南米の熱帯雨林に住む大蛇(ボアヘビ)は、待ち伏せをする狩人だ。樹上や森に隠れて待ち、餌が近づいて来ると、それを噛んで捕らえた後、通常は3メートル、長い場合は4メートルを超える太い胴体で巻いて絞めつけ、殺した後に丸ごと飲みこむ。
ネズミのような小動物から、イノシシやサルのように自分より大きな動物まで狩る。大蛇の強力な筋肉に巻きつかれると、息を止められ窒息する前に、脳に向かう血管が詰まり、心臓麻痺を起こしたり気を失ってしまう。
蛇に捕らえられた動物は抜け出そうともがくが、苦しい息をつこうとすると胸郭が狭まるため、息をつくたびに少しずつさらに絞めつけられるばかりだ。絞めつけは、通常は8~16分、長い場合は45分間続くが、力を多く使うため、ヘビはその際、普段より6.8倍も多い酸素を消費する。そのため、大蛇は獲物の心臓の鼓動の変化を感知し、絞める強度を調節したりする。
ボアコンストリクターやニシキヘビ、アナコンダなど毒のない大型のヘビにとって、餌を絞めることは極めて有力な狩りの戦略だが、深刻な問題がある。自らの体を罠に用いるので、獲物を強く絞める状態を維持するためには、自分の体も絞め続けざるをえない。絞めている間は呼吸ができなくなる。
哺乳類は、胸と腹を横切る横隔膜の収縮と弛緩を繰り返し、胸の内側の圧力を調節することにより、肺の呼吸を助ける。しかし、蛇には横隔膜はなく、ひたすら肋骨を動かすことで呼吸するしかない。
大型の餌を狩る際に呼吸が止まる問題を解決するため、ヘビは、早くから絞めることに用いない肋骨の一部を前後に動かすことで呼吸を助ける「モジュール式呼吸法」を進化させたという研究結果が出てきた。
米国ブラウン大学のジョン・カパノ博士研究員らは、「実験生物学ジャーナル」(Journal of Experimental Biology)の最新号に掲載した論文で、餌を絞める大蛇の骨格の動きをX線ビデオ撮影により分析した結果、「200個の肋骨が背骨と連結した部位に付いている補助筋肉を、個別単位で活性化または活動中止することにより、呼吸を維持していることが分かった」と明らかにした。ヘビの肺は、一方が体長の3分の1に達するほど長く、他方は極めて短い不揃いな形をしている。
研究者らは「餌を絞める時に使わない肋骨だけを呼吸に用いる機能を持つ補助筋肉は、すべてのヘビでみられる古代の形質」とし、「これなしには、自分より大きな餌を絞めて飲みこみ消化するのは不可能だっただろう」と論文で明らかにした。
ヘビは、絞める時だけでなく消化の際にも多くの酸素を消費し、自分より25%大きな餌を消化する場合、通常より3~17倍多い酸素を消費することが分かった。したがって、大きな餌を飲みこんだ後に長時間かけて消化する場合も、補助筋肉を利用した呼吸が必須となる。
ヘビは、南極を除くすべての大陸の様々な生息地に、3700種以上が分布する成功した分類群だ。絞めることと自分より大きな餌を飲みこめる柔軟な顎の骨格は、そのような成功の秘訣の一つに挙げられている。
引用論文: Journal of Experimental Biology, DOI: 10.1242/jeb.243119