「あなたの写真が盗用されているのでリンクに入って確認してください」
韓国社会を生きる女性なら無視できない恐怖のメッセージだ。メッセージを確認した瞬間、個人情報を盗むフィッシングの手法が使われる。その瞬間は驚くほど日常的であるため、被害者はなす術もなく犯罪者の罠にはまり、その時から地獄が始まる。
ドキュメンタリー『サイバー地獄:n番部屋 ネット犯罪を暴く』(2022、チェ・ジンソン)は、このように犯罪者が被害者を縛り付ける瞬間から始まる。この映画は、被害者が2次被害に遭う恐れがあるとの懸念から、被害者を直にインタビューする方式は取らず、事件の犯罪者を追う追跡劇のかたちを選択した。主な出演者たちは事件の実体の暴露に大きく貢献した「追跡団炎」をはじめ、ハンギョレのキム・ワン、オ・ヨンソ両記者などのジャーナリストたちだ。n番部屋事件は、違法撮影物を共有し金を稼ぐという方式のデジタル性犯罪であるという点で、「ソラネット」と本質は同じだ。しかし、追跡の難しいテレグラムのサービスを使って被害者をリアルタイムで脅迫し、暗号通貨で収益を創出するなど、新しい技術を利用して女性たちを搾取する非対面の集団犯罪だった。
監督は映画の序盤で、2019年のハンギョレの1面でn番部屋事件が報道された際の韓国社会の無関心さに疑問を投げかける。他の報道機関はもちろん、警察も世論もあまり反応がなかったとして虚脱感を吐露した出演者のインタビューは、韓国社会が女性の性搾取被害に何も感じなくなっていたということを省察する重要な手がかりだ。犯罪者たちはこのような無関心を知っていたかのように、緻密にメディアの取材に圧力をかけ、犯罪も悪質化させていった。取材した記者の個人情報を暴き、果ては報道機関の名を付けた被害者を生み出してもいる。
その後、事件を再び世論化し、犯罪者の逮捕に渾身の力を尽くした2人の20代女性「追跡団炎」の努力に、映画は詳しく照明を当てる。彼女たちは証拠となる被害者たちの映像の収集を続けるとともに、観戦応募者に偽装して犯人逮捕の決定的な手がかりを警察に提供してきた。追跡団炎の努力と通報した被害者たちの勇気のおかげで、犯人は捕まった。
ドキュメンタリーに出演した記者は、自分たちの報道で個人情報が公開された被害者に申し訳ない気持ちを伝えたところ、被害者に、そんな風には考えるなと言われたという。それだけこの事件は社会の関心を集めることが急務であったし、事件を犯罪と認識させるまでには世論戦も重要だった。匿名の多くの人々がハッシュタグ運動を展開し、ある人は地域で横断幕を張ってまわって社会的関心を訴えた。おそらく何人かの被害者には、そのような動きは命綱のように感じられたのではなかろうか。
実際に、被害者を苦しめたのは主犯のチョ・ジュビンやムン・ヒョンウクだけでなく、n番部屋にいた数多くの観戦者たちだ。検挙されたのは彼らの中の一部に過ぎない。第20代国会で性暴力犯罪の処罰などに関する特例法が改正され「違法性的撮影物を所持、購入、保存または視聴した者は、3年以下の懲役または3000万ウォン(約300万円)以下の罰金刑」に処されることになった。だが、n番部屋の一般加担者の一審判決を全数分析した記事によると、彼らの74%は懲役刑に執行猶予が付いている。「n番部屋をぶっ壊せ」というこの映画の(原文の)副題は、映画の中の多くの連帯者の熱望を表わすと同時に、私たちの社会に向けられた継続的な要請のように感じられる。この事件は依然として現在進行形だからだ。