本文に移動
全体  > 文化

[インタビュー]ネトフリ1位「イカゲーム」監督「敗者たちを忘れちゃいけない」

登録:2021-09-29 10:16 修正:2021-09-29 13:49
脚本・演出のファン・ドンヒョク監督インタビュー 
 
英雄一人が率いるのではなく、「ルーザーたちの物語」が一番の違い 
勝者たちは敗者たちの死体の上に立っている…敗者たちを忘れてはならない 
ストレスで歯が6本抜け…「シーズン2」をやるなら「入れ歯になりそうで心配」
「イカゲーム」を演出したファン・ドンヒョク監督=ネットフリックス提供

 「ほとんどの国で韓国ドラマ『イカゲーム』がネットフリックス1位を占めている。今の推移を見ると、ネットフリックスの非英語圏作品の中で最大の作品になりそうだ。ネットフリックスの全作品中で最大の作品になる可能性もある」

 ネットフリックス共同最高経営者(CEO)で最高コンテンツ責任者(CCO)のテッド・サランドス氏が27日(現地時間)、米国で開かれた「コードカンファレンス2021」で述べた発言だ。これに先立ち、ネットフリックス共同最高経営責任者であり創立者であるリード・ヘイスティングス氏はインスタグラムで、「イカゲーム」の緑色のジャージを着て自分が457番の参加者であることを認証した。海外のオンラインショッピングモールでは、主人公ギフン(イ・ジョンジェ扮)の番号456番が書かれたTシャツ、タルゴナ(カルメ焼き)作りの材料などが売れている。10年余り前に作品を初めて構想し、ついに世に出したファン・ドンヒョク監督は、このような反応を予想しただろうか。

 「防弾少年団(BTS)、PSYの『江南スタイル』、ポン・ジュノ監督の『パラサイト~半地下の家族』のように、最も韓国的なものが世界的なものだと言われています。作品の中の単純な遊びが世界的な訴求力があるかもしれないという可能性を考えてネットフリックスと作品作りをしましたが、これほどまでになるとは思いませんでした。『キングダム』でカッ(朝鮮時代の伝統帽子)が流行ったみたいにタルゴナも流行るんじゃないか?なんて冗談を言っていたけれど、実際にそんなことが起こってしまったので面食らっています」

 ファン監督は28日に行ったオンラインでのインタビューで、戸惑いを隠せない表情でこう語った。それでいて「せっかくここまで来たのだから、引き続き波に乗ってネットフリックス史上最も興行的に成功した作品になってほしいという欲も出てきた」と、正直な気持ちを隠さなかった。

「イカゲーム」スチールカット=ネットフリックス提供

 彼は「イカゲーム」の成功の秘訣として「ゲームのシンプルさ」を挙げた。「世界中の老若男女の誰もがゲームを簡単に理解することができたから、その中の人物らの感情に没頭することができた」というのだ。かつてマンガ喫茶で『ライアーゲーム』や『賭博黙示録カイジ』など「デスゲーム」を扱った日本の漫画を見てインスピレーションを得たというファン監督は「他の作品ではゲームが難しく複雑なので天才のような主人公が進行するが、『イカゲーム』は単純なので見る人がゲームよりも人に集中するようになるという点が違い」だと説明した。

 「他の作品のように一人の英雄が率いるのではなく、『ルーザー(敗者)』の話」というのも違いとして挙げた。「ルーザーのギフンも人の助けを借りてかろうじて一段階ずつ進む人」という点を強調したファン監督は、劇中の飛び石ゲームの話をした。

 「飛び石ゲームで生き残ったギフンとサンウ(パク・ヘス扮)がこんな話をします。サンウは『俺は死ぬほど努力して自分の能力でここまで来たんだ』と言い、ギフンは『俺たちはあの多くの人たちの犠牲と献身でここまで来たんだ』と言います。『この社会の勝者は敗者の死体の上に立っている。その敗者たちを忘れちゃいけない』という意味のゲームなので、この作品のテーマに一番当てはまると思います」

「イカゲーム」スチールカット=ネットフリックス提供

 ファン監督は10年ほど前にこの作品を初めて構想した時とは変わった現実も成功の要因に挙げた。「10年前には難解だという反応が多かったが、その間に世の中が変わり、現実感が生まれてきました。悲しいことに、世の中が変わったことが成功の原因になったんです。ビットコイン、不動産、株といった一獲千金を狙うゲームという素材が共感と関心を呼んだようです」

 ギフンは韓国自動車メーカーの双龍自動車を連想させる「ドラゴンモーターズ」の解雇労働者として登場する。実際の双龍車の解雇労働者であるイ・チャングン氏は、フェイスブックにこれについて触れ、ファン監督に感謝するという挨拶と共に、機会があれば会って話してみたいという書き込みを残した。これについてファン監督は「双龍車を参考にしたのは事実。平凡だったギフンがどのようにしてどん底まで行ったのかを、あの事件を参考にして作ったらどうかと思った」と述べた。

