2008年の世界金融危機を描いた映画『マネー・ショート 華麗な大逆転』は、マーク・トウェインの言葉として知られる格言で始まる。「厄介なのは知らないことではない、知っていると思い込んでいることだ」。金融危機は、しばしば「今回は(以前とは)違う」という確信の中で生まれた。2008年の世界金融危機の際も、人々は「住宅価格が全国で同時に下落することはない」と思い込んでいた。今、過度な債務を抱えながらも、世界経済が金利上昇に耐え抜けると、あまりにも安易に思い込んでいるのではないだろうか。
2026年10月7日、国際通貨基金(IMF)のゲオルギエバ総裁は年次総会を控えた演説で、世界の公的債務が第二次世界大戦直後の水準に近づいており、2030年以前に世界の国内総生産(GDP)の100%を超えると警告した。IMFの財政モニターによると、2025年の世界の公的債務はGDPの94%に達し、政府の利払い額は4年間で世界GDPの2%から3%近くまで増加した。総裁は特に先進国の債務リスクを警告し、金利が成長率を下回り、成長だけで債務比率を引き下げることができた時代は終わったと指摘した。
■金融引き締めが招いた不安
米国の公的債務はGDPの125%を超えており、日本は230%台だ。フランスでは、公的債務がGDPの120%に迫る中、2027年度予算案発表直後に10年物国債の利回りが2002年以来初めて5%に近づいた。ドイツ国債とのスプレッド(利回りの差)もユーロ圏財政危機以降で最大となる1.5%まで拡大した。緊縮政策に反発するデモに高校生まで加わり、信用格付けが引き下げられたことで、フランスはイタリアよりも高い国債金利を負担することになった。財政悪化と政治的不安が互いに増幅し合う様相を呈している。高まった金利は利払い負担と緊縮圧力を強め、緊縮政策が再び政治的反発を招きかねない状況だ。
さらに懸念されるのは、債務の累積と金利上昇が同時進行していることだ。中東戦争に端を発するエネルギーショックによる物価上昇圧力の高まりを受け、米連邦準備制度理事会(FRB)は9月、3年ぶりに金利を引き上げた。韓国銀行や欧州中央銀行、日本銀行も引き締め方向で対応している。米国、ドイツ、日本の10年物国債の利回りは、それぞれ2007年、2009年、1996年以来の最高水準を記録している。
過去にも、米国の金融引き締めは金融システムの脆弱性を露呈させる重要な契機となってきた。1979年にボルカーFRB議長が急激な利上げを行ってから、1980年代には貯蓄貸付組合(S&L)危機が表面化し、1982年にはメキシコから始まった中南米の外債危機が発生した。1994年の利上げ局面では、その年の末にメキシコで「テキーラ危機」が発生した。その後、ドル高と域内の金融構造の脆弱性が相まって1997年のアジア通貨危機が引き起こされた。2004年からの利上げは住宅金融の脆弱性を露呈させ、2007年のサブプライム住宅ローン問題と2008年の世界金融危機の背景となった。その余波は財政問題と相まって、2010年の欧州債務危機へとつながった。2022年の急激な金融引き締め期には、英国国債市場の混乱や、ガーナなどの低所得国におけるデフォルト(債務不履行)が発生した。さらに、2023年にはシリコンバレー銀行(SVB)が破綻した。危機によって直接的な引き金や経緯は異なるが、債務と金融リスクが蓄積された状態で金利が上昇すれば、脆弱な部門から亀裂が生じるという教訓は共通している。
韓国の一般政府債務は2026年にGDPの54%の水準で、主要7カ国(G7)の平均の半分にも満たない。だが、この数字に安心してはならない。直近5年間の国家債務は年平均9%増加し、名目成長率の1.7倍に達した。IMFは韓国をベルギーと共に、債務比率の「かなりの増加」が予想される国として指摘し、2031年には一般政府債務比率が63%を超えると見通した。基軸通貨国ではない韓国は、対外的なショックが襲った際、資本流出や為替相場の不安にさらされる可能性がある。もちろん、ウォン建ての政府債務を外国通貨建ての外債と同等に扱うことはできないが、債務の増加ペースと対外健全性を併せて検討する必要がある。
