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「ウ・ヨンウ」エピソードは実話…当時の3人の弁護士「勝敗を越え、人間性を見た」

登録:2022-07-26 14:24 修正:2022-07-31 09:37
ドラマ「ウ・ヨンウ弁護士は天才肌」エピソード原作の著者3人 
シン・ミニョン、シン・ジュヨン、チョ・ウソン弁護士インタビュー 
「何が正義なのかを問いかけるドラマ」
ドラマ「ウ・ヨンウ弁護士は天才肌」でウ・ヨンウ役を演じたパク・ウンビン=ナムアクターズ提供//ハンギョレ新聞社

※記事本文にはドラマの1話・3話・7話・8話の内容が一部含まれています。

質問をひとつ。ドラマ「ウ・ヨンウ弁護士は天才肌」(ENA)には「原作」があるか?

ドラマの原作はないが、エピソードの原作はある!

 「ウ・ヨンウ弁護士は天才肌」(以下「ウ・ヨンウ」)には原作の小説やウェブ漫画が存在しない。脚本家の想像力で作り出した仮想の物語だ。ただし「エピソード原作」は存在する。「ウ・ヨンウ」は、自閉スペクトラム症を持つ主人公ウ・ヨンウ(パク・ウンビン)が法律事務所「ハンバダ」に新人弁護士として入所してから起こる事件を扱うが、ウ・ヨンウが弁護を担当した事件の多くは実話に基づいている。制作スタッフは実際の事件を担当した弁護士たちが書いた本を「エピソード原作」とし、各弁護士・出版社と著作権利用許諾契約を結んだ。

 「ウ・ヨンウ」のエンディングクレジットに「エピソード原作」として名を連ねる本は計3冊。シン・ミニョン弁護士の『なぜ私は彼らを弁護するのか』(ハンギョレ出版、2016、1・3・6・10話)、チョ・ウソン弁護士の『一つの喜びが千の悲しみに勝つ』(ソサムドク、2022、4・11・13・14話)、シン・ジュヨン弁護士の『法廷の達人』(ソル出版社、2020、7・8話)だ。

 本紙はエピソード原作者である3人の弁護士と、電話でドラマに関する様々な話を交わした。エピソード原作は、法廷ドラマとしての「ウ・ヨンウ」に現実感を与えただけでなく、裁判の勝敗の結果とは別に「過程」と「ひと」に集中する「ウ・ヨンウ」の世界観とつながっている。

「アイロン事件」の共感力

 「私は自閉スペクトラム症でありまして、皆さんからすると言動がぎこちないかもしれません。しかし法を愛し、被告人を尊重する心は、他の弁護士と変わりません」。ウ・ヨンウが弁護士として初めて法廷に立った第1話での台詞だ。

 「法を愛し、被告人を尊重する心」は、エピソード原作者の3人の本でも共通してあらわれる。第1話は、70代の高齢の女性が夫の頭を鉄のアイロンで殴り、殺人未遂容疑で裁判を受ける事件を扱った。

 ウ・ヨンウは刑事裁判の中に隠れた争点である民法上の相続問題を見つけだし、先輩のチョン・ミョンソク(カン・ギヨン)弁護士から業務遂行能力を認められる。チョン・ミョンソクは、ウ・ヨンウがいくら法科大学院を首席で卒業した天才だとしても、依頼人とまともにコミュニケーションができるのかを疑っていたが、ウ・ヨンウは事件資料ではなく被告との対話の過程で、被告当人すら見落としていた生計問題を指摘したからだ。

 このエピソードは、シン・ミニョン弁護士が国選専門弁護士だった時に担当した事件を刑事裁判のさまざまな論点と結びつけて書いた『なぜ私は彼らを弁護するのか』に基づく。被害者の夫の職業や事件の細部情況、道具などは脚色されているが、弁護士が被告当事者さえも見落としていた「隠れた争点」を発見したのは実際と同じだ。シン弁護士は「弁護士の仕事をしていると、誰の立場になってみるかによって事案が違って見える。共感能力が欠かせない。ウ・ヨンウの共感力を示すエピソードとしてうまく脚色されている」と話した。

 シン・ジュヨン弁護士も「本のタイトルになった『法廷の達人』は、裁判で勝訴する能力の優れた人を意味するのではなく、与えられた仕事を情熱的にこなし、人を愛する気持ちで何かをやり遂げる人たちのこと」だとし、「既存の法廷ドラマは、誰が勝ったか負けたかという勝敗を中心に、特に法廷で悪党に勝つカタルシスを描写することが多かったとすれば、『ウ・ヨンウ』はより人に集中する面が見える」と述べた。

『なぜ私は彼らを弁護するのか』著者のシン・ミニョン弁護士(法務法人ホアム)=ハンギョレ出版提供//ハンギョレ新聞社

「三兄弟の対立」と妙手

 ドラマでは、ウ・ヨンウの頭に裁判で勝てる弁護論理がひらめくたびに、海の上に飛び上がるクジラの姿が挿入される。実際、弁護士たちも難しい裁判を乗り越える重要な論拠を見つけたとき「快感」を感じる。ドラマとエピソード原作は、弁護士には創意力と想像力が要求されるという点を痛快に見せてくれる。

 例えば、ウ・ヨンウの「妙手」が際立った第3話「三兄弟の対立」編は、チョ・ウソン弁護士の『一つの喜びが千の悲しみに勝つ』を土台としている。ドラマで、トン・ドンイル、ドンイ、ドンサム兄弟の父親は2001年に死去する前、江華島(カンファド)の土地約5千坪の名義を末っ子のドンサムに変えた。後にその土地が開発地域に指定され、土地補償金が約100億ウォンと策定された。ドンサムは補償金を兄たちと均等に分けようとしたが、兄たちが差し出した覚書にやむを得ずサインしてしまう。覚書には、補償金を長男が5割、次男が3割、三男が2割と分けつつ、すべての費用と税金を三男が負担するという内容が書かれていた。補償金どころか借金ばかりを負うことになると知ったトン・ドンサムの娘のトン・グラミ(チュ・ヒョニョン)は、友人のウ・ヨンウに助けを求める。

