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人工子宮の道開くか…ガラス瓶の中のマウス胎児、心臓が動いた

登録:2021-03-20 07:44 修正:2021-03-20 09:19
妊娠全期間の20日のうち11日まで実験成功 
臓器組織の形成までは初めて…「重大な道しるべ」
回転するガラス瓶の中のマウスの胚芽=ワイズマン科学研究所提供//ハンギョレ新聞社

 40年ほど前に登場した人工授精技術は、不妊夫婦には希望の光になった。しかし、子宮に問題がある場合には、これすらも役に立たなかった。

 科学者はこの問題を解決するために、2000年から人工子宮の開発にも飛び込んだ。人工子宮技術は、特に妊娠によるさまざまな制約と危険から女性を解放させられるという点でも注目を受けた。しかし、依然として目にみえる成果は得られなかった。2017年、米国のフィラデルフィアの小児病院の研究チームが、ヒツジの胎児を人工子宮で4週間育てたことがあるが、このヒツジの胎児は実験開始時にすでに臓器組織を持っていた。

 イスラエルのワイズマン科学研究所の科学者らは17日、マウスの胚芽を人工子宮で育てる実験に成功したと、国際学術誌『ネイチャー』に発表した論文を通じて明らかにした。

 今回の研究の主な目的は、人工子宮の実験ではなく、哺乳類の発達過程で遺伝子の突然変異や栄養素、環境条件が胎児にどのような影響を及ぼすかを調べるためのものだ。しかし、今回の研究で確認された人工子宮技術が将来人間にも適用できるかについても、科学界は注目している。

人工子宮の役目を果たしたガラス瓶/ネイチャー//ハンギョレ新聞社

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7年がかりで開発成功…1000個以上の胚芽で実験

 研究チームは論文で、妊娠5日目のマウスの子宮から250個の細胞に分化した胚芽を取り出し人工子宮に移した後、そこで6日間さらに育てたと明らかにした。

 これは、マウスの胚芽の発達前段階の半分に相当する期間だ。マウスの全妊娠期間は約20日。研究チームは、これまで1000個以上の胚芽をこうした形で人工子宮で成長させたという。

 しかし、研究チームは、論文で明らかにしたこと以上の研究にも成功したと明らかにした。今回の研究を主導したワイズマン研究所のジェイコブ・ハナ(Jacob Hanna)博士は、ニューヨークタイムズのインタビューで、授精数日後ではなく授精当日に雌のマウスの卵管から受精卵を採取し人工子宮で11日間成長させたと述べた。

 今回のように長期間人工子宮内で胚芽を成長させたのは初めて。これまではせいぜい1日か2日程度だった。ドイツのマックス・プランク分子遺伝学研究所のアレクサンダー・マイスナー博士は「この程度まで進んだことは驚くべきこと」だとし、今回の研究について「重要な道しるべ」だと評価した。

 今回の成果は、研究チームが過去7年間、インキュベーターと栄養素および換気システムの開発作業を行った結果として得たものだ。研究チームは、マウスの胚芽をインキュベーターの中の特殊栄養液が入ったガラス瓶の中に入れた。その後、胚芽がガラス瓶の壁につかないようゆっくり回転させた。また、インキュベーターに通気装置をつなぎ、マウスの胚芽に適切な圧力と割合で酸素と二酸化炭素を供給した。

人工子宮での日付ごとの胚芽発達状況/ネイチャー//ハンギョレ新聞社

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胚芽を越えて胎児の段階に…胚盤胞の類似体の培養にも成功

 妊娠期間の半分が過ぎた胚芽発達11日目となる日、研究チームはリンゴの種のサイズ程度にまで育った胚芽を調べた。その結果、実験室の胚芽が生きているマウスの子宮で育つ胚芽とまったく同じ状態であることを確認した。胚芽には、手足、循環系および神経系が正常に発達しており、心臓が鼓動する速度も1分あたり170回と正常だった。胚芽を越えて胎児の段階に移ったのだ。

 しかし研究チームは、実験をここで止めなければならなかった。受精卵より10倍も大きくなった胚芽は、もはや別途の血液供給なしには生存できないほど成長したためだった。これまでの栄養液だけでは不十分だった。ハナ博士は、この障害を越えるのが次の目標だとニューヨークタイムズに語った。彼は、より豊富な栄養液や人工血液を供給する方法を考えている。

 同じ日の『ネイチャー』には、受精卵を使わず実験室で人間の胚盤胞の類似体を培養した二つの研究結果も掲載された。オーストラリアのモナシュ大学の研究チームは、皮膚細胞をリプログラミングした後に培養し、米国のテキサス大学サウスウェスタン病院の研究チームは、胚性幹細胞を培養し、それぞれ胚盤胞に似た立体構造を作った。胚盤胞は授精後数日が過ぎてから形成され、後に臓器や組織となる胚性幹細胞が生じた状態をいう。この技術とイスラエルの人工子宮技術を結合すれば、理論的には、実際の受精卵と子宮がなくても生命体の胚芽の発達過程を研究できるようになる。

人工子宮に入れてから4日目の様子=ワイズマン研究所//ハンギョレ新聞社

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胚芽の研究期間の制限について、生命倫理の議論は不可避

 今回の研究が科学界に投げかける質問は、ヒトにもこの技術を拡張し適用できるのかということだ。現時点では、このような実験を人間の胚芽を対象に行うことはできない。現在の人間の胚芽の研究は、授精後14日まで許されている。研究をさらに進めるためには、この障壁を越えなければならない。ハナ博士は国際学術誌『サイエンス』のインタビューで「臓器組織が発達する過程を見守ることが重要だ」とし、科学者には5週目までは許されればという望みを表明した。しかし、そのためには、生命倫理というまた別の次元の質問を投げかけ、解答を探しださなければならない。

 『サイエンス』によれば、国際幹細胞研究協会は、現在の14日の制限指針を改正する作業を行っており、5月に新たなガイドラインを発表する予定だ。

クァク・ノピル先任記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/science/science_general/987462.html韓国語原文入力:2021-03-19 13:27
訳M.S

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