■韓国が抱える時限爆弾
さらに大きな脆弱性は民間債務にある。韓国銀行によると、家計と企業の信用を合わせた民間信用は2025年末時点でGDPの198%に達し、先進国と新興国の平均を大幅に上回った。これに政府債務を加えたマクロレバレッジ(債務残高を名目GDPで割った比率)はGDPの2.5倍に近い。家計貸付と販売信用を合わせた家計信用残高は、2026年第2四半期に史上初めて2000兆ウォン(約238兆2600億円)を超えた。GDPに対する家計債務比率が80%台前半に低下したとはいえ、家計の負担がそれだけ軽減されたという意味ではない。債務規模自体は減っておらず、半導体好況と物価上昇に伴う名目GDPの拡大が比率の低下に大きく寄与したためだ。韓国銀行が中長期的な金融不均衡を測る「金融脆弱性指数(FVI)」は9四半期連続で上昇し、韓国銀行は7月と8月に基準金利を相次いで引き上げて3%とした。金利が0.25ポイント上昇するたびに、家計と企業の利払い負担は7兆ウォンずつ増加すると推計される。脆弱な借り手の延滞率はすでに10%を超え、3年連続で営業利益で利息費用さえ賄えない限界企業の割合は19%に達している。家計向け融資全体の延滞率が1%前後だからといって安心できない理由だ。韓国銀行の分析によると、金利引き上げが延滞率に本格的に反映されるまでには9〜15カ月かかる。金融引き締めの代償はそれだけではない。
家計債務の中心には不動産ローンがある。金利上昇と住宅供給の拡大が相まって住宅価格が下落すれば、元利金返済の負担と担保価値の下落という二つの衝撃が重なる可能性がある。もちろん、住宅担保貸付比率(LTV)や総債務元利金返済比率(DSR)の規制などに支えられ、韓国の住宅担保ローンは他国に比べて健全な方だ。ところが、最近の規制では、15億ウォンを超える高額住宅の融資限度額を4億ウォン、2億ウォンと段階的に制限する一方、規制対象外の地域や生涯初の購入者にはLTV70%を認め、庶民向けの政策融資はDSRの適用から除外している。これらの融資にも他の審査要件はあるが、住宅価格や政策支援の対象であるかどうかが借り手の返済能力の代わりになるわけではない。高価格住宅であっても自己資本と所得が十分であればリスクは低くなる可能性があり、低価格住宅であっても所得に対する元利金負担や住宅価格に対する融資比率が高ければ、金利上昇と住宅価格の下落に対して同時に脆弱となる。サブプライム住宅ローン危機の教訓は、低所得・高レバレッジの借り手にリスクが蓄積された際に金融システムが揺らぐ可能性があることだ。住宅価格の安定は重要な政策目標だが、金融安定のための規制は住宅価格だけでなく実質的な返済能力と債務負担を中心に設計されなければならない。価格帯別の融資限度規制だけに依存すれば、肝心の脆弱な部分に抜け穴が生じる恐れがある。
■抜け穴が生じている規制から再整備を
韓国経済は対外依存度と金融市場の開放度が高く、国外の金融不安が実体経済や金融経路を通じて急速に波及する。1997年と2008年がそうだった。それを防ぐためには、外貨流動性を点検し、脆弱な借り手や限界企業に対する先制的なストレステスト(財務健全性評価)を強化しなければならない。庶民や実需者に対する政策金融の役割は維持しつつ、政策融資を含む健全性規制の死角を減らさなければならない。世界的な債務の累積と急激な金利上昇が重なる今、必要なのは「韓国は大丈夫」という思い込みではなく、脆弱な部分を事前に補強することだ。知っているという思い込みこそが次の危機の引き金となり得る。