 チョ・ウソン弁護士を訪ねてきた実際の事件の依頼人は、三男の息子だった。依頼人がすでにサインしてしまった文書の効力をなくすのは非常に難しい。チョ弁護士は数日うなり続けたが、ついに膝を打った。まさに「その方法」を思いついたからだ。「息子さんやお父さんが、伯父さんたちから殴られる、という手があるな…」

 チョ弁護士の本は実際の事件に基づいているが、劇的な叙述方式を活用し、仮想の話を付け加えた部分もある。チョ弁護士は「本には三男親子が実際にその方法を使ったものとして書き、ドラマもこれと似たような設定を使ったが、実際にはその方法は使わなかった。粘り強い説得と交渉で解決した」と話した。

 チョ弁護士が依頼人に「妙案」として「何発か殴られること」を提示したのは事実だ。チョ弁護士は「弁護士は時には勝敗を越えて、全体的な構図で最も望ましい結論に至るような土台作りもしなければならない」と話す。ドラマでも現実でも覚書は無効になり、三兄弟が補償金を均等に分け合った。

『一つの喜びが千の悲しみに勝つ』著者のチョ・ウソン弁護士(法律事務所マストノウ)=チョ・ウソン弁護士提供//ハンギョレ新聞社

「ソドク洞物語」新人の情熱と思い入れ

 「ウ・ヨンウ」は主人公はもちろん、周りの人たちが共に変化する成長ドラマでもある。エピソード原作者である3人の弁護士の本にも、このような学びと省察の記録があふれている。特にシン・ジュヨン弁護士が10年目を迎えて法廷の経験談を集めて出版した『法廷の達人』は、新人弁護士が依頼人や法曹界の同僚たちから情熱的に学び、成長する過程が生き生きと記録されている。

 20~21日に2話分で放送された「ソドク洞物語」編は、シン弁護士が2009年に担当した第2自由路道路区域決定処分取り消し請求訴訟をモチーフとしている。シン弁護士は、村を真っ二つに分ける自動車専用道路の建設を阻止しようとした住民の訴訟代理人を担当した。

 『法廷の達人』は約300ページの本だが、この訴訟についての内容が100ページ近い分量を占める。ドラマでは省略・圧縮された内容が、この本にはドラマよりもさらにドラマチックに書かれている。実際の事件は、工事をしばし中断する道路区域決定処分効力停止仮処分承認を受けたが、本案訴訟で敗訴した。

 結果は負けたが、住民代表はシン弁護士に「私たちは後悔していない。結果はこうなったが、裁判しながら私たちは多くの励ましを受けた。これまでの悲しみはみんな補われた」と語ったという。住民たちが政府を相手に闘う「卵で岩を叩く」ような事件で、進んで「卵の味方」の側に立ち、弱者が勝つ先例を作ろうと懸命になったシン弁護士の情熱と思い入れを、住民たちも認めたのだ。

 ドラマでソドク洞の村長は「あの、ほら… 何だっけ?」という言葉を繰り返し、単語をうまく口にすることができない。シン弁護士は、住民たちの言葉を今も鮮明に覚えていた。シン弁護士は「住民たちは日常で使う難しくない言葉を使うが、法的にも筋が通っていた。住民たちが正確なことを言える理由は、本心が込められているからだ。その心に感銘を受けて、事件に没頭した」と語った。「ウ・ヨンウ」の第7話が放送されている最中に、一部の視聴者は「遺物が発見されますように」という書き込みをオンラインに載せたりもしたが、実際の裁判では、敗訴に終わってから10年後の2018年、第2自由路の一部区間で4万年以上前と推定される旧石器時代の遺物8千点余りが発掘され、工事が中断されたことがあった。

『法廷の達人』著者のシン・ジュヨン弁護士(法務法人対話)=ソル出版社提供//ハンギョレ新聞社

 エピソードの原作の弁護士たちは皆「ウ・ヨンウ」を毎回見ている。「エピソード原作がドラマでどのように脚色されたのかを比較して見る面白さ」があると言う。彼らはまた、「法廷ドラマとしてもかなり見ごたえがある。脚本家がまじめに相当勉強したのが分かる」と口をそろえて言った。チョ・ウソン弁護士は「過去にはドラマの制作スタッフが助言を求めてくる時、あらすじを全部作った上で連絡してくるので法的に間違っている部分を除くぐらいしかできなかったが、『ウ・ヨンウ』は最初から弁護士たちの書いたものを脚色しているので、現実感がさらに生きている」と話した。

 専門家が見て反感を持ちうる「穴」が減ったことで、彼ら弁護士たちもドラマをドラマとしていっそう楽しめるようになった。シン・ミニョン弁護士は「感情に訴えるものや正義感に頼りがちなこれまでの法廷ドラマとは違って、『ウ・ヨンウ』は弁護士らしい論理、現実に合った具体的な根拠を提示するので、さらに興味が増す」と評価した。シン・ジュヨン弁護士も「『ウ・ヨンウ』は視聴者が法廷で誰が勝って誰が負けるかを見る前に、全体の脈絡から何が正義なのかを考える余地を提供する。問いを投げかける」と語った。

キム・ヒョシル記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr)
https://www.hani.co.kr/arti/culture/culture_general/1052349.html韓国語原文入力:2022-07-26 14:01
訳C.M

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