 「資本主義社会では、誰もがある瞬間にギフンのような境遇に置かれる可能性があります。うまくいっていた職場が倒産したり、解雇されることは今でも多いでしょう。ギフンはその後チキン屋をやって破産しますが、いまコロナで自営業者たちが危機に瀕しています。そのような人々を代表する人物として描きたかったのです。ここまでがアーティストとして私にできることで、実際にイ・チャングンさんに会って話すのは別の次元なので、創作者として適切なことなのかどうかは言えません」

 好評一色の国外とは違い、韓国国内では好き嫌いが分かれてもいる。これについてファン監督は「老若男女、世代、人種を問わず皆が好きな作品を作るという野心があったが、韓国ではかなり不評を買っているというので『やっぱり皆を満足させることはできないんだな』と思った」とし、「それでも外国では良い反応が多いと聞いて『意図が受け入れられ、分かってくれた方々がいるんだ』と思った」と話した。

 作品が話題となり、いくつかの議論が起きてもいる。ドラマの中で露出した電話番号に多くの人がいたずら電話をかけ、実際に利用者が被害を訴えたのが代表的だ。ファン監督は「ない番号、安全な番号だとして使ったが、実際にかけると前に010が自動的に付くことを制作陣が予測できなかった」とし、「制作陣が問題解決のために努力していると聞いている。被害を受けた方々には申し訳ない」と頭を下げた。続いて「劇中の口座番号は制作陣のもの。最近通帳に456ウォンがどんどん入ってきていると言っている。その口座も閉じることにした」と付け加えた。

 ドラマの中でハン・ミニョ(キム・ジュリョン扮)が目的のために体で男を誘惑する場面、ゲームを観戦するVIP室にボディーペインティングをした女性の体をインテリアのように活用した場面をめぐり、「女性嫌悪」だという議論も起こった。これについてファン監督は、「ハン・ミニョのシーンは極限状況に置かれた人物は何でもしうるということを見せようとしたものであり、女性を軽蔑したり嫌悪したりする意図はなかった」と説明した。また「ボディーペインティングのシーンもVIPが人をどこまで軽視し道具化するのかを見せるための設定」と説明した。

「イカゲーム」スチールカット=ネットフリックス提供

 グローバルプラットフォームのネットフリックスでなかったら、このような結果は出なかっただろうという意見が出ている。ファン監督も積極的に同意した。「ネットフリックスでなかったら、どこでこれほどの制作費でこのようなものを自由にできたでしょうか?初めてアイデアを聞いて全面的に後押ししてくれたことに感謝しています。全世界同時公開ができるのも大きな利点です。だからこそ一週間でとんでもない反響を受けることができたんです。ネットフリックスとの作品作りは最善の選択でした」

 一方では、いくら大ヒットしてもネットフリックスから最初に受け取った「制作費+α」以外に追加の収益がないという点が指摘されたりもする。「残念じゃないと言ったら人間ではないでしょう。でも、あらかじめ分かっていて始めたのだから、残念がっても仕方ない。いま得ている熱い反応だけでも創作者としてありがたいし、祝福されたことだと思います」

「イカゲーム」を演出したファン・ドンヒョク監督=ネットフリックス提供

 これまで『トガニ~幼き瞳の告発』『怪しい彼女』『天命の城』などの映画を演出してきた彼は、今回の「イカゲーム」が自分に与える意味についてこう語った。「(映画だけやってきて)今回初めてのシリーズものだったんですが、とんでもない成功を収めたので、一生勲章とレッテルとして残るでしょう。負担でもあり、光栄でもあります。これから何をするにしても『イカゲーム』と比較されるでしょうね」

 早くもシーズン2への期待が高いという言葉に、彼はシーズン1を作った当初の難しさを吐露した。「『イカゲーム』を書いて演出・制作する過程は、精神的、肉体的にとても大変でした。最初からこの作品は一か八か、傑作じゃなければ駄作だと思っていたので、作業中いっときも緊張を緩められなかったんです。ストレス指数がずっと100に達していて、歯が6本も抜けました」

 それでも「あまりにたくさんの人気を得たので、シーズン2をやらないと言ったら大騒ぎになりそう」と言い、「頭の中に浮かべている絵はいくつかある」と余地を残した。「まずはアイデアが浮かんだ映画を先に作って、シーズン2はネットフリックス側と話し合ってみなければ。作ることになれば、シーズン1は様々な方向に開かれた形で終えたので、内容についてもっと深く考えなきゃと思います。でもシーズン2を一人でやれるのか、このままでは入れ歯にしなきゃならないんじゃないかって、心配です(笑)」

ソ・ジョンミン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/culture/culture_general/1013046.html韓国語原文入力:2021-09-29 02:38
訳C.M

関連記事