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演劇界を性犯罪の沼に陥れた、権力と沈黙の共謀者たち

登録:2018-02-20 09:03 修正:2018-02-22 16:26
演劇界に幅をきかせた李潤澤「恥ずかしく惨憺たる思い」 
性暴力暴露後、5日目に謝罪 
性暴行は否定したが「実名暴露」現れ  
被害者「監獄へ行く準備をしろ」憤慨 
 
演出家の影響力、強靭な閉鎖構造 
一度にらまれれば舞台に近づくのは難しく 
性犯罪繰り返されても周りは傍観 
性暴力に鈍感な雰囲気にも責任
元演戯団コリペの李潤澤芸術監督が19日午前、ソウル明倫洞の30スタジオで「セクハラ謝罪記者会見」を行っている間、ある演劇人(右側)が当事者への謝罪を要求するプラカードを持っている=キム・ジョンヒョ記者//ハンギョレ新聞社

 没落の瞬間も一幕の演劇のようだった。“巨匠”、“文化ゲリラ”と呼ばれ、大韓民国の演劇界を代表していた元「演戯団コリペ」の李潤澤(イ・ユンテク)芸術監督(66)は19日午前、ソウル明倫洞(ミョンリュンドン)の30スタジオの舞台に立った。数十年間の演劇生活であびた照明の中で最も強烈なスポットライトが注がれたが、爆発的なカメラの洗礼は彼の演劇人生が終わった瞬間を映すばかりだった。

 相次ぐセクハラ暴露で議論の中心に立った李潤澤元芸術監督は、この日、公開謝罪した。彼は「今まで私から被害を受けた当事者の方々に心からお詫びする。恥ずかしく惨憺たる思いだ」とし、「法的責任を含め、いかなる罰も甘んじて受け入れる」と話した。14日、「劇団ミイン」のキム・スヒ代表が李元監督に“マッサージ”を口実にセクハラを受けたという事実を明らかにしたのに続き、17日には俳優のキム・ボリ氏(仮名)が2001年、2002年の2回にわたって性暴行まで受けたと暴露し、事態が次々と大きくなった。

 彼は“マッサージ”などセクハラの事実は認めたが、性暴行は否定した。「性関係はあったが、性暴行ではない。合意のもとで関係を持った」と主張した。「いっそ法的手続きによって真実が明らかになることを望む。公訴時効が経過しているなら他のどんな方法を通じてでも法の審判を受けたい」と無念さを強調した。彼が否定すると、李元監督に性暴行を受け、その過程で中絶をしたというある被害者は記者会見後、SNSに実名で文をあげ、「2005年に妊娠し、静かに中絶した。中絶の事実を知った先生は私に200万ウォン(20万円)くらいを渡しながらすまないとおっしゃった。その後、しばらくは私に近づかなかったが、その事件が忘れられていく頃、また私に性暴行をしはじめた」と正面から反論した。李元監督は「事実ではない」としながらも、(セクハラを受けた)被害者は何人くらいだと把握しているかという質問には「正直よくわからない」と答えた。

 「劇団907」のソル・ユジン代表は「『性暴行ではなく合意のもとでの性関係』という(李潤澤の)主張は、本人の権力と影響力を十分に活用してきた数十年の歳月を反証している」と話した。匿名を要請したある演出家も「威圧や暴力を使わなかったからと言って性暴行ではないとは言えない。李潤澤が持った権力と地位だけでも、被害当事者には暴力になるという事実をわかってほしい」と話した。

 セクハラが演劇界の慣行のように行われてきたという点で、今回の事件は衝撃波が大きい。李元監督は自分の醜行を“慣習”と表現し、「劇団内で18年近く行われた、生活で慣習的に起きたとても悪い行為だと思う。ある時はこれが悪い罪だとも知らずに犯したかも知れず、ある時は罪の意識を持ちながらも自分の汚れた欲望を抑えることができずにやった場合もある」と話した。李元監督に対する告発が始まった後、演劇界では彼に匹敵する権威ある演出家にセクハラを受けたというまた別の書き込みがSNSに掲載され、有名俳優出身の制作者にセクハラを受けたという告白も続くなど、「権力者」らの性暴力を告発する「MeToo」運動がしだいに広がっている。

 李元監督が20年近く持続的な性暴力を公然と行使することができたのは、主に劇団単位で運営される演劇界の閉鎖的な構造のためという指摘が多い。匿名を要求したある演劇評論家は「演劇俳優たちは学校を卒業すると劇団に入り掃除などの下積みから始めて舞台に上がる。演戯団コリペで李潤澤ににらまれたら舞台に上がることもできず、劇団を出なければならなくなることもある」とし、性暴力問題が発生しても問題提起をしにくい上意下達式の意思疎通構図を批判した。この日の記者会見の15分前、李元監督が国立劇場の劇場長を務めた当時、発声練習を口実に練習室に残しセクハラをしたという事実をSNSに暴露した俳優のイ・スンビ氏は「当時の恋人がその公演のコーラスだったが、その彼も演戯団コリペにいたので(セクハラの事実を聞いても)黙認した」と話した。

 演劇界が力のある演出家一人に絶対的な権力を集中させるピラミッド構造という点も理由に挙げられる。匿名を求めたある演出家は「もし当の劇団を出ても李潤澤のように力のある演出家が吹き込めば他の劇団に入ることができなかったり、オーディションに出ても出演できないことがよくある」と話した。

 公演を準備していると、長い期間共同生活をし、構成員らが気がねなく交わる雰囲気から演劇人たち自ら“芸術”という名のもとで行われる犯罪を認知できないという意見もある。俳優のキム・ボリ氏は18日夜、2回目にあげた書き込みで「李潤澤は私に演技を教えてくれた先生であり、私が通った大学の教授でもあった。単なる演出家ではなく先生であり尊敬の対象だった。それでたやすく暴露することができなかった部分がある」と明らかにした。

 力のある演出家に目を付けられると演劇界で生き残ることができない状況のために、一部は傍観者となったり、セクハラの共謀者になることもある。性暴力に対する問題提起があってもうやむやに終わるため、同じ問題が繰り返されるのもそのためだ。以前にも李潤澤のセクハラに対して劇団員の一部が抗議することはしたが、積極的に止めなかったという。演戯団コリペのキム・ソヒ代表は「私もマッサージをしたことはあるが、セクハラとは思わなかった。性暴力に対する認識は少なく“芸術的な先生”という考えが強くて、このような事態が起こったようだ」と話し、非難を受けた。

 最初に李元監督のセクハラの事実を暴露したキム・スヒ劇団ミイン代表は記者会見を見守った後、「性関係だったと言うその口に糞水を注ぎこみたい。だが、記者会見場で自首をしたことになる。私たちは次の手順を踏む。監獄へ行く準備をしろ」と、法的対応を示唆した。この日、韓国劇作家協会、韓国演劇演出家協会など主な演劇団体は、李元監督を永久除名し、演戯団コリペは解体を宣言した。演戯団コリペの基盤だった密陽演劇村も閉じることにした。パク・サンヒョン韓国芸術総合学校演劇院教授は、今回の事態が「ブラックリスト以上に芸術界を変化させる契機にならなければならない」と話した。

ナム・ジウン記者 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )
https://www.hani.co.kr/arti/culture/culture_general/832766.html韓国語原文入力2018-02-19 22:17
訳M.C

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