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[書評]強制徴用が“ロマン”であったという本に出会うなんて

登録:2019-08-11 23:20 修正:2019-08-12 07:42
『反日種族主義-大韓民国の危機の根源』
イ・ヨンフン、キム・ナクミョン、キム・ヨンサム、チュ・イクジョン、チョン・アンギ、イ・ウヨン 著
未来社 (2019)
『反日種族主義-大韓民国の危機の根源』イ・ヨンフン、キム・ナクミョン、キム・ヨンサム、チュ・イクジョン、チョン・アンギ、イ・ウヨン 著/未来社 (2019)//ハンギョレ新聞社

 私たちの社会は今、マルチメディア時代が作り出した一種の「アノミー」 (anomie) を経験している。動画共有サイトとソーシャルメディアには、扇動的で刺激的なニュースや濾過されていない情報が溢れている。常識と非常識、理性と非理性、本物と偽物、真実と偽りが、むやみやたらに入り乱れ「何が望ましい人生であるか」に対する基準が曖昧になっていき、社会共同体を支える制度と規範が揺らいでいる。理念と世代のどちらも極端に分裂して互いに向け嫌悪と怒りをはき出しており、バランスを取るのが難しくなった個人は、方向感覚を失い荒れ狂う波に巻きこまれ、あちらこちらに漂流している。不安、怒り、絶望、無気力、虚しさなど、あらゆる否定的な感情が私たちの社会を支配しており、このような感情は、あたかもウイルスのように恐ろしい速度で伝染している。

 日本との葛藤が高まり、私たち内部の混乱も加重されている。7月初めに日本の半導体核心材料の輸出規制の決定が下されたちょうどその時期、「反日種族主義」という本が登場した。大韓民国の危機の根源が「反日種族主義」だと批判するこの本は、大韓民国が「親日は悪で反日は善であり、日本だけが悪の種族であると感じるシャーマニズム的世界観」に閉じ込められさまよっており、それにより現在の危機が触発されたと解釈する。十分な近代化を経験できずに発生した浅薄な「肉体的物質主義」と、相手を悪と規定して敵対感情を刺激してこそ生き延びることができる「シャーマニズム的種族主義」が、お互いに結合して私たち自らが多くの嘘を作り出し、それを歴史という名前で教えてきたと主張する。華麗な履歴を誇る「大韓民国を代表する知識人」と自称する人々が書いたこの本を読むと、大韓民国の国民であることが恥ずかしく感じられる。大韓民国の国民の口から「安倍首相様、心よりお詫びさせていただきます」(チュ・オンスク、母親部隊代表)という馬鹿馬鹿しい言葉がどうすれば出てこられるのか、その理由を推察させられる。

 3・1運動と大韓民国政府樹立100周年、さらに、日帝強制占領から脱したことを記念する光復節まで残りわずかという時期に「反日種族主義」という本がベストセラーになったという事実は、私たち内部の葛藤がいかに深刻であるかを象徴的に示している。いくらなんでも、日本の植民地支配に対する一般の人々の常識が間違っており、強制徴用に対して「植民地支配の期間に多くの若者が金を目当てに、朝鮮より進んだ日本に対する“ロマン”を自発的に実行しただけ」と主張する本に出合うとは!日帝植民地統治が韓国の経済政治発展の原動力になったという「植民地近代化論」を主張する本が、ベストセラーになるとは!著者らは一生懸命全国を巡って危険な主張をよどみなく伝えており、主要な政界関係者が本に対する甲論乙駁の論争を行い、売上はますます急増している。

 誰でも自分の思想と考えを本にして出版でき、出版の自由は民主主義社会を支える力だ。しかし、マルチメディア時代に表現の自由は危機を迎え、また別の社会的合意が必要な状況だ。「自由はすなわち責任である。だから人々は自由を恐れる」(Liberty means responsibility. That is why most men dread it)。ふと、英国の作家ジョージ・バーナード・ショーの言葉が思い浮かぶ。

ホン・スンチョル BCエージェンシー代表、ブックコラムニスト (お問い合わせ japan@hani.co.kr)
https://www.hani.co.kr/arti/culture/book/905136.html韓国語原文入力:2019-08-09 06:02
訳M.S

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