業に対する慰謝料請求を認めた2018年韓国最高裁判決の)核心が『不法な植民支配』という判断にあったことに気づきました。安倍首相は、国会答弁などで展開した『論点のすり替え』の手法で、1965年日韓請求権協定違反による日本の被害を前面に立てて、韓国が条約違反の加害者であると非難しました」

 同氏は新著で、自分の過去の研究成果をもとに、日本の朝鮮半島植民地支配がなぜ不法だったのかを論証し、続いて日本の指導者たちがこれを認めることが韓日関係にとって重要だと強調した。同氏が日本による植民地支配は不法だと考える第1の根拠は、1910年の韓日併合条約の基礎となった1905年の韓国保護条約の日本語版条約文の原本が未完成だったということだ。「日本政府が保管する日本語版条約文原本の文面の1行目は、空白になっており、タイトル『日韓協約』がなかったのです。言い換えれば、条約文起草段階の原案、草案でしかなかったのです。これは、未完成な文書に過ぎず、結局、1905年11月17日付の『日韓協約』という『条約』は、存在しなかったと考えるのが合理的だということに気付きました。私は、長い間、この『日韓協約』の効力問題を研究してきました。1963年国連総会向け国連国際法委員会(ILC)報告書が、日本(伊藤博文が主導)が大韓帝国の代表だった皇帝や閣僚ら個人を脅迫して締結を強制したということをこの条約の無効原因としていたことを1992年秋に発見し、その後この『日韓協約』が無効であると論じていました。仮にこの条約が存在すると仮定しても、大韓帝国の独立と国家主権を奪う重要な条約ですから、当然あるべきはずの条約締結権者(高宗皇帝)による署名や批准が必要なのですが、高宗皇帝による署名も、批准もなかったのです」

 このような同氏の考えとは異なり、日本の歴代政権はいずれも朝鮮半島植民地支配は合法だったという認識を固守してきた。同氏は「民主党政権の2010年8月10日菅直人首相談話は、…併合条約についての法的立場を変更する一歩手前まで歴史認識を深化させたのです。ところが、逆転が起きてしまいました」と述べ、このような歴史認識の退行は「(安倍首相が)右傾化する世論や嫌韓の流れに乗って『韓国をたたけば選挙に勝てる』というポピュリズム政治の罠に落ち込んでしまった」ことが理由の一つだと指摘した。

 同氏は新著で「日本が植民地支配の不法性を認めたら、実は良いことばかり」と述べた。なぜだろうか。「植民地支配の不法性を認めたら、日本の国際関係が好転し始めることは当然のことです。それ以上に私が一番重要と考えるのは、虚構を信じながら生きる必要がなくなることです。日常的にストレスが減り、子どもの教育にはたとえようがないほど、良い効果があると思います。2012年の安倍政権以降、教育への政権の干渉が強くなりました。…子どもたちは、戦前のように虚構を信じるように誘導されるのです。教科書を学者が自由に執筆するという原則が崩壊しつつあります。教科書が、その時の政府の考え方次第で左右されるようでは、学問の自由も、思想・信条・表現の自由も失われてしまうでしょう」(2につづく)

カン・ソンマン先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/culture/book/1058315.html韓国語原文入力:2022-09-12 18:42
訳D.